12月23日:高卒認定は取り扱い注意!
おはようございます。
昨日の分の記事をしれっと今日になって投稿したへいなかです。
ということで本稿は今日の2本目。がんばります。
さて今日は、Twitterで見かけた記事から、僕が指導者として気をつけていたことなどについて。
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先程僕はこんなツイートをしました。
要するに高認と明るい未来を安直に繋げたらアカンよ、というお話。
少し項目分けて書いていきます。
1)高認とは
高校を卒業できなかった人が、ペーパーテストによって高校卒業程度の学力を証明してもらうための試験。正式名称「高等学校卒業程度認定試験」という。
専門学校や大学に進学するには、その入学試験に合格する必要があるが、そもそも入試を受けるためには高校卒業の資格が必要。入試は高校を卒業を前提に行わている。
ところが…なんらかの理由により高校卒業していない者が、進学を考えた時、3年間の高校生活を義務とするのはいろんな意味で不利益なため、「高校卒業」という学歴の代わりになるものとして高認がある。
8〜9科目を受験し各科目で40点以上を取れば合格。
学歴としては中卒だが、「高認取得」という資格が代用されて専門学校や大学の入試を受けることが可能になる。
要するに高認は高等教育(専門学校や大学)に進むための受験資格だ。
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2)試験の難易度
正確な比率ではないが…高認の出題範囲には3割程度、義務教育の内容が含まれている。数学には中3で習う二次関数などが必ず出ている。
科目ごとに合否が出て、所定の科目数を合格することによって高認取得となる。
科目別の合否のラインは40点。30点分は義務教育レベルな上、全問マークシート方式だから、単純に考えれば義務教育の内容をきちんと理解していれば、残りの70点分をすべてエンピツ転がしても合格の可能性は十分ある。
すべての科目を一度に合格する必要はなく、年に2回ある試験で分割して受験することもできる。
要するに学力テストとしては極めてイージーなテストだ。
(念の為に書いておくが、非行少年にとって簡単ではないことは誰よりも僕がわかっている。)
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3)留意点
繰り返しになるが、高認はあくまでも入試のための受験資格だ。学歴にはならない。
それはつまり…
高認取得後に専門学校や大学に進学しなければ、学歴は中卒のままということ。
ただし…
それはあくまでも法的な意味での話。
中小企業の中には採用条件のところに「高卒もしくは高認取得者」と記しているところもある。
「正式な学歴ではないが、うちでは高認取得者は高卒として扱いますよ」ということだ。実態はわからないが、ありがたいことではある。
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4)現場で起きる勘違い
すでに述べたように、高認取得は「高卒になる」ということではない。
高認取得≠高卒
という事実は、意外と学校関係者の間でも知られていない。
それゆえ、「高校行かなくても高卒資格は取れるよ」という説明が誤解を招く。子どもたちに「高認取れば高卒になれる」という意味で理解されてしまう。
これは絶対に避けるべき勘違いだ。
もう一つある。
高認取得=それなりの学力
という勘違いで、こっちの方がタチが悪い。
既述のとおり、高認の出題範囲には3割程度、義務教育レベルのものが含まれている。科目ごとの合格ラインは40点だから、ぶっちゃけた話、高校1年生までの教科書をきちんと理解していれば、余裕で高認取得に届く。
高認は進学への受験資格
高認は40点が合格ライン
高認は義務教育レベルも出題される
これらをきちんと整理すると…
高1レベルの学力で大学受験を夢見る子ども
という状況が生まれ…盛大に受験で爆死する。
もちろん大学や専門学校の中にはそれで合格できるところもあるだろうが…大学受験に苦労した記憶のある方ならば、これがどれほどの見込み違いかは容易に理解できるだろう。
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5)盛大な爆死を生み出す指導者の無慈悲
少年院では資格取得を奨励している。
こちら↑でも話したが、ブルーカラーの職場では資格が必要な場面も多く、また達成感や自信など、資格取得が本人の内面にもたらすものも少なくない。そういう意味で僕も、法務教官時代には資格取得の指導に積極的に関わった。
ただ…
正直な話…少年院の資格取得の現場は必ずしも望ましいかたちとは言い切れない。
学習塾や公務員系の専門学校にもよくあることだが…合格させることが目的になってしまい、「卒業後の人生」への指導やケアを怠ってしまうのだ。
高認取得率を上げるため、進学の素晴らしさを語り、その道を開く手段として高認取得を奨励する。大した学力でもないのに、些細な進歩をおだて、時には高認取得”ごとき”の学力でまるで”頭がいい”かのように勘違いを煽る。
煽ってる本人にもその自覚はないのかもしれないが…結果として「俺は高認が取れた。大学にもイケる!」と勘違いして爆死する。
受験本番で不合格ならまだマシ。
下手すりゃ模試や予備校の授業の時点で圧倒的な実力不足を思い知って自暴自棄になってしまう。仮に合格したとして…その後の授業についていけるかどうかだって課題は多い。
非行少年は非常にあやうい存在だ。震災や津波に襲われたって犯罪しない人が多いこの国だが、非行少年に関してはそれが当てはまらない。普通の人なら一晩ヘコめば済むような話でヤケになって人生を投げ出すこともある。
そんな彼らを高確率で不合格になる状態のまま「がんばって大学行けよ」なんて励ましを送ることがなんと無責任なことか。
塀の中で合格させるには、さんざんおだてるのも1つの手だろう。でも僕はそれを無慈悲だと思う。
高認合格したって、大学進学はなかなかうまくいかない。
僕の知るある少年院出身者は、高卒認定を一発で取得するほど(少年院レベルでは)優秀な奴だったが、その後大学入試のための模試でまったく点が取れずに絶望した。
ただ…少年院の中にごく一部、そうなることを予言してくれた先生がいて、数%、それを覚悟していたから、大崩せずにさらに勉強を重ねて大学に進学できたというのだ。
彼の勉強量は凄まじかった。
時間だけで言えば、そこらの高校3年生よりもよっぽどやっただろう。少なくとも僕の大学受験の時よりやっていたようだ。でも、そんなことそうそうできるもんじゃない。
高卒認定試験は少年院の教育の成果の1つとして積極的にアピールしていく方針だろうけれど…高認をどれだけ取らせたって、再犯率はそこまで変わらないというのが僕の考えだ。
再犯率を下げ、彼らの健全な人生に寄与しようとするなら、高認取得はあくまでも手段の1つに過ぎないと改めて認識する必要がある。
結果として大学に行くかどうかではなく、高認を取得する過程で身についた基礎学力を、教養に昇華させ、彼らの目に映る世界をより立体的で鮮やかなものにしてやるべきだ。
無駄にきらきらした夢を見させて塀の外に送り出すなんて言語道断。
子どもたちに必要なのは学歴もどきではなく社会と向き合うための教養だ。
高認合格ごときで頭がいいなんて思わせちゃいけない。現実をきちんと伝えるべし。その前提として、高認がどの程度のレベルなのかを、まず法務教官が理解しておくべきだ。
無責任に夢を見させるのは、国のためと刷り込んで零戦に乗せるのと似ている。
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放デイのスタッフをしながら、わが子の非行に悩む保護者からの相談に応じたり、教員等への研修などを行っています。記事をご覧いただき、誠にありがとうございます。