通勤中に漂う車内の殺気
あなたは通勤中の電車やバスの車内で殺気を感じたり出したりしたことはないでしょうか?
私はどちらかというと、殺気を出す派の人間です。
例えば前の晩、ものすごく残業で、朝早く出社しなければいけないバスの車内。私が乗車したときにはすでに全ての席が埋まっていたとする。私はつり革に捕まってだるそうにしながら、殺気をムンムンに漂わせる。
「いやいや俺が座るべきでしょう」と。
ワークバランス的に。
昨夜の残業は、自分の仕事の裁けなさが原因だとしてもそんなの関係ない。
「僕の方が疲れてるでしょう、席を譲るべきだ」と。理不尽な論理を脳内でまくしたてる。
時にスマホゲームをしている女子を見つけたときは、ひどい。
集中的に、叫び声を向けている。
「座りてぇ座りてぇなぁ!」と。「5分でもいい、睡眠時間を補わせてくれよ!」と。
あくまで脳内で、、目をつむりながら、、
頭の中のイメージで殺気を向けている。
想像の中でも、自分よりも力の弱そうな人に牙をむく、こしゃくなやつなのである。
「早く誰か降りねぇかなぁ」
ただ、そんなときに限って、降車ボタンは押されない。
つり革につかまったまま目的地に着き、
だるそうに出社し、上司の目を気にして、
一生懸命頑張っているフリをするのが日常である。
ただその分、向けられる殺意には敏感である。
その日はたまたま仕事が早く終わって、なんとなく本屋に寄り、たまったVポイントで本を2冊買って帰った。バスに乗ると運良く座れた。買った本を鞄から取り出し、読み始める。
そして、もう少しで降りる頃だなと感じ、本を鞄にしまった。
その瞬間、向けられる殺気に気づいた。
少し離れた位置でつり革に捕まっていたお姉さんがちらっとこちらを見て、不満そうな顔で目線をそらした。
おそらく本をしまったので、すぐバスを降りると思ったのだろう。しかも、私が読んでいたのは、星野源さんのエッセーだった。ニヤニヤしていた、かなり。はっきりと自分にだけ殺意が向けられているのがわかった。
ただ、残念な事に、目的地のバス停まではまだ3駅ある。
次のバス停を通り過ぎる。
「なんだよまだ降りねぇのかよ」という視線をはっきりと感じた。
マスクをしているが、きれいめのお姉さんだとわかる。多分10歳以上年下だ。
でも、眉間の皺から放たれる殺気に震えている自分がいる。
「体だるいんだよこっちは」
テレパシー能力でもあるのだろうか。その体の揺らし方から考えていることがはっきりわかる。
「まだ2駅あるけど、もう降りた方がいいかもしれない。」
そんな気持ちになっていた。
次が目的地のバス停だ。
次の停留所を告げるアナウンスがあった瞬間、私はすぐに降車ボタンを押した。もしかしたら無意識のうちに連射していたかもしれない。
自分しか降りなさそうだ。頼むから私の開けた席にあのお姉さんが座って欲しい。
そう祈りながら、目は下に向けたまま、お姉さんの方を一度も見ることなく、バスを降りた。