ヴェイパーウェイブからシティポップへ——〈ノスタルジア〉としての音楽

 最近、杏里「SHYNESS BOY」という曲が特に気に入っていて、スマートスピーカー(Google Home mini)からこの曲が流れると思わず体が反応することがわかる。この曲が収録されているアルバム『Timely!!』がリリースされた1983年といえば私が生まれるおよそ6年前であり(私が1989年生まれのため)、普段であればそんな古い曲を聴くことはない。聴くとしたら90s以降の曲である。

 音楽はYouTube MusicをGoogle Home miniと連携して流している。YouTube Musicのいいところは、そのアルゴリズムによって最初に自分が選曲して流した音楽と関連がありそうな曲を自動で連続再生してくれる点にある。杏里「SHYNESS BOY」も、その関連がありそうな曲の一つとして再生されるまでは知らなかった。

 どうしてYouTube Musicがこの曲を流したかというと、木澤 佐登志「ミレニアル世代を魅了する奇妙な音楽「ヴェイパーウェイブ」とは何か」『現代ビジネス』(2019.02.07)という記事を読んで、そこで紹介されていたNight Tempoがリミックスした竹内まりあ「Plastic Love」に興味を持ち、YouTube Musicでこの曲を流していたことに端を発する。木澤さんは「ヴェイパーウェイブ」とオルタナ右翼との親和性について言及しており、筆者としては今取り組んでいる音楽思想史をまとめるにあたって、この潮流は無視できないものと思われた。

ヴェイパーウェイブは、その蒸気(vapor)の魔力によって80年代〜90年代生まれのミレニアル世代を惹きつけ、ついには一部のオルタナ右翼をも魅了するに至る。もはや輝かしい将来を想像すらできず、未来を「喪失」としか捉えることができない人々に向けて、心地いいノスタルジアの癒しを提供している、とも考えられる。
…(中略)…
一言でいえば、80~90年代の商業BGMを実験音楽の手法で再構築したのがヴェイパーウェイヴといえよう。
木澤 佐登志「ミレニアル世代を魅了する奇妙な音楽「ヴェイパーウェイブ」とは何か」『現代ビジネス』(2019.02.07)

 この「ヴェイパーウェイブ」が70sから80sの音楽の再生(ルネサンス)に一役買っている。それがシティポップと呼ばれる潮流である。


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