Dare#19「Pの殿堂」|Jay Worthy(LNDN DRGS)について
今回は、西海岸・LAのアーティスト、Jay Worthy(または、P Worthy)にフォーカスを当てたいと思う。
彼はカナダ出身で、コンプトンに移住して本格的な音楽活動を始めるが、ニューヨークをはじめ、東海岸のアーティストたちとも頻繁に作品を制作しており、その経歴も非常に興味深い。
筆者も勿論、話題となったデビュー当初の2015年頃から、Jay Worthy、「LNDN DRGS」の動向を追い続けている。
未だ精力的に活動を継続し、圧倒的な行動力とリリースペースで、期待を裏切らぬ数々のコラボレーションを実現してきた彼について、改めてその"Aktive"なキャリアを振り返りたい。
西海岸、ベイエリアやG Rapに関して造詣が深い方々とは視点が異なりそうだが、東海岸好きの角度から、Jay Worthyの一面を紹介できればと思う。
Jay Worthyのバイオグラフィ
Jay Worthy(本名:Jeffrey Sidhoo)は、カナダのブリティッシュコロンビア州・バンクーバー出身で、インド系にルーツを持つMC。
現在は、カリフォルニア州ロサンゼルス群、コンプトンを拠点に活動し、西海岸のみならず、各地に太いコネクションを持つ。
Jayは、自身が運営する「GDF Records」に所属し、Sean Houseとのタッグチーム、「LNDN DRGS」としての活動でも名を馳せている。
また、「EMPIRE」とディストリビューション契約、Westside Gunn率いる、「Griselda Records」とはマネジメント契約も結んでいる。
幼少期は、Marvin GayeやEarth, Wind & Fire、The Gap Band等、往年のSoul、Funkミュージック、Hip Hopでは、MC EihtやIce Cube等を聴いて育った。
Hot97のインタビューでは、彼の音楽キャリアに影響を与えたアーティストで、一番好きなラッパーとして、Ice Cubeの名前を挙げている。
10代の頃のJayは、バンクーバーのフォールスクリーク沿岸のエリアをホームグラウンドとし、バスケットボールやHip Hopが身近にある環境で育つ。
彼の生活圏であるインディアン(インド人)が多く住まうエリアは治安が悪く、ギャングによる事件も多発し、車上荒らし等も日常的に起きる場所だった。
当時、友人も何人か亡くなっていく環境下で、身の危険を感じていたJayは、2004年、17歳の頃にカナダを離れ、"ハブシティ"ことコンプトンのウエストサイドに移り住み、友人の祖母の家に転がり込む。
コンプトンはご存知、N.W.A、The Game、Kendrick Lamarやニュー・ウエスト世代を代表するYG、ADやBoogie等々、数々のビッグスターを輩出してきたギャングスタ・ラップの聖地としても有名な街である。
昔からギャング絡みの犯罪や抗争も多発し、全米の中でも最も治安が悪い都市の一つとして認定されている。
Jayが所属するWestside Piruをはじめ、赤のカラーを纏うBloods(ブラッズ)のギャングたちは、Crips(クリップス)への対抗意識から、このエリアを"B"ompton(ボンプトン)と呼ぶ。
彼は、自身のことをストーリーテラーで、ストリートのレポーターであると語っており、2016年に「VICE」が企画したドキュメンタリー、「Noisey Bompton」の制作にも携わり、ボンプトンの声の代弁者としてストリートでも厚い信頼を得ている。
Jayは、The Gameの兄で、ラッパーのBig Fase 100とルームメイトだったこともあり、共演経験も持つ。
また、The GameとDrakeの楽曲、"100"のMV撮影時には、JayとBig Faceで近所の人たちを集め、一緒に撮影も行った。
ロサンゼルスのフェアファックス地区のストリートカルチャーやクリエイター達にフォーカスしたドキュメンタリー、「Welcome to Fairfax」(2014)では、映像プロデューサーとしての一面も見せ、彼の兄弟もトロントで映画監督をやっていることなどから、自身も映像製作には興味を持っているそうだ。
以降も、「LNDN DRGS」のMVの脚本やKendrickが出演した、Reebokのスニーカーのコマーシャルの共同制作等々、舞台裏でも多彩な活躍を行っている。
また、Jayの義理の妹は、イギリスの名門レーベルである「4AD」に所属する、エクスペリメンタル・ポップアーティスのGrimesである。
彼女は、最近何かと話題になっている、Twitter社のCEOに就任したイーロン・マスクとも交際歴があり、破局後にイーロンとの息子を儲けている。
尚、JayとGrimesは、Jayがデビュー前にDJ Mustardと制作したミックステープ、「The Lifestyle」(2013)収録の"Genesis"と、Grimes名義の "Christmas Song"という曲で共演経験もある。
彼は、音楽活動にのめり込む以前は、ラッパーに対するイメージをあまり好意的には受け止めておらず、当初は自分がラップをやることに対しても抵抗があったという。
また、普段からJayはラップミュージックをあまり聴かないそうで、自分の車では専ら、オールディーズのFunk、Boogie、
Soul、Jazz等を聴いているらしい。
しかし、故・A$AP Yamsや周囲からの強い後押しによって、30歳でストリートから完全に足を洗ったJayは、自身のライフスタイルをより良い方向に導くため、音楽活動に専念するようになった。
インタビューの中で、彼は今まで一度も客演やビートを買ったことが無いとも語っており、業界における彼の人望の厚さや卓越した音楽センスも、そのキャリアの後押しとなっていることは間違いないだろう。
LNDN DRGSの結成
Jay Worthyのキャリアを語る上で外せないのが、同郷バンクーバー出身のプロデューサー、Sean Houseとのデュオ、「LNDN DRGS」。彼らのデビューから、Jayの存在を知った人も多いのではないだろうか?
「LNDN DRGS」の起源は、シアトルとニューヨークを拠点とするプロダクション・チーム、「Blast Off Production」の一員でもあった、年上の友人、Seanとの出会いに遡る。
Jayは、13歳頃からSeanと地元で付き合いがあり、制作のために一時バンクーバーに戻った際にセッションし、制作を重ねる中で相性の良さを確かめ合い、共にプロジェクトを立ち上げることとなった。
グループ名の由来
「LNDN DRGS」という名称は元々、Seanとのプロジェクト・タイトルとして使用するつもりだったが、気付いたらグループ名になっていたそうだ。
きっかけは、Jayがドラッグにどっぷり浸かっていた時期に、バンクーバーにあった「London Drugs」という薬局の名称をスペルもそのままで拝借した。
カナダでは、コデイン入りのプロメタジンが入手困難で、「London Drugs」で買った咳止めシロップとマリファナでいつもハイになっていたことが由来している。(現在、彼はマリファナも止めてリーンだけ摂取しているらしい)
尚、当初の"まんま使い"は、本家の「London Drugs」からNGを出され、現在の母音を省略した「LNDN DRGS」の表記に落ち着いたそう。
LNDN DRGSの音楽性
「LNDN DRGS」は、70~80年代のSoulやFunk、Jazz、Boogie、R&B等のサンプリングをベースに、ダウンテンポでレイドバック感のあるサウンドが特徴的だ。
90年代の西海岸で隆盛した、「G-Funk」を引き合いに出されることが多いが、Jayは自分たちの音楽を「G-Funk」というカテゴリには定義せず、「ファンクの復刻」だと主張する。
確かに、現行のウエストコースト内のトレンドスタイルと比較しても、オーセンティックのリバイバルともまた違った形で、彼ら独自の色を確立していると感じる。
また、Jayの音楽性へのこだわりは、オリジナルのファンク・サウンドに敬意を表し、サンプリング・ソース(元ネタ)から得られるダイレクトなフィーリングを重視するところにある。
彼がHip Hopのビートにあまり頓着がないことは、前述からも察する通りだが、代表的なサンプリング・ビートのメイキングの基本である、ドラム、ベース等を加えるプロセスにさえも肯定的ではない。
元ネタをバラバラに分解する”チョップ”やシンセサイザーのアレンジ、パートによって複雑に構成を変える等の手法を行わずに、ミニマルで洗練されたサウンドで歌うことがJayの信条である。
所謂、"ドラムレスビート"やネタに入っているドラムをそのまま生かすという発想は、現行の東海岸アンダーグラウンドのトレンドにも近しい感覚と言える。
彼らは、「ドラムやベースが入っていればもっと良くなる」という外部からのノイズやトレンドの風潮に惑わされることなく、自分たちのアティテュードを貫き、クールな音楽性を定義していった。
「LNDN DRGS」の発足以前、Jayは自分の音楽性を理解してくれるプロデューサーに中々出会うことが出来ず、Seanだけが、彼がやりたかったことを正確に具現化できる、最良の相方だったのだ。
一方、「LNDN DRGS」が水面下でデビューを進める中、2010年前~中期頃の西海岸では、新世代、ニュー・ウエストの台頭で、ラチェットの火付け役であるYGやG Perico等が頭角を表し、西海岸のHip Hopシーンに新たな風を吹き込んだ。
同時期、東海岸でも徐々にシーンの変革があったことは周知の通りだが、「LNDN DRGS」としての本格的な始動と、軸としていた音楽性が現行の潮流と見事に合致したことで、幅広いリスナー層から評価を獲得できたのではないかと推察する。
LNDN DRGSのディスコグラフィ
2013年、「LNDN DRGS」名義でオフィシャルリリースされた最初の一曲は、A$AP Yamsと共に、「A$AP Mob」の設立メンバーとしても名を連ねた、Da$Hとの”The Time Is Now”である。
当時、TumblrでHip Hop Blogを開設していた、Yamsのアカウントでも紹介されていた。
その後、2014年に、A$AP Yams、G Perico、故・Earl Swaveyを客演に招いたシングル曲、"Uza Trikk"、2015年に「LNDN DRGS EP」、「Burnout」でデビューを果たした「LNDN DRGS」は、立て続けに、フリーダウンロードのミックステープ、「Aktive」を「Fool’s Gold Records」からリリース。
「Aktive」は、80’s SoulやR&B等の大ネタ使いのメロウネスなサウンドが特徴的で、「LNDN DRGS」の作品でも一番の代表作となった。
2018年には、豪華客演陣を含む9曲を新たに追加し、デラックス版としてフィジカルもリリースされ、少し前にリイシューも出ている。
また、Snoop Doggの代表作、「Doggystyle」(1993)のジャケットを手掛けた、Snoopの従兄弟でロングビーチ出身のアーティスト、Darryl "Joe Cool" Danielのカバーアートでも話題となった。
この作品のリリースによって、Cardo Got WingsやThe Alchemist、Jake One、Dam-Funkといった著名なプロデューサーたちからも目に留まるようになる。
その他、キャリア初期から続編が出続けているミックステープシリーズ、「Burnout (1~4)」(2015~2020)や「A$AP Mob」のプロデューサー、A$AP P on the BoardsとSean Houseの共同制作による、ダウナーで中毒性の高いビートが並ぶ、「P On the DRGS」(2017)、Odd FutureのLeft Brainを交えた、「Brain On DRGS」(2018)、この相性の組み合わせでハズしようも無い名盤、Curren$yとの「Umbrella Symphony」(2019)、古今東西、フレッシュからベテランまで、Jayのキュレーターぶりも垣間見えた人選の「Affiliated」(2019)、盟友、Larry Juneとの文句無しのクラシック、「2 P'z in a Pod」(2022)。
彼とSeanが関われば、どこを切り取っても、「LNDN DRGS」としての強固なブランディング力を感じる存在感や作品一つ一つの水準の高さに感服する。
西海岸だけに限定しても、決してメインストリーム寄りの動きではないが、彼らのコンセプトや表現したい世界観は、常に明快で伝わりやすく、ゲストの人選やビジュアルの見せ方等も踏まえ、王道的な格好良さを感じる。
Seanは、「大衆に受け入れられるような音楽よりも、自分たちが好きな音楽を作ることを優先している。」と語る通り、そのこだわりは十分に感じ取れる。
とあるインタビューでは、自身のインスピレーションの根源でもある、「The Gap Band」のCharlie Wilsonや「S.O.S Band」とのジャンルを超えたコラボレーションにも興味があると話していた。是非とも実現して欲しい!
A$AP Yamsとの出会い
「LNDN DRGS」やJay Worthyのキャリアにおける最重要人物といえば、2010年代に一世を風靡した「A$AP Mob」のブレイン役、A$AP Yamsであることは明白だ。
A$AP Yams(本名:Steven Rodriguez)は、ニューヨーク・ハーレム出身。2015年、リーンと複数のドラッグの過剰摂取で26歳の若さでこの世を去った、「A$AP Mob」のファウンダーである。
Yamsは、ハーレムのレジェンド集団、The Diplomatsの「Diplomats Records」で、Duke Da Godの下インターンを行い、音楽業界のノウハウを得て、A$AP Rockyを全米のスターダムまで伸し上げた最大の功労者だ。
Yamsは、”Hip Hop百科事典”と呼ばれる程、少年の頃からこのカルチャーのハードディガーであり、誰よりもアツい情熱を持った男だった。
彼は、「A$AP Mob」や彼らのレーベル、「A$AP Worldwide」の取り纏めも行う傍ら、傘下に自身の「Yamborghini Records」というレーベルを設立した。
「Yamborghini Records」では、A$AP Mobに留まらず、Yamsが発掘した新たな才能をプッシュすべく、Cutthroat Boyz(Joey Fatts、A$ton Matthews、Vince Staples)をはじめ、DA$H、Retch、Bodega Bamz、100s等、東西関係無く、周辺にイケてるメンツが集まっていた。
Jayは、Grimesのツアーに同行中、2012年のテキサス州で行われたSXSWでYamsと出会う。意気投合した2人は、出会って数日後には、ニューヨークで一緒にレコーディングを行うこととなる。
当時のJayは、ラッパーとして大成することや脚光を浴びることを一切考えていなかったが、彼の才能に一早く気付いたYamsが背中を押してくれた最初の人物だったそうだ。
「Aktive」制作時、Yamsは様々なアドバイスをJayに伝え、その一つに、エグゼクティブ・プロデューサーを「Death Row Records」の元CEOで、現在収監中のSuge Knightに依頼することも提案していたが、法的制約やその他の理由で実現しなかったそうだ。
"Dedicated to A$AP Yams"が刻まれた、「Aktive」制作の裏側には、Yamsの知恵の結晶が随所に詰め込まれている。
また、「LNDN DRGS」は、「Yamborghini Records」からデビューの話もあったようだが、結局はYamsの推薦によって、A-Trakの目に留まったことがきっかけで、「Fool's Gold Records」からリリースされることとなった。
また、「Aktive」が当時、フリーダウンロード形式になった経緯には、オールサンプリングで手掛けたビートのクリアランスを行うために、50万ドル(約6000万円)以上の費用が掛かることが予測されたためだ。
JayとYamsは、自宅スタジオで”Fast Blakk”と”Uza Trikk”をレコーディングし、その直後にYamsは亡くなってしまった。
Yamsに関しては、インターネット上にも詳細に紹介された日本語の記事がいくつかあるので、興味があれば調べて欲しいが、彼の母親、Tatianna Paulinoが、息子への悲痛の想いを綴った手記の和訳があるので、そちらを特にお勧めしたい。
また、10年近く前に、「Yamborghini Records」所属やその周辺アーティストの映像集を日本人のDicey Societyが纏めた、「Yamborghini Dream」というタイトルのDVDが、先日の11/13(Yamsの誕生日)に、Yamborghini Shopから再販されていたので共有したい。(こちらは、A$AP Yams本人も公認している)
Jay Worthyのディスコグラフィ
最後に、これまで数々のリリースを行ってきた、Jay Worthyのソロ名義と関連作品(Sean Houseのフルプロデュースを含まないもの)を時系列で紹介する。
Jayは30歳を越えてから本格的なラップキャリアを歩んできた、一般的には”遅咲き”のアーティストだが、だからこそ、若手アーティストには出せない、風格のある情緒的なHip Hopを表現できているように思う。
全作品、事細かに紹介したいところだが、特に思い入れのある作品に絞ってコメントを挟んでみたので、興味を持った作品は是非聴いてみて欲しい。
「Fantasy Island」(通称:夢島)は、The Alchemistとの共作。和ネタを大胆にサンプリングした内容で日本でも当時、非常に話題となった。
Jayのファンでもあった、Alchemist自ら声を掛けたことで実現した夢の様なプロジェクトでもある。
また、永井博が手掛けた、大瀧詠一の「A LONG VACATION」のカバーアートを無許可で使用したことがトラブルにもなった。(本件は解決済み)
内容はシティポップ要素が下敷きとなった、幻想的なグルーヴ感と彼の気怠いフロウが有機的に結び付き、Jay作品の中でも際立って印象的な作品となっている。発売されたバイナルは、ファーストプレスもリプレスも直ぐに完売する程人気だった。
ベイエリアのDJ・プロデューサーである、King Mostとの共作。一曲目の"Westside Party"から、古き良き西海岸マナーを感じる、スラップでサマーヴァイブ溢れるサウンドが良質なジョイント作品。
唯一の客演、Skimask Ramboというラッパーも滅茶苦茶クールなラップで印象に残っている。
また、この作品がリリースされた年に、町田でGangsta Rapのフィジカル等を取り扱っているショップ、「IITIGHT MUSIC」が主催したイベントで初来日を果たしたJay。
筆者は、別日にLIVEを拝見したが、この頃、「LNDN DRGS」関連の作品は隈なくチェックしていたので、かなりテンションが上がった思い出。
様々なアーティストの作品で引っ張りだこのベイエリアのベテランDJ、DJ.Freshによる企画モノシリーズ、「The Tonite Show」。
そのシリーズの一編として、サンディエゴ出身、西海岸のベテラングループとしても知られる、「Strong Arm Steady」のMitchy Slickと共にホストを務めた本作。
内容は全編、アップテンポなウエストコースト・サウンドで、真夏の夜にクルージングして聴きたくなる、爽快な作品となっている。
カバーアートは、秋田県出身のペイントアーティスト、青山ときおが描いている。
ブルックリン出身のプロデューサーで、自身のレーベル、「Surf School」でもリリースを重ねる、Harry Fraudとのコラボ作品。
Harry Fraudは、French Montanaとの初期の蜜月から動向を追い続け、2010年代以降、様々なアーティストとのコラボレーションでも常に楽しませてもらっている。遂に、Jayをフルプロデュースした作品がリリースされるとのことで、楽しみにしていた一枚。
西海岸ノリに寄せ過ぎず、Harry Fraudらしいドラマチックな展開のビートが、アナザー・夢島感もあり、Jayの持つ世界観をしっかりと保持したまま、両者の特徴的なスタイルが見事に嵌った快作。
この作品は、個人的には特に好きな作品なので、コメントしておきたい。
ブロンクス出身で、「Black Market Records」の"Hunnit Round Hef"こと、Sha Hefとのコラボ作品。
Da$h、Retchとの関係性から何かと繋がりのある両者だが、一緒に一枚出すとは思わず、意表を突かれた。
ドラムに余念を抱かせない、ジャジーでシネマティックな世界観が、主演のJayとHefのラップを際限なく際立たせる。
The Flamingosの大ネタ使いを始め、ギャングスタムービーのハイライト・シーンを想起させる様な緊張感のある仕上がりが、Jay絡みの作品の中でも貴重と言える。FREE Hef。
先日リリースされた、「What They Hittin 4」は、Soul Assassinsの"The Black Goat"ことDJ Muggsとのジョイント作品。
ここ数年の動向では、東海岸を中心に、若手・中堅のアンダーグラウンド界隈のフックアップに精を出していたMuggsだが、いよいよ、Jay Worthyにも白羽の矢が立った。
Muggs関連の作品と言えば、ダークでヒリヒリしたハードコアの境地的なサウンドが多いが、今回は、Jayに寄せた西海岸のテイストも入れてくるのか、予想が付かなかった。
結果的に、良い意味で期待を裏切るコラボレーションとなったので、全曲コメント付きで本記事を締め括りたいと思う。
序曲である、"We Don't Die Here"は、ジャジーで煙たい東海岸寄りの渋みの効いたサウンドで、期待十分に幕を明ける。「Gino Green Global」というワードが出てくるだけで筆者世代的にはアガる一曲。
「Brownsville」と声を上げたくなる、大ネタ使いのリードシングル、"95"は、オールディーかつ、グライミーな縦ノリのサウンドで、90年代のCypress Hillもリマインドさせる。(というか同じネタを使っていた気がする)
ソウルフルな声ネタループの"The Gentleman"で、いつものJayのモタついたフロウを聴かせると、タイトルの時点で既にグッときた、"In New York"へ。疾走感のあるサンプリング・ビートに、彼の口から「QB」やらNew Yorkの情景を描写したワードが次々と出てきて、筆者的には感無量。
続く"Thuggin'(Psychedelic Ism)"は、正にサイケデリックで、微睡の狭間を縫う様なディープなビート。奥行きのあるクラウド的なドラムレスが、Muggsの魔術的な空間を構築する。フックの歌唱もメロディアスと言うより、不協和に射す月光の様な良い味を出している。
Jayが時折、メロディを交じえて歌うようになったことについて、以前にTyler the Creatorの作品、「IGOR」からの影響も語っており、ツアー時に観た、Tyler the Creatorのパフォーマンスに触発された、ということも付け加えておく。
和ネタ使いの艶やかなループビートの"The Wine Connoisseur"では、「Lord Mobb」にも籍を置く、サウスセントラル出身のT.Fを客演に招く。T.Fは、昨年、プロデューサーのBudgieとJayのトリプルネームで「The Ballad of a Dopehead」をリリースしている。
Compton's Most Wantedで知られる大御所、MC Eihtとの"A-Wax&O-Dog"では、"95"と同じLA時間軸が感じられる、Jayらしくも、Muggsらしくもあるド直球な一曲。
透明感と酩酊感のあるビートの"This Is It"は、前述のT.Fとも仲が良い、イングルウッド出身の2 Elevenを客演に招く。
波音と鳥のさえずりが導く、次曲の"I Don't Wanna Rap"は、ブルージーでシンプルなループビートの上で、肩の力が抜けてリラックスした、Jayらしいラップを聴かせてくれる。
夢島テイストな"Bitch I Miss You"では、Mach-Hommyの「Pray For Haiti」収録の"No Blood No Sweat"とほぼ同じループで、コーラスを交えながらJayなりの甘さを表現した、ビター・チューンにて終幕する。
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peace LAWD.