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Dare#5 「コンクリートに根差す大樹」|Eddie Kaineについて
ニューヨーク・ブルックリン区、Bed-Stuy出身のMC、Eddie Kaineについて紹介します。
Bedford-Stuyvesant(ベッドフォード=スタイヴェサント)ことBed-Stuy(ベッドスタイ)といえば、Big Daddy Kane、Jay Z、The Notorious B.I.G.、Mos-Def、Fabolous等々、数々のビッグスター達を輩出した、ブルックリン区の名門エリアでもあります。
Kaineは、ここ数年で徐々に知名度を伸ばしてきたアンダーグラウンド・アーティストで、ブルックリンを直球でレプリゼントする正統派のライムスキルとキレの鋭いスピットが持ち味です。
90年代のブルックリン・スタイルを継承する、王道のHip Hop好きなら絶対にハマると思います!
"Eddie Kaine"のMCネームの由来は、本名が"Eddie"だったことから、ブロックの住人達が「The Five Heartbeats」という映画に出てくる、"Eddie King Jr."と掛けてそう呼んでいたらしいのですが、どうやら皆、"King"を"Kaine"と聞き違えてそのまま愛称になったらしいです(笑)
ーIt's Kaine!
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Eddie Kaineのバックグラウンド
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地元でDJをしていた父親と、聖歌隊でゴスペルを歌っていた母親の下に生まれたKaineは、幼少期から音楽に囲まれて育ちました。
兄弟も皆ブラックミュージックが大好きで、Kaineが自らも音楽の道に興味を持つことは必然でした。
初めは家族の影響もあってか、シンガーとしてのキャリアも考えていましたが、周りには圧倒的にラッパーが多かったこともあり、Hip Hopカルチャーに魅了され、9歳頃には外でヴァースを披露していたそうです。
Kaineは、数々の才能の芽が吹いては摘まれるブルックリンの厳しい環境の中で、自分がサヴァイヴしてきた人生経験や知識を若い時から音楽に反映してきました。
そんな彼が特に多大な影響を受けたアーティストは、意外にも"Bone Thugs-N-Harmony"だそうです。
一緒に作品を作ってみたいアーティストとして、同郷の英雄、故"Biggie Smalls(The Notorious B.I.G.)"を挙げています。
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別れと決別と決意
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学生時代のKaineは、音楽以外にも様々なことに挑戦し、バスケットボール選手の道を目指していた時期もありました。(ちなみにEddie Kaineのネームロゴは、New York Knicksのチームロゴのサンプリング)
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兄もバスケをやっていて、その試合会場に偶然来ていたBad Boy Recordsの名プロデューサー、"Deric D-Dot Angelettie(Madd Rapper)"との出会いもあったそうな。
しかし、Kaineを本気で音楽の道に駆り立てた決定打は、高校時代のバスケコーチの「死」でした。
学業の成績は最悪で、高校にもまともに通っていない状況だった彼に転校をすすめ、バスケに集中できる環境を与えるために手を尽くしていた最中、個人的な問題でコーチは自ら命を絶ってしまいました。
そこでKaineの気持ちはバスケからは完全に離れてしまったようです。
皮肉にもコーチとの別れによって、Kaineの音楽への一本道が拓かれたのでした。
過去のキャリア・RIMやWavyとの出会い
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ラッパーとしての音楽の才能を確信していたKaineは、2011年頃からMixtape作品を出し始め、「Hate Me Later」(2011)、「Hate Me Later Too」(2012)、「Before The Hate(The Pretape)」(2014)、「Hate Me Now(2014)」といったHateシリーズをリリースしました。
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初期は当時流行っていた、メインストリーム寄りなインストゥルメンタルやトラップビート等も使っていましたが、ラップスキルはこの頃から器用でカッコいい!
この間に自分の音楽スタイルを色々と模索していたことが読み取れます。
本人もブーンバップを土台としながらも、「Hip Hopは文化であり芸術だからこそ、お互いのアートを受け入れることが重要」と語る通り、曲調も幅広く、メロディーを付けたフロウを取り入れる等、寛容的な姿勢を見せています。
その後も、「Imma Eat Regardless..」(2015)、「NIGHTS LIKE THIS EP」(2017)、「3」(2017)、「4」(2018)、「2K19」(2018)等をリリースし、今の彼のスタイルに至るまでの軌跡を辿ることができます。
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Kaineの音楽性やキャリアが次の段階へと移行するきっかけとなったのが、2019年にリリースした「Aruku」でした。
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「Aruku」はジャケットを見ればわかる通り、日本語の"歩く(Walk)"を意味しているようです。(彼らは"The Walkers"というBKを中心とした独自のコレクティヴも形成してますね)
これまでは、トラップ・ブーンバップを行き来した感じでしたが、「Aruku」で一気に方向性が現行の土臭いブルックリンサウンドとなって、Kaineの切れ味の良いラップとがっちり融和した印象が強いです。
また、同郷ブルックリンの"RIM"との出会いも彼にとって大きな分岐点であったと考えられます。
RIMは、Boot Camp Clikでお馴染み、Duck Downにも所属しているブラウンズビルのラッパーです。
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昨年は、"The Standouts"との「Nezzie's Star」や「Legacy of Kaine:The Curse」をリリースすると、同年のクリスマス、Rome StreetzのBad Influenycに所属するプロデューサー、"Wavy da Ghawd"と「Twelve 24」をリリースしました。
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2人は偶然にも、12月24日の同じ誕生日だったということでこのタイトルになったようです。
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Wavyのパッチワークの様なビンテージ感あるサンプリングトラックは、冬のニューヨークストリートの情景を見事に投影した、ブルージーでありながらブルックリン味も感じる秀逸なプロダクションでした。そこに溶け込むKaineの鋭くも軽快なラップとの相性は最高です。
また、前述のRIMやマンハッタンのプロデューサーデュオ、"IAMT2"と「BK Caminantes」を今年初頭にリリースしています。
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あまり注目されていない気もしますが、2MCのゴリゴリのブルックリンラップと、不気味さを忍ばせたIAMT2の四方からの雁字搦めにマジでやられます。Smif-N-Wessunさながらの2MCの巧みな掛け合いも必聴です。
名将、Big Ghost LTDとの邂逅
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Eddie Kaineの次のチャンスとなったのは、先日リリースされた「A Tree Grows in Brooklyn」です。
本作は悪名高い、"Big Ghost LTD"のフルプロデュース作品ということで非常に期待していました。
なぜなら筆者は、Big Ghostの作るブルックリン系統のサウンドがかなりドツボだからです。
過去のアーティストとの共同作品でも、必ずといって良いほどブルックリンを感じるビートが随所にあり、いつかブルックリンのラッパーと作品をリリースして欲しかったので。
この作品の実現に至った背景には、昨年リリースの"UFO FEV"とBig Ghostの共同作品、「The Ghost Of Albizu」収録の「Demigods」での客演が鍵となっています。
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このアルバムに参加することとなった経緯は、実はBig Ghostから直々にオファーがきたからだそう。
今回もBig Ghostサイドからアプローチがあったようなので、以前からKaineが注目されていたことが伺えます。
Kaineは、自分とBig GhostのアルバムにもFEVを真っ先に誘い入れ、しっかりと敬意を示しています。(12曲目のSuicide Squadに参加)
こういう制作秘話はめっちゃアガります!(笑)
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作品の内容については説明不要。といいたいところですが・・・タイトルに違わず、双方のブルックリン愛をバチバチにブツけ合った隙の無い傑作となっています!
全体的にソウルサンプリング、声ネタ多め、アッパーなトラックが中心で、非常にBig Ghostらしい骨太なサウンドで、全体の統一感も流石です。
「Bucktown Salute」で垂涎モノの「Bucktown」オマージュがきちゃうし、同郷の先輩、"Skyzoo"との「Free Lunch」とかも超爽快で、Kaineもいつもよりラップがキレキレな気がしました(笑)「East Flatbush」もビートが非常にたまんない。
制作期間は1年かけたそうですが、レコーディングはたった1回のスタジオセッションのみだったらしいので、相当な集中力を試されたのではないでしょうか?
ちなみに、”De Rap Winkel Records”からリリースされた作品のフィジカルはCDも含め、ものの3~40分で軒並み完売していました・・・。
それだけ、注目度も完成度も素晴らしかったと思います!
今後もブルックリンに要注目!
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Eddie Kaineにとって、「音楽は自分の人生そのもの」であること、それが彼のモチベーションや揺るぎないスタイルの軸となっている気がします。
黄金期のHip Hopスタイルが再評価される中で、KaineやRIM、Rome Streetzの様な新たな注目株だけでなく、ベテラン勢の復興も多く見られるブルックリン・アンダーグラウンドシーン。
近年は"Pop Smoke"等の影響もあり、ドリルのイメージも強いですが、常に新しいカルチャーが生まれる中心地でもあります。
まだまだ紹介したいアーティストも新譜の層もブ厚いので、今後も見逃せないです!!
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◆Eddie Kaine Instagramアカウント
◆Eddie Kaine Twitterアカウント
◆Eddie Kaine Official Site
peace LAWD.