世間的に正しいとされるものを無条件に信じ続けてはいけない

「とにかく安定した職に就け。公務員になればクビになる心配はないし給料も一定量はちゃんと支払われる。食いっぱぐれる事は絶対に無い」

親からこういう事を言われるようになったのは、果たしていつからだっただろう。
私が生まれつきの身体障害を抱えてる事や、父が会社に勤めてはいれど常にリストラされる恐れを抱えている事、職業で人を見る田舎特有の空気、色々な要因が重なった結果、頻繁にこう言われ始めた。
私自身、特にやりたい事は見つからなかったし、病気持ちの自分でも勤められるならとやる気を出して目指した。いや、目指そうと頑張った。頑張ろうとした。

しかし、疑問が湧いた。確かにやりたい事は無いが、これが自分に相応しい職業なのか?そもそも公務員って一口に言うけど具体的に何になれば良いんだ?とりあえず事務員を選べば机仕事しかしなさそうだから楽そうだし、それにすれば良いのか?
よく分からなかったが、親の言う通りにしようとした。他に何も思い浮かばなかったし、考えるのが面倒くさかった。親がそう言うなら、そうなのだろう。

だが、そんな事でモチベーションが続く訳が無かった。
自分は極度の面倒くさがり屋かつ、遊ぶ事しか頭に無い人間だった。勉強しろ勉強しろと親が散々言ってきたのに聞く耳を持たなかった。結局、偏差値の低い高校に行く時すら伝を頼って家庭教師を付ける事で何とか合格できたくらいに、勉強に関心が無かった。

学校の勉強に必要性を見出せない人間に「お前はこれをやれ。これを目指せ。これを一生の仕事にしろ」と押し付けても上手く行く筈がない。高校に進んだ際、卒業が迫ってからも何もしようと思わなかった。当然成績は悪かったし夢も見つからなかった。
さて、どうするかと資料室に出入りして進路を探していた先で、公務員になるための専門学校がある事を知った。二年制で都市部に居を構える学校だ。他に行き先も分からないし親も煩いしで、ここにしようと決めた。
さすがに今回ばかりは危機感を覚えていたので、進学した先では真面目にやろうと思ってはいた。とりあえず何かしら学んで就職できるだろうと。

結論から言うと、駄目だった。当たり前の話だった。
そんな甘い考えで今までサボってきた勉強を頑張れはしない。クラスに馴染めず、授業は話半分で聞いて、放課後は都市部なのを良い事に町を散策三昧。オタク趣味だったのでアニメイトや虎の穴に入り浸ったり、巨大デパートの中の本屋で気ままに本を読む毎日だった。
当然、そのまま何もせず二年間をただ無駄に過ごし、他の皆が立派に職を見つける中で、自分だけ何の成果も挙げられず卒業するしかなかった。それがもう十年以上前の話だ。何の意味もないような卒業証書を貰って、何の感情も沸かないまま途方に暮れて虚しく家に帰ったあの日の事を今でも覚えている。

学校側が用意した色々な試験に行かされる度に直面する作文や面接があり、それに遭遇する度に私は頭を抱えた。
「貴方は仕事を通してどの様な職員になりたいですか?どう能力を活かしますか?国民とどの様に関わっていこうと思いますか?」
国家か地方かで細部は異なるが、概ねこの様な事を聞かれた。この時点で、こりゃ無理だ、と私は思った。楽さえ出来れば良いと甘い考えを抱く人間に、こんなものに対する答えがスラスラと出てくる筈がない。

当時を振り返る度に思う。私はもっと自分の行く末に真剣になるべきだったと。親が言うままに脳死で選ぶべきではなかったと。この方が楽だからと、何も意見を挟まず自堕落に生きるべきではなかったと。
そのツケを今になっても支払っている。お陰で宙ぶらりんだ。何処に行って良いか分からない。

もし学生時代の自分に会えたら言ってやりたい。
「お前、その先に行っても何も無いぞ。いい加減に目を覚ませ」と。

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