Dare Feature Issue pt.1|MAアングラ特集(前編)
アメリカ北東部に位置する、マサチューセッツ州は、かつてイギリスの植民地であったことから「New England(ニューイングランド)」とも呼ばれている。(他にもメイン、ニューハンプシャー、バーモント、ロードアイランド、コネチカットを含めた6つの州の総称である。)
マサチューセッツ(主要なボストン)におけるHip Hopの土壌は、80~90年代に活躍した、故・Guru(Gang Starr)やBig Shug(Gang Starr Foundation)、Edo G、Benzino、7L & Esotericらに始まり、2000年代には、M-Dot、Akrobatik、Slaine、Termanology、Statik Selektah、Reks等によって継承されてきた。
NEコレクティヴ、ST. Da Squadのフロントメンバーで、ローレンス出身のTermanologyは、2008年に発表した代表作「Politics As Usual」を契機に、ボストン出身のDJ、プロデューサーのStatik Selektahと共に、"マーダ・マス"から名乗りを上げ、ここ日本にもその名を轟かせた。
近年のMAアンダーグラウンドは、2010年代中期頃のアングラシーン変革の潮流に乗りつつも、現在も独自の進化過程にあると言える。
そんな、現行MAアンダーグラウンド(主に、ブーンバップだが)を垣間見る上で、近年動きが活発なアーティストたちを、お決まりの独断と偏見でピックアップしてみた。
尚、今回の記事は、便宜上の理由で前編・後編に分けて紹介したいと思う。
―文体がいきなり変わったことには特段理由はない(笑)。
Ea$y Money
Artist Name: Ea$y Money
Base: Haverhill, MA
Ea$y Moneyは、ヘーバリル出身のプエルトリカン・MCで、St. Da Squadの主要メンバーの一人。Statik Selektahの主催する「Show Off Records」にも籍を置いている。
Termanologyとは、20年来のキャリアを共にする盟友であり、双方の作品でも度々クレジットされている。
近年は、イリノイ州を拠点とするMCのFabeyonとの「Beyond Ea$Y」やTermanologyの「GOYA」シリーズでもお馴染み、ローレンス出身のプロデューサー、Shortfyuzとコラボ作品をリリースしている。
Shortfyuzとの「7 Grams」や「Halfy」では、スペイン語率高めのEa$yのスピットを聴くことができる。
昨年リリースされた、ローレンス出身のプロデューサー、Melksとのコラボ作「The Dream Is Free…」は、Melks独特の異質さを孕む怪しげなサウンドと、Ea$yの明瞭な王道ラップが、程よい緊張感と調和を保った良作だ。
Melksは、「No Mas Free」というレーベルで、ボストンを中心に活動するThe squadとして、Eddie Random、Jon Glassと共に3人組のプロダクションチームを組んでおり、Flee Lord、Eto、Reks、Methodman、Nino Man、Termanology、Elcamino、Ufo Fev等の楽曲も手掛けている。
Ea$yは、キャリア的には言うまでもなく"ベテランの域"であるが、現在も第一線で活躍する大御所・新気鋭のアーティストらとも交流を持ち、正統派MCとしての地位を守り続けている。
捻くれた偏食主義抜きで、硬め、太め、濃いめの王道をシバきたいならこの漢だろう。
◆Ea$y Money Instagram
◆Ea$y Money Twitter
◆Ea$y Money Bandcamp
Avenue
Artist Name:Avenue
Base:Boston, MA
Avenueは、ボストンのサウスエンド、ローワー・ロックスベリー地区出身の30歳のMC。
Frank the Butcherが創始者である、「BAUEWYK(Business As Usual / Eat What You Kill)」、通称:「BAU」に所属している。
最近では、「Words Speak Life.」という自身のブランド名義でのリリースを行っている。(「Words Speak Life」とは、2012年にリリースした、彼のデビュー作のミックステープタイトル)
Avenueは、「ブラウンストーン(高級住宅街)」と低所得者住居やセクション8の混在する通りで育ち、多民族が共生するボストンの多様性や歴史的背景を、自身のライフスタイルと巧みなストーリーテーリングを織り交ぜて描写する。
ベイビーフェイスな面立ちと、ややハイトーンボイスから放たれる、シルクの様に滑らかなフロウが特徴的で、声質はRaz Fresco辺りに近いものを感じる。
2010年代前期位から、既に「XXL」や「DJ Booth」、「Complex」等のHip Hopメディアで、注目の新人として取り上げられていた。
過去作品を聴いても分かる通り、柔軟性のあるフロウの利か、割と様々なタイプのビートを器用に乗りこなしている。
高校時代のAvenueは、バスケのスター選手として真っ当なスクールライフを送っていたが、大学時代、校内でマリファナを売っていたのがバレて退学処分、その後にラッパーとしてのキャリアを志す。
2013年にリリースした、「Summer Of '91」というEPタイトルそのまま、同郷ボストンのDeon Chase、Slumdog Hillと組んだクルー、Summer Of Ninety One名義では、「Trap Vogue」というミックステープも出している。
Deon Chaseとは、2018年に「Nightfall.」をコラボリリースしており、本作は「Cooking To Kill(Frank The Butcher&The Arcitype)」の生成する、冷暗とした、ドライなビートが奏でる不穏な黒さがドープな作品。
また、昨年、今年と同時期にリリースされた「BROWNSTONES」シリーズの1と2では、ボストンの象徴的なブラウンストーンの街並みをイメージしたかの如く、洒落気のある、クラシックな雰囲気を散りばめた楽曲で構成されている。
各々、3曲入りの短編集ながら、冬場の寂寞した空気感とボストン・ストリートの情景を十分に投影している様に思う。
DAREでも何度か取り上げている、東京出身のプロデューサー、Cedar Law$が手掛けた単発シングル曲、「S H Y N E」や、「BROWNSTONES 2」収録のChase N. CasheとHil Hollaを迎えた、大ネタ使いの「Chez Vous」も耳に残る楽曲だ。
同じ、ニューイングランド・エリアのロードアイランド州、プロビデンス出身のHil Holla、Cam Bellsと制作した、2021年作の「Two Sides of the Same Coin」は、ムーディでオーセンティック感溢れる作風に仕上がっている。
また、直近でリリースしたシングル曲「WE UP」は、ボストン出身のGrubby Pawzがプロデュースした、艶美でスローテンポなビート上で、同郷のFUNERAL Ant Bellを客演に迎えている。
Grubbyといえば、Lynn(リン)周辺のアーティストとの絡みで、近年のアングラ界隈を賑わせてきた1人だが、本曲は、今後のボストンとリンのジョイントを"匂わせる"と同時に、彼らの今後の飛躍を予感させる一曲とも言えよう。
◆Avenue Instagram
◆Avenue Twitter
◆Avenue Bandcamp
◆SHOP NINETY ONE
Deon Chase
Artist Name:Deon Chase
Base:Boston, MA
Deon Chaseは、カーボベルデ共和国にルーツを持つ、ボストン出身の27歳のMC。Avenueと同じく「BAU」に所属している。
早熟な才能を開花させたDeonは、高校1年の時に 「The Big Secret」と 「Lucky Number Seven」というミックステープをリリースした。
わずか1年後にリリースしたミックステープ、「Champion Feel 」では、シングルカットのタイトル曲が、ボストンのラジオ「JAM'N 94.5」でプレイされ、各所で高評価を得る。
その折り紙付きの実力は、メジャーフレイバー(かといって、現行メインストリームとは異なる)も感じ取れる、メロディアスで緩やかなフロウが特徴的だ。
2019年作の「Sunset Blues」、「Don't Fall Yet」や2021年作の「Live From The Sunset」での一貫した音楽性は、コンシャス的で色のあるビートセレクトにより、受容性が高く、昼下がりの温もりや秋の黄昏を想起させる心地良い作品。
そもそもDeonは、ラップスキル自体が非常に優れたMCだと思うので、前述のAvenueとの共作の様な、ダークな雰囲気にも見事に溶け込んでしまうところがまた秀逸だ。
先日リリースされた、ニュートン出身のDJ、プロデューサーのTeddy Ruck-Spinとのコラボ作「Wandering Star」では、クラブミュージック寄りな夜の雰囲気だが、これもこれで当然の様にハマっている。
◆Deon Chase Instagram
◆Deon Chase Twitter
◆Deon Chase Soundcloud
Frank The Butcher
Artist Name:Frank the Butcher
Base:Boston, MA
Frank The Butcherは、ボストンのクリエイティブシーンの立役者として、ストリートカルチャーと音楽、ファッションの融合を長年に渡って実現してきた、クリエイティブディレクター、音楽プロデューサー。
その他にも、ショップの運営やポッドキャストの司会、雑誌のライター等、多彩な経歴と肩書きを持つ。
2012~2014年頃まで放送されていた、「Butchers' Block」というWEB番組では、その記念すべき第一回目に、Mobb Deepの故・PRODIGYをゲストに招き、インタビューも行っている。
また、2012年頃、自身のブランド「BAUEWYK(BAU)」を立ち上げ、PUMAやReebok、NIKE、NEW BALANCE等とのコラボも実現させ、話題となった。
音楽プロデューサーとしては、「BAU」タイアップ企画のミックステープやシングル、アルバム等を様々なアーティストとリリースした。
その面子には、The Kid Daytona、Meyhem Lauren、Chase N. Cashe、Maffew Ragazino、L.E.P Bogus Boys、Termanology、Krondon、Roc Marciano、Planet Asia、The Alchemist&Budgie、Killer Mike、Royce Da 5'9、Statik Selektah、7L等々・・・錚々たる顔ぶれだ。
Frankは、自身のコネクションをAvenue等のBAUの看板アーティストとジョイントさせることで、ボストン周辺のシーンを活性化させてきたキーマンである。
近年の作品では、ウースター出身のAri 7との共作「Novocaine」、NY・ブロンクス出身のラテン系MC、Al-Doeとの短編EP、「Fumata Bianca」において、狂気渦巻くドスの利いたハードコアサウンドで、全編黒さの深潭を演出する。
一方、NY・ハーレム出身のUfo Fevとの「The Thrill」、ボストン出身のKadeemとの「Universum」では、宇宙コンセプト?らしき、変態サウンドで、高次元のループ空間を生み出している。
Frankは、ファッション分野での華々しい活躍とは対照的な、"アンダーグラウンド"の側面を、ビートメイキングにおいては魅せてくれる。
ドラムブレイクをカットし、サンプルをミンチの如く切り刻む"肉屋"が、脂の乗った黒々しく、ハードなサウンドが大好物の"好き者"であることは、彼の楽曲を耳にすれば自ずと察しが付くであろう。
◆Frank The Butcher Instagram
◆Frank The Butcher Twitter
◆BAUEWYK Soundcloud
◆Frank The Butcher Bandcamp
B Leafs
Artist Name:B Leafs
Base:Boston, MA
B Leafsは、ボストン出身のプロデューサー。9th Wonder、J Dilla、Nujabes、DJ Premire、Pete Rockらに影響を受けたというサウンドは、エモーショナルで、温かみのあるサンプリングベースのビートが中心となっている。
故・Mac Miller敬愛も頷ける(顔もちょっと似ている)、B Leafsの音楽スタイル、そして、彼のHip Hop愛は、作品にフューチャーされた面々からも見て取ることができるだろう。
B Leafsは、2015年頃から複数のビート作品集をリリースし、2017年には、Termanologyが設立した「Good Dad Gang」のメンバーでもある、ケンブリッジのMC、Lotus TaylorのEP「Face the Music」のほとんどの楽曲をプロデュース。
そして、2017年頃から制作を始めていた、自身名義のファーストアルバム、「The Horizon」を満を持してリリース。
この作品には、ベテラン勢からアンダーグラウンドのフレッシャーなアーティストたちまで、総勢30名以上が参加している。
Reks、Raekwon、Skyzooが参加した「Flawless」、M-Dot、Elzhi、Large Professor、Ras Kass参加の「Reaganomics」、Dark Lo、Cormega参加の「The Cloth」、Tim Nihan、Paranom参加の「Perfect」、Jackie Tomatahs、Melanin9、Crimeapple参加の「Mesh」等々、大御所プロデューサーがアサインする様な豪華絢爛メンツ。(Large教授は、Megaの紹介だそう)
他にも、Styles P、Masta Ace、ここ最近のメインストリームとの絡みも激アツなボストン出身のMillyzといった、個人的にも気に入ってるMCたちが勢揃い。
今年早々にリリースされた「The Synopsis」では、前作よりも若干アンダーグラウンド寄りのサウンドと強面な客演陣を招き、Skyzoo、Jay Royale、Jamil Honesty、Kool G Rap、Craig G、38 Spesh、Termanology、Reks、Rasheed Chappell、Guilty Simpson、Eto等を始めとするアングラ勢、ボストンのベテランMC、M-Dotと、リン周辺で暗躍する、Estee Nack、Codenine、Al.Divinoらも参加している。
カリフォルニア州、LA出身のプロデューサー、NugLifeが昨年リリースした「The Beat Dispensary 2」にも通ずる、新旧・中堅、エリア色の強いメンツを多数招くプロデューサー名義の作品には、MC単位の作品と異なる、宝探し的な高揚感と化学反応を楽しめる。
地元の先輩プロデューサー、Statik Selektahとはまた異色のアプローチとビートセンスで、今後の立ち位置にも期待が持てる。
◆B Leafs Instagram
◆B Leafs Twitter
◆B Leafs Soundcloud
◆B Leafs Bandcamp
Nay $peaks
Artist Name:Nay $peaks
Base:Boston, MA
最後に、Avenueが最近ちょくちょくインスタグラムに上げるので、気になったギャル、ボストン・マッタパン出身のNay $peaksを少しだけ紹介。
まだ、年齢も若そうで、リリースも2曲ほど。始めたばかりな雰囲気だが、エネルギッシュで抑揚の利いたラップが良い感じ。トラップ寄りですが、曲調や雰囲気も好み。
◆Nay $peaks Instagram
◆Nay $peaks Twitter
◆Nay $peaks Soundcloud
peace LAWD.
後編はこちら↓