短編|アクションコメディ|それぞれの正念場 隊長指揮下の天真爛漫組の場合-22-
端末で位置を確認しながら全速力で駆けて、ノーチェら三人は二体のグリュプスの元に戻った。三人の姿を見つけると魔物達は早速飛び上がり、獲物を狩るために上空を円を描くように飛びながらタイミングをうかがいはじめる。
代わる代わる滑降してくる二体のグリュプスを幾度も避けながら、ノーチェが弾丸を撃ち込み、ジネストゥラとロッソは三日月型の刃と大斧の先端についた槍の穂先を突き出す。ノーチェの弾はかなり当たっていたが、ジネストゥラとロッソの大型武器は素早いグリュプスを捉えることがなかなかできなかった。
「あまり弾が効かないタイプのΧ(キー)だな」
ノーチェはいまいましげに独り言(ご)ちる。
飛び回る魔物を落としやすいのは射程があり、なおかつ小回りがきく自分であるのに、敵はノーチェの攻撃が全く効かないパターンΨ(プシー)と、未解明な部分が多いパターンΧ(キー)だ。Χ(キー)はストーンのカラーではなく、斬撃や打撃、弾丸などの攻撃手法によって与えられるダメージが異なるが、どうやら今回のパターンΧ(キー)は弾丸のとおりがあまり良くないタイプのようだった。
落としてしまえさえすれば、ここにいるのは攻撃力の高いロッソとジネストゥラだ。あとはさほど苦労するわけがない。なのに、それができない。
十分ごとに鳴るようにセットしてあるアラームが二度目の音を鳴らす。
シェルターの空気残量の面からは残された時間は三十分少々しかないし、一刻も早くケーラーを始末しなければ医療チームが入れない。
ノーチェが自分が囮(おとり)になることを提案しようとしたとき、不機嫌そうな甘い声がひびいた。
「あー! もう! 避けるのメンドクサイ!」
じれているのは当然ノーチェだけではなかった。
苦手な回避に徹していたジネストゥラが、とうとう痺(しび)れを切らしたのだ。動きやすいにように柄尻と分銅をつなぐ鎖を手に巻きつけていたのにそれを外し、分銅を地に降ろす。
彼のしようとしていることに気がついたノーチェはあわてて叫んだ。
「ジネ、それΨ(プシー)だ! 避けろ!」
ジネストゥラに狙いを定めたペイントのついていないグリュプスは、パターンΨ(プシー)だ。Ψには黄色のストーンがはまったジネストゥラの武器による攻撃は、ぎりぎり通るぐらいでしか有効ではない。
なのに、ジネストゥラは急滑降し、爪で引っかけて肉を抉ってやらんとするグリュプスの攻撃を全く避けようとしなかった。
それどころか猫のような大きな金色の目をかっと見開いて、正面から渾身の力をこめて分銅をぶん投げた。
「僕は急いでるのっ!!」
力と力が正面衝突する。
がいん、とおかしな音がして物凄い速さで滑降してきたグリュプスの鼻っ柱に分銅が直撃し、まさに打ち落とされたように地に落ちる。横倒しになった魔物はぴくぴくとライオンの足を痙攣(けいれん)させていた。
一方のジネストゥラは反動でのけ反って、ぽすんと尻餅をついた。その拍子にかぶっていたパーカーのフードがはらりと脱げる。ダメージはその程度だった。
「ロッソ~! 落としたよ!」
これがまさに火事場の馬鹿力というやつだろう。
不覚にも呆気にとられていたロッソが慌てて大斧を力いっぱい振り下ろす。
パターン不適合武器の特攻を受けたケーラーは、最大火力の適合武器によってあっさりととどめを刺され、あっけなく消え去った。
それを見ていたノーチェは思わず笑みをもらし、ロッソの肩を叩いた。
「ロッソ、上げて。撃ち落す」
「上げる?」
灰色の目は上空をゆるやかに旋回しながら、慎重に様子をうかがっているもう一体のグリュプスに向けられていた。
「この前、シュミレーターでやったやつ」
「お前、できなかったろ」
「踏み切りのタイミングと角度を計算し直したんだ。だから、絶対やってみせる」
計算し直した、という言葉にロッソはうへえ、と変な声で感想をもらしたものの、言われたとおりに大斧の刃を後ろにして水平にかまえた。
「おらよ!」
ロッソが振り上げた刃にのったノーチェは頂点で蹴り、跳んだ──というより、飛んだ。
空を飛ぶパターンΧ(キー)のグリュプスタイプの胴体をまたぐように乗って、襟首をつかみ、至近距離で弾倉と薬室に入っていたすべての弾丸を撃ち込む。ギャッと鋭く抗議の声をあげて魔物がバランスを崩した瞬間、ノーチェは蹴り落とすように踏み切ってふたたび跳んだ。
勇壮な姿がうりのはずであるグリュプスタイプの魔物は、無様に回転しながら落下する。
「ジネ! ロッソ!」
宙で一回転して勢いを緩和させ、軽やかに着地したノーチェが声を上げた。
「りょーかいっ」
「任せろ!」
ネストゥラが投げる剛速球が鉤爪(かぎづめ)のようなクチバシを折り、ロッソの大斧が鷹の羽を斬り砕く。ロッソは逃すまいとばかりに、さらに何度も巨大なアックスを振り下ろした。フルボッコである。
CSFの誇る主力二人の容赦ない攻撃をうけたグリュプスは見るも無惨な姿になり果てて、すうっと姿を消した。
「うし、次はあいつだな」
折りよく姿を現した新手のケーラーをにらみ、不敵な笑みを口元に滲ませたロッソの姿は、完全に悪役のそれだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?