短編|アクションコメディ|日本茶と炭酸でティータイムを -6-
「ロッソ~!」
愛らしい声とともに、突如自身の体に降ってきた重みに驚いてロッソは目を開けた。
体をまたぐようにして金髪の少年が乗っかり、くりくりした金色の大きな目で見下ろしていた。
「んあ? ジネ?」
「いつまで寝てるの? もうお昼だよ」
「バカ。俺は昨日の夜、働いてたんだよ」
「えー? だって昨日の夜番は緑組でしょ?」
「来襲があって、解析結果がパターンΨ(プシー)だったから、急遽駆り出されたんだ」
「またΨ(プシー)?」
最近多いね、とジネストゥラは呟いた。
「いくら緑組の適応範囲が広くても、Ψ(プシー)はちょっとあれだからな──んで、どうした?」
「クッキーの缶、取って欲しくって」
「はあっ?!」
「食料庫にあるの、見つけたの。でも、届かないんだもん」
「脚立を使え、脚立を」
使ったって届かない、とジネストゥラは頬を膨らませる。
ジネストゥラの身長はロッソの胸ほどまでしかない。
「ノーチェとチトセ──は、まだ寝てるな」
面倒見が良いふたりの名を真っ先に挙げ、ロッソは赤髪に包まれた頭をばりりとかいた。
緑組──昨日の夜番だったふたりは、ロッソと同じく朝に戻ったばかりだ。しかも、ノーチェは報告を上げてから寝ているはずだから、下手をすれば部屋に戻ったばかりかもしれない。
「ミルティッロは?」
「ミルティは本に夢中なときは何を言っても部屋から出てこないもん」
「じゃ、アズールは?」
「トレーニングかシュミレーターを使ってると思う。それに、アズールは……」
ジネストゥラはぼそりと小さい声で何か言ったが、ロッソは聞き取れなかった。
「あ? なんだって?」
「届かない」
「は?」
ジネストゥラはロッソの耳に顔を寄せ、声を潜めて気まずそうに言った。
「アズールじゃ、届かない」
「ああ──」
アズールはジネストゥラを除いた五人の中では、一番小さい。小さいといっても、ほんの少しの差で、実際のところノーチェとはそんなに変わらない。ただ、線が細いので他の四人に比べるとジネストゥラの目には実際以上に小さく見えるのかもしれなかった。
「まあ、届かねぇってことはないと思うけどな」
もしも届かなかったとしても、あの身体能力の高さなら別の方法が可能だろう。いずれにしても、アズールに身長のことを言うのは禁句だ。
「ねえ、ロッソ~。おねがい❤」
最年少のせいか、あの大鎖鎌の分銅を軽々とぶん投げるせいか、理由は定かではないが、メンバーはとにかくジネストゥラには甘い。しかも、本人もそれを十分に分かっていて、利用するのだ。──あざとい。が、しかし、ロッソも例外ではない。
「ほら。行くぞ」
ロッソはジネストゥラの体をどかし、寝癖のついた頭にTシャツ姿のままで部屋を出た。
食料庫でお目当てのクッキーの入った缶を降ろしてやると、食堂で一緒に食べよう、とジネストゥラが誘う。
あいにくロッソはクッキーのような甘い菓子に興味はなかったが、腹が減っていたので何か食べようと思い、ジネストゥラと連れ立って食堂に向かった。
その途中、ちょうどシャワールームからアズールが濡れた髪を拭きながら出てきた。
「ほらね?」
ジネストゥラが得意げに笑う。
「アズール! 今日はトレーニング? それとも、シュミレーター?」
「トレーニングのあと、シュミレーター」
「──お前、今日のシュミのスコアいくつだった?」
ロッソは先日、最高スコアを更新したばかりだった。
「17522」
その瞬間、ロッソは顔色を変えた。
「ロッソ、負けたの?」
「……」
アズールが口元をちょっと引き上げて笑う。不敵な笑みだ。アズールがこうやって笑うのは、ロッソにシュミレーターのスコアで勝ったときだけだった。
「アズール、飯食ったらシュミレーターつきあえ」
ロッソはアズールの返事も待たず、肩に手を回して強引に食堂に連行する。
「……一万七千なんてばかみたいなスコアだしてるの、ふたりだけだよ」
ジネストゥラはじっとりした目でふたりを見て、苦々しく呟いた。
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