【レビュー】Burden of Proof - Benny The Butcher
2020年の個人的なベストアルバムの一枚だった、Benny The Butcher x Hit-Boyによる「Burden of Proof」について、一曲一曲振り返りつつ、Bennyの栄光の軌跡と共に改めて記したいと思います。
名盤「Tana Talk 3」に次ぎGriselda/Empireからリリースされた、ご存知Griselda RecordsのNo.3、Benny the Butcherの2枚目のスタジオアルバム。
名プロデューサー、Hit-Boyとの共同制作で、客演陣もRick Ross、Freddie Gibbs、Lil' Wayne、Big Sean、Dom Kennedy、Queen Naija、Westside Gunn、Conway The Machineと告知時点から期待膨らむメンツでした。
作品全体の空気感として、Benny本人も否定しなかった様に2000年代初期のロカフェラを思わせるソウルフルでバウンスなプロダクションや、Jay Zのクラシックアルバム「Reasonable Doubt」の面影を感じさせる印象の本作。
※ 「Reasonable Doubt(合理的な疑い)」に対し、本作も裁判用語の「Burden of Proof(立証責任)」
同じくハスラー上がりで実業家である、レーベル(Roc Nation)のボス、HovことJay Zにシンパシーを感じている部分も以前から見受けられました。
本作は、コア層向けの作風だった「Tana Talk 3」や「Plugs I Met」までとは明らかに異なるアプローチで、プロダクションは元よりBenny自身の幅の広さやスキルのヤバさを改めて見せつけられた気がします。
片や、Hit-BoyはBennyのRapに対する潜在能力の引き出し方がさすがの一言。
この作品はBennyにとっても大きな分岐となったはずだし、Hitの一流プロデューサーとしての"格"を感じました。
昔ながらのオーセンティックなHip Hop好きにも刺さる、これぞメジャークオリティな一枚をどうぞ!
「Burden of Proof」全曲紹介
1.Burden of Proof
クラシックを感じさせる作品は、1曲目の再生ボタンを押した時点で「期待感」を「確信」に変えてくれる気がします。
勿論、このアルバムも言うまでも無く、テンション爆上がりになった表題曲。
Freda Payneネタと思しきイントロから首振り誘発される強烈なバウンストラックは、音数もさほど多くないシンプルなループながら、Hit-Boyの手腕光る一曲。
「Brooklyn's Finest」の頭出しを意識した様な、「Pain In Da Ass」ネタも2曲目に繋ぐ最高な演出。
2.Where Would I Go (feat. Rick Ross)
元ネタのタイトルそのままのソウルサンプリングトラック。
地平線を臨む静かな海上で、クルーザーに乗った2人のBossが荘厳にライムで語り合う、そんなイメージの曲。
※現在、配信版はトラックに修正入ってます。
【元ネタ】:Where Would I Go - Paradise
3.Sly Green
バッファロー・イーストサイドの伝説的なギャングスタ、「ドナルド"スライ"グリーン」を冠する一曲。
音節を捻じ曲げた様なうねりのあるサンプルと、唸るベース、鋭く叩き付けるドラムが破壊力の高い、攻撃的なギャングスタ・シットです。
4.One Way Flight (feat. Freddie Gibbs)
2021年のグラミー賞にもノミネートされた、「Alfredo」での共演に続く、Freddie Gibbsとのコラボ。
今回は打って変わって、Gloria Scottの「Love Me, Love Me, Love Me or Leave Me, Leave Me, Leave Me」使いのソウルフルな上ネタとゴツめなブレイクの融合によって浮遊感漂う雰囲気に。
アルバムの中でも人気の高い一曲。
(Produced by Hit-Boy&Jansport J)
【元ネタ】:Love Me, Love Me, Love Me Or Leave Me, Leave Me, Leave Me - Gloria Scott
5.Famous
大ネタ、The Dramaticsの「Love Birds」使いの跳ね系で壮大なアルバム中盤曲。
「金は名声を超える」や「3本のロレックスに2つの家、6桁の数字を手に入れても、まだ自分が有名だとは感じてない」というラインからもBennyのハングリーな心情を感じさせられます。
【元ネタ】:Love Birds - The Dramatics
6.Timeless (feat. Big Sean & Lil Wayne)
アルバムのリードシングルとしてリリースされた、メジャー仕事な一曲。
透明感のあるPOPなトラックの上で、 Lil' Wayneもキレキレなヴァースをスピットしています。
【元ネタ】:Nubian Sundance - Weather Report
7.New Streets
ゆったりとした暖色のソウルトラックで、Bennyが培ったストリートの教訓を語る、間奏的な一曲。
(Produced by Hit-Boy&Jansport J)
【元ネタ】:In the Valley of My World - The Independents
8.Over the Limit (feat. DOM KENNEDY)
タイトル通り、限界超えの派手めアッパーなトラックで、勢いのあるポジティブなヴァースが映える一曲。
意外な組み合わせのDom Kennedyはフックのみ参加。
「Push It to the Limit」はスカーフェイスを意識したフレーズですかね。
9.Trade It All
無骨な印象のトラックの上で淡々とスピットを紡ぐBenny。
彼が振り返るストリートの情景は陽炎の様に朧げに感じます。
10.Thank God I Made It (feat. Queen Naija)
Hit-Boyとのレコーディングで感極まり、涙を流しながら収録した逸話も込みで好きな一曲。
母親や先立ったMachine Gun Blackを想いながら書いたんだろうなってラインに、Bennyのリリシズムと本物のギャングスタの哀愁を感じます。
Queen Naijaの温かみのある優しいコーラスも華を添えて。
11.War Paint (feat. Conway the Machine & Westside Gunn)
終盤に渋いの持ってきましたね。お馴染み、Griselda 3トップによるギャングスタ・シット。
BennyとConwayの畳みかけのヴァースと、フックのWestside Gunnが見事にバランスの取れた構成で、連携の取れたGxFR・マフィオーソスタイル。
12.Legend
ラストはセレブレーション感のある小綺麗なトラックで、締めの一曲。
この時点でのBennyの心境を一番表したリリックではないでしょうか?
ここ数年で、Hip Hop的な理想形の勝ち上がり方を見せてくれたGriselda・Benny The Butcherの澱み無い確かなスキルとビジョン。
間違い無くHip Hop史に残る、"生きる伝説"となった今だからこそ説得力のあるヴァース。
客演でもその名前を見ない日が無い位に多忙を極め、確実にネクスト・レヴェルへの階段を駆け上がるBennyの過程を切り取った「Burden of Proof(立証責任)」を是非、一聴してみてください!
2021年現在も、Harry Fraudとの「Plugs I Met 2」、TRUSTとの合同プロジェクト「Trust The Sopranos」、元Guns-N-ButterのChop-La-Rock・J-Scrillaとの「Pyrex Picasso」をリリース済みで、留まることを知らないBenny The Butcher。
勢力拡大を続けるGriseldaや自身のクルーであるBSF(Black Soprano Family)と共に、今年後半戦にもまだまだ期待!
◆Benny The Butcher Twitterアカウント
◆Benny The ButcherInstagramアカウント
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