スキルやキャリアの棚卸しとはどういうことか

はじめに

今回は「スキルやキャリアの棚卸しとはどういうことか」というテーマで書きたいと思います。このテーマについて考えるきっかけとなったのは、井上大輔(@pianonoki)さんの次のツイートでした。

「スキルの棚卸しとかキャリアの棚卸しっていまいちピンとこない」という箇所に私は強く共感しました。

スキルやキャリアの棚卸しとは何か

 そもそもスキルやキャリアにおける棚卸しとは、一体何を意味しているのでしょうか。

スキルやキャリアの棚卸しをGoogleで検索する(ググる)とわかりますが、これらの棚卸しが利用されるのは、主に転職活動です。これらの棚卸しによって発見されたスキルやキャリアのリストは、履歴書や職務経歴書の作成、面接でアピールするトピックスとして役立てられることになります。

スキルやキャリアの棚卸しと通常の「棚卸し」の差異

 しかしながら、通常の「棚卸し」にあって、スキルやキャリアの棚卸しにはないものがあります。それは差異のチェックです。

 通常の「棚卸し」であれば、これはリストアップする段階ではなく、すでに記録された帳票に従って現状の在庫の数量を確認するプロセスを意味します。

 これに対して、スキルやキャリアの棚卸しの場合は、それらを確認する以前に、リストを作成する段階に位置しています。つまり、スキルやキャリアの棚卸しは、そのフローからみると、通常の「棚卸し」よりも前の段階にとどまっていると言えます。

 したがって、スキルやキャリアの棚卸しというのは、実は「棚卸し」の誤った用法ではないかと私は考えます。

スキルやキャリアの棚卸しにおける量と質

 通常の「棚卸し」は、具体的には現状の在庫の数量を確認する行為なので、それはの問題に還元されます。

 しかし、スキルやキャリアにおいて重要になるのは、量ではなく、むしろなのではないでしょうか。もちろん弁証法的に「量が質に転化する」という言葉もあるぐらいなので、両者がまったく別物だとは思いませんが、それらの意義は明確に異なっています。

例えば、TOEIC〇〇点のように数値化されていれば、採用活動においては求職者同士を比較することが可能になるので、より高い点数の求職者を採用するということが可能となります。このような数値での比較は、転職活動だけでなく社内の昇進の場合にも当てはまります。しかし、ややシビアな言い方をすれば、量に還元されるものは、より優れた者が現れるならば、人材は容易く代替(リプレイス)されうるということです。

 一方、スキルやキャリアにおけるはどうでしょうか。数量は比較がしやすいですが、質を比較することは容易ではありません。というのも、質は個々の指標の数値の総和以上のものを意味しているからです。窒素・リン酸・カリ等々のレシピを組み合わせたところで人間という生命体が容易に生まれないのと同じく、身体テストや知能テストなど各指標の数値の総和でその質を表現することにはならないからです。

おわりに

 今回は、スキルやキャリアの棚卸しついて、これが意味するところと、通常の「棚卸し」の差異について確認した上で、それを量と質の側面から考察しました。

 スキルやキャリアの質の側面については、何らかの体験やエピソードのような物語の方が、それを上手く表現できるかもしれません。そしてそれを引き出す方法は、他者との対話を通じてその人固有の経験の無意識の記憶を想起させ顕在化させることでしょう。これをフロイト風に表現するならば、スキルやキャリアの精神分析だと言えるかもしれません。

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