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Dare#3「宿命を背負うダークヒーロー」|Dark Loについて
Dark Loのプロフィール
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ペンシルベニア州ノースフィラデルフィア出身の39歳のMC、Dark Lo(本名:Charles "Rahson Theron" Salley)は、若い時期の多くを刑務所で過ごした筋金入りの"The Crook(悪党)"で、本格的なキャリアは2010年以降ながら、才能を見出したアーティストでもあります。
Loの特徴といえば、トレードマークの長く伸ばしたあごヒゲ(ムスリムの象徴)、咆哮の様にガナり立てる迫力のある声で、冷たくザラついたビート上に叩き付けるハードなラップスタイルです。
Loは、8月に自身の罪の有罪判決によって7年半の禁錮刑を受け、今月後半から刑務所に入る予定です。
同胞、AR-ABについて
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Dark Loを語る上で外す事のできない、"AR-AB"の存在についても少し触れたいと思います。
同じくフィラデルフィア出身のMC、AR-ABは、Loを音楽活動に誘い入れ、OBH (正式名称:Original Block Hustlaz)というレーベルを共に立ち上げました。
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AR-ABは古くは2000年代、Cassidyのクルー「Larsiny Family」にも所属しており、当時はまだアングラ界隈で暗躍していた、French Montanaの"Cocaine City DVD"にも出演していました。
2016年には、大手レーベル「Cash Money Records」との契約も果たしていますが、作品はリリースしておらず大きな動きはみられませんでした。
2010年代のDark Loの動き
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2010年初期のDark Loの過去作品は、Mixtapeを中心に、datpiffで聴くことができます。
2011年、AR-ABバックアップの「Life Of A Crook」を皮切りに、2013年に続編「Life Of A Crook vol.2」、「Sk Tales」を出すと、それ以降活動が加速していきます。
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翌、2014年に「Ron Harvey Jr. Mixtape」が出され、同年、V.Donの作品にも2曲フックアップされています。
2016年のJ Leegzとの共作、「For Da Fuck It Music」、「Darkaveli,Vol.1・2」辺りまで、ダーク色の強いトラップ系統が多い印象。
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2017年の「The Testimony」と2018年の「Bucketlist」をリリースした後、V.Donとの強力なタッグ作「Timeless」をリリース。
この作品には、Benny The Butcher、Etoのアップステイト陣と御大Roc Marcianoもフューチャーされ、ネームのある外部客演も相まり一気に注目度が高まります。
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2019年にダークの代名詞、Da ClothのRigzとの「Head Shots」で重たく冷徹な共同戦線を築くと、次作の「American Made」では、アメリカにおける黒人社会の問題に切り込み、ソウルフルでタフネスなトラックも乗りこなしてみせます。
また、昨年はシングル2枚からの延長で(なんか3部構成みたいになっていましたが)、V.Donとの2作目「The Prophecy EP」もリリースしていました。
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OBHの一斉摘発
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順調にみえたDark Loの音楽活動でしたが、その動きに影を落とす事件が起きてしまいます。
所属するOBHに、2017年頃からFBI捜査のメスが入り、2018年にメンバーや関係者9名の大規模な逮捕劇が巻き起こりました。
OBHの実態は、音楽レーベルの傍ら、ギャングチームによる組織的な麻薬カルテルであったとされ、ハードドラッグの売買に加え、殺人罪等の容疑で次々とメンバーが起訴されました。
ドラッグロードであり、OBHのリーダーだったAR-ABは、45年の懲役刑を受け収監中です。(Max Bばりの重刑ですね、、)
正に、ギャングスタムービーさながら。
Ron Harveyからの手紙
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Loは、OBH事件での起訴を免れていたにもかかわらず、この事件の証人(取り巻きの一人)に対して脅迫文を送ったとして、「American Made」のリリース直後の2019年11月に「証人買収」の疑いで拘留されました。
その時の差出人名を、自身が好んで使うネームの一つである「Ron Harvey」として送ったようです。(Ron Harveyについて興味のある方は「Ron Harvey Black Mafia」等で検索してみてください)
きっかけの一つにもなった楽曲がこちら。
Loは、過去に犯した過ちを悔い改め、アーティストとしての才能を磨き、地元でもアンチ・バイオレンスのスピーカー活動等も行っていたと証言されましたが、判決が出るまで1万ドルの保釈金を支払い釈放されました。
余談ですが、彼は複数の持病に悩まされている状態でコロナにもかかったそうなので、そっちも心配ですね。。
保釈中のDark Loの動き
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今年の初め頃に、一時保釈の身となったLo。
残された時間を無駄にできないと考え、今年中に4枚のアルバムをドロップすべく、日々楽曲制作に励んでいたようです。
5月にドロップした一発目の作品は、Harry Fraudとの共作、「Borrowed Time」です。
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タイトルはそのまま、"借りモノの時間"(保釈期間)を意味し、Concepcionの手掛けるカバーアートも砂漠で身体の自由を奪われたLoの姿が描かれています。(砂時計の砂が落ちていく様な描写が秀逸)
この作品は、Harry Fraudお得意のドラマチックでメロディアスな上ネタに絡む、特有のドラムの打ち込みは勿論、中東の情景や砂漠の熱気の様なヒリついた緊張感を感じることができます。
客演の38 SpeshやAR-AB、Boldy Jamesも作品にばっちりマッチした人選となっています。
Loのハードコアなラップが、Fraudビートと絶妙に溶け合う、個人的にもかなり好きな一枚です。
続く7月には、V.Donとの3作目のコラボ、「Charlie Pope」が発表されました。
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「誤解しないで聞いて欲しいけど、Harryとのプロジェクトもクレイジーだが、俺とV.Donの相性は完璧だ」と力説する程、V.Donに対する信頼は厚く、作品からも2人の強固な結束を感じました。
V.Donは、今やアルケミストにも劣らぬ、至極の"ケミストリーサウンド"の体現者だと勝手に思っていますが、本作もかなり"ドープ"で"黒め"な印象です。
最新作、"Extreme Measures"紹介
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90年代から現在に至るまで、その悪名を語り継がれるレジェンダリーデュオ、"The Infamous" Mobb Deep(R.I.P PRODIGY)の片割れ、Havocとの共同作品が"オツトメ"前最後のリリースとなりました。
Havocもこのコラボ作品に対して非常に意欲的で、Lo自身も「Mobb Deepは自分のラップアイドルだったから、このプロジェクトを光栄に思う」と語っており、今回、夢のコラボが実現した形になります。
リリースしたばかりということで、簡易レビューと合わせて紹介していきたいと思います。
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1. Mob Tales (feat.Havoc)
リードシングルとして発表された1曲目。
おどろおどろしく地を這う様なループトラックに、Havocの落ち着き払った貫禄、Loのソリッドなヴァースが際立つ、正統派Mobb Deepサウンド。(自分含め)QB好きは反応しそう。
2. LostInnocence
QBサウンドと言えば、ピアノループってことで!土埃立てる様な鮮明なスネアが映える、シブめでジャジーなサウンド。
3. Zombie Land (feat.Havoc)
のっけから図太いドラムサンプリングと、ネタへの導入がカッコ良すぎて首が持ってかれそうです(笑)パニック映画みたいな狂気的な演出で、疾走感のある2人のラップもイケすぎ。
4. Extreme Measures (feat.Styles P)
ご存知、ヨンカーズのスピット番長との共演。のっそり重たいトラックにズッシりと構えた2MCの存在感抜群の一曲。
5. Greatest Ever
こちらも中々ヘビーウェイトな、Mobb Deepモロ出しのグライミーサウンドです。重力に逆らったLoの捲し立てるラップが鬼気迫る迫力。
6. Reports
このラギッドさは、HavocがLoに描く"Gritty"なイメージにマッチしている感じがします。これもホラーっぽさがあっていい感じ。
7. Make it Home (feat.Vado)
ジメついたストリートライフを描写するのに適した、悲しげな旋律の一曲。0年代のG-Unitぽい感じも。淡々とラップを紡ぐ、LoとVADOの相性もバッチリです。
8. Force of Life
スピリチュアル感のある、声ネタサンプリングが耳抜けの良い一曲。Loの前向きさもひしひしと伝わってきます。(アウトロには故、PRODIGYの御声も!)
かなり好みですね。
9. Dirty Work
非常に近代Havocらしい、クラップも入り混じる、弾きっぽい地獄系アッパートラック。
10. Captivating
怪しげなループがクセになる、ドラッギーな中毒性の黒さのあるトラック。この感じもQBっぽい。
11. Strong Minded
締めは、奥行きのある重厚さも兼ね備えたトラックで、唾が飛んできそうな、臨場感のあるLoの荒々しいフローを噛み締めて終幕です。
作品全体を通して、Havocの体現する"QB・Mobb Deepサウンド"を堪能するに足る、素晴らしい仕上がりです。(Mobb Deepの新作を聴いてる気分になれました)
Loのラップ生命を賭けた気迫も端々に感じることができ、自信を持っておすすめしたい一枚です。
Dark Loのこれから
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これから長い旅に出てしまうDark Loですが、天賦の才能がありながら本当に勿体無い!
減刑も祈りつつ、出所後にはまたアーティストとしてHip Hopシーンに戻ってきて欲しいと切に願います。
また、今年リリースにBenny The Butcherとの共作の噂?もあるので凄く楽しみです。
最後に、5月頃COMPLEXのインタビューでLoが語っていた、復帰後のビジョンについて紹介します。
「俺は音楽を作り続ける、それは上質なワインの様に。今は30代だけど、65歳、70歳のロックンローラーだっている。自分のレーベルを立ち上げて、他のアーティストの手助けをしたい。アブと同じ様にこの街の多くのヤツらを救いたいんだ。帰ってきたらやるべきことを本気でやるつもりだ」
#FreeLo
#FreeTheMan
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peace LAWD.