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Dare#7 「未確認飛行物体」|UFO FEVについて
UFO FEVは、ここ数年の怒涛の制作ペースと様々な経験を経て、徐々に知名度を上げてきたプエルトリカンのMCです。
"バリオ"の土壌における、Hip Hopとラティーノの結び付きは、サウスブロンクスを起源とするHip Hop文化の黎明期から脈々と続いています。
プエルトリカンとしての誇りと、挑戦への歩みを止めずに飛躍し続けるアーティスト、UFO FEVの背景について追っていきたいと思います。
UFO FEVのプロフィール
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UFO FEV(本名:Anthony Ortiz)は、ニューヨーク・マンハッタン区、イーストハーレム出身のMCです。
イーストハーレムは、いわゆる「スパニッシュハーレム」と呼ばれる地域で、プエルトリカンを中心に、近年はドミニカ系やメキシコ系移民等、ラティーノたちが数多く住んでいる街です。(彼らは、自分たちの居住区の事を"El Barrio(エルバリオ)"とも呼びます)
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FEVは、イーストハーレムの115丁目、1番街にある、「Thomas Jefferson Houses」というプロジェクトで生まれました。
彼の血筋のルーツは、祖父母がプエルトリコ出身で、1950年代にイーストハーレムに移住してきたそうです。
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FEVの父親は、80~90年代に活躍したラテンフリースタイルグループ、「TKA」の"Tony Ortiz"。
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Tonyは、貧しい環境のバリオで生まれ育ったFEVに、教育を与えることに力を注いでいたそうです。
ドラッグディーラーがひしめくコーナー、ストリートのバスケコート、アパートメントの窓際・・・街の至るところで音楽が流れる環境の中で育った彼は、15歳の頃からラップを始めました。
また、今年4月に腎不全でこの世を去った、ベテランMCの"Black Rob"とは親子共に仲が良く、同じプロジェクトに居住していました。
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FEVの小学校の送り迎えをしてくれるほど、幼少期から親交が深く、"FEV(=Fever)"という名前も、Robが名付けの親だそう。(ちなみに、"UFO"は、「自分自身の知識」からきた名前らしい)
FEVの尊敬するプエルトリカンのラッパーは、Big Pun、Fat Joe、Noreaga、Jim Jonesといった大御所勢の他にも、Eto、Nems、Spanish Ran、Termanology、CJ、J.I the Prince of NY等の名前を挙げています。
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Fat Joeも惚れ込む才能
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FEVは、伝説的なHip Hopグループ、「D.I.T.C.」や「Terror Squad」に所属する"Fat Joe"と、2017年にパートナーシップ契約を結びました。
2016年に、Terror Squadのプロデューサーである、"Cool&Dre"のDreを通じて2人は出会いました。
その後、JoeはFEVのメンターとなり、彼を自身のライブのサイドMCとして起用する等、相当な期待を寄せています。
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FEVにとってJoeは、「必要とする時に相談役となってくれる存在」と話しています。
その言葉通り、FEVは自身の「The High Enterprise」を軸とした活動を自由に行いつつ、様々な経験値を積むことができているようです。
Joeは、海外ツアーでの大きな舞台やNasと彼の引き合わせ・・・等々、FEVに様々な経験を与え、弟分の様な存在としてかわいがっています。
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UFO FEVの作品
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FEVの存在は10年程前に、"Doug E. Fresh"の息子たちを中心としたハーレムのグループ、「SQUARE OFF」との曲を通じて知りました。
このMVでは、まだあどけない、若かりし頃のFEVの姿が拝めます。
当時は、ハーレム出身のラッパーという位の認識しかありませんでしたが、今と変わらぬスムースなRapが印象的でした。
以降、2010〜2011年頃までのMixtape作品は、気に入ってよく聴いていました。
Flight 115(2010)
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3:10 To Prop(2011)
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Toast To Sinatra(2011)
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Voted Most Likely To Succeed(2011)
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この辺りからは、あまり動向を追わなくなりましたが、どうやらブランクがあった後に活動を本格化させたようですね。
Take Me To Your Leader(2012)
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Around My Way(2015)
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Blue Room Sessions(2016)
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Taxes(2016)
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Camouflage(2017)
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この辺からFEVは、プロデューサーとの共同作品を多数リリースするようになりました。
Sunsets in Bali(2018)
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Basic Instructions Before Leaving Earth(2018)
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友達から、「久々にFEV聴いたけどカッコよかった!」と教えてもらったのがこの作品。
「Camouflage」に続き、"BackPack Beatz"を再度起用しています。品の良いキレイめなブーンバップが並ぶ完成度の高いEPです。
「Jazzy」のMVには、Fat Joeもカメオ出演しています。
Abduction(2019)
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Emigres(2019)
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Fresh Air(2020)
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巨匠、"Statik Selektah"がフルプロデュースしたこの作品は、"A Tribe Called Quest"の「Midnight Marauders」にインスパイアされて作ったそうです。
Statikとは、同じプエルトリカンの血の通うMC、"Termanology"を通して知り合い、親交を深めました。
Statik色全開の解放感のあるジャジーなビートが、全編を通してFEVのラップスキルを引き立てた良作です。
From El Barrio, With Love.(2020)
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Statikとのコラボの後には、程なくしてTermanologyプロデュースのEPもリリースしています。
The Ghost Of Albizu(2020)
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昨年の最後のリリースは、"Big Ghost Ltd"との「The Ghost Of Albizu」です。
とあるフォロワーがInstagramでコメントをしたことがきっかけで、Big Ghostがそのアイディアを気に入り、コラボが実現しました。
ジャケットのアートワークもBig Ghostが手掛けています。
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本作は、プエルトリコ独立運動の主導者で、社会活動家だった "Don Pedro Albizu Campos"へのオマージュを込めているそうです。
黒人がブラックナショナリズムに言及するように、プエルトリカンであるFEVが、プエルトリコの歴史的背景を作品コンセプトとすることに大きな意義を感じます。
Big Ghostによる、民族性を反映したようなタフなブーンバップサウンド(ブルックリンっぽさも感じたり)と、FEVのキレキレなハードスピットがベストマッチした完璧な仕上がりです。(何回もリピってました)
The Thrill(2021)
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Magnum Opus(2021)
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この作品は、ブルックリン出身の"Ster"なるプロデューサーがフルプロデュースした作品です。
タイトルは、ラテン語で「最高傑作」を意味し、FEVの多様な音楽性が洗練された、非常にメリハリのある逸品でした。
2017年から温めていた本作には、次点の高みを目指す彼のハングリーな熱量が伝わってきます。
Enigma of Dali(2021)
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ペンシルベニア州、フェニックスヴィルのプロデューサー、"Vanderslice"を起用したこの作品は、シュルレアリスムを代表するスペイン人の作家、”Salvador Dalí”からインスピレーションを得たそうです。
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ジャケットカバーの裏にもダリ自身の写真を使用しています。
Vandersliceも、2010年頃からビート集等何作か聴いてましたが、相変わらずのド変態なプロダクションで、まさか2021年にFEVとコラボするとは夢にも思っていませんでした(笑)
Vandersliceとも2017年頃に出会ったようなので、FEVにとって現在の活動の基点となる重要な年だったようです。
The Most High(2021)
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そのVandersliceを間髪入れずに起用した、2作目の作品です。
FEVの初期作品から連れ添う長年の相棒、クイーンズ出身の"Red-Inf"の名を添えています。
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Prayer, Weed & Music(2021)
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今年だけで5枚目(ヤベーな)の作品となる最新作は、"Statik Selektah"、"Wavy Da Ghawd"、"Berto"、"GETLARGE"、"Frankie P"、"Backpack"、"Qwan"らをプロデューサーに起用し、"Red-Inf"、"1 Shot Dealz"、"Anoyd"をゲストMCに迎えています。
客演陣も全員ラップがカッコいいし、StatikのビートでAnoydとスピットを交えた一曲も相性抜群です。
ベタベタなネタ使いの「Me」で、声を上げて歌っちゃうFEVもなんか可愛げがあります(笑)
FEVは、相対的に偏りなく、様々なカラーのビートでラップをこなす器用さと、その多様性が持ち味だと思います。
作品を生み出す上で「エネルギー」を重視する彼は、特定のプロデューサーとのコラボ作品を軸とし、互いを理解し合うことで生まれるシンクロニシティに価値を見出し、ビジネスにおける有用性についても語っています。
"ハイ"に保つメンタリティ
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FEVは、生活の中から得られるインスピレーションを非常に大切にしていると言います。
彼は自分を過大評価せず、他のアーティストと自分を比較して、追いかけるようなこともしません。
的確な自己認識を行い、身の丈に合わないこともしませんが、自分の立ち位置をよく理解し、段階を踏んだ上での決断力を持ち合わせたアーティストです。
FEVにとって音楽は、幼少期の貧困を癒してくれた存在であり、自分の伝えるべきメッセージに対して、真摯に向き合っています。
そして、MCとして他者に認められることの難しさが、彼にとって最大の壁と言います。
音楽を通じて表現する、ストリートの現実や自身の経験、自分がやりたい・やるべき音楽に忠実であることで、現在のFEVが在ります。
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また、2人の娘の親としての顔も持つ彼ですが、音楽と家族、それぞれとの向き合い方にも温かい人柄を感じます。
FEVは今後、音楽以外では作家になることを目標に掲げており、これまでも自身のMVの監督と脚本もやってたりします。
アーティスト・ビジネスマンとして高みを目指し、成長し続ける飽くなき挑戦者、UFO FEVの動向にこれからも注目したいと思います!
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