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Dare#8 「永劫の黒印」|ETOについて

ここ数年でNY Hip Hopの新天地は、ファイブボロウから北部=アップステイトに移り変わってきました。

未だその勢いの止まぬバッファロー・シーンを中心に、水面下で蠢く数多の原石がそこには存在します。

地獄の屋根、「Hell's Roof」ことロチェスターで、突出した才覚を持ちながら、不穏な影をちらつかせるモンスターMC、ETOもその一人です。

20年に及ぶ長期的なキャリアを経て、彼が一貫して追求する、Hip Hopの"黒さ"について迫りたいと思います。

ETOのプロフィール

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ETO(本名:Alvin Olavarria)は、ニューヨーク州ロチェスターのダーナンストリートで育った、38歳のMC/プロデューサーです。

小柄な身なりで、スキーマスクにミリタリー、黒装束を纏う姿が印象的で、いかにも物騒な様相のアーティストです。

MCネームの由来は、スペイン語の「ito」からきているそうで、活動初期は、Lil' EEto Swayze、その後、Lil' Etoと名乗っていましたが、"Lil"と名の付くラッパーがあまりに多すぎるという理由で、2017年頃から名義を"ETO"に変更しました。

彼は、17歳の時に銃の不法所持で逮捕された後、趣味ではなく本気で音楽に取り組み始めました。

現在、ロチェスターのアンダーグラウンドシーンを索引するTRUSTの38 Speshとも、旧知の仲だそうです。

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ETOは、自分の音楽性に影響を与えたアーティストとして、ニューヨーク・クイーンズブリッジ出身の"Nas""Mobb Deep"の名前を挙げています。

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2010年頃に、初めてETOのMixtape「Masks&Nose Candy」を聴いた時、最初はクイーンズのアーティストかと思っていたので、QBサウンドからのインスパイアというのは納得がいきます。

ETOが好んで使用するサウンドは、ダーク、ホラー、グライミー、ウィアード、ハードコア・・・等々、その手の表現には事欠かない、お世辞にも大衆向けとは言い難い過激なスタイルです。

彼の特徴的なしゃがれ声は、ビートが演出する陰鬱なムードを一層に引き立て、冥府の様な荒廃した世界観に引きずり込まれます。

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また、ビートに対するラップの間の取り方や、ガヤを使った隙間の埋め方等も極めて秀逸です。

加えて、それらの表面上のラップスキルに留まらず、まるで二つの人格が対話しているような、聴覚に訴える演出等にも余念のない、技巧派のMCです。

勿論、ビートメイカーとしても、ダークでソリッドな音楽を提供しており、客演ではなく、プロデューサーとして制作に携わることもしばしばあります。

NEW CRACK ERAについて

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ETOは「NEW CRACK ERA」というインディペンデントレーベルを主催し、バックDJのDJ BeanzJai Black、Bubu the Prince、Jayといったメンバーが所属しています。

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NEW CRACK ERAの名称には、1980~1990年代にアメリカの貧困地帯でクラックコカインが蔓延した時代背景のような、粗々しく、野性的なラップを復活させる意味が込められているそうです。

ETOのディスコグラフィー

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ETOは、Mixtape文化の全盛期だった2006年頃からリリースをし始めました。

2007年には、当時Dipsetに加盟していた「THE SENATE」のTaj Mahalと繋がりを持ち、Juelz Santanaのスタジオに行ったり、Un Kasaや 故Stack Bundles、Max B等、当時のDipset関連のアーティストとも共演を果たしています。

それ以外にも、J-HoodやRansom等、当時の東海岸の顔役たちとコネクションを持つことに成功しました。

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また、「Cold Summers Entertainment」というレーベルに所属したり、ロチェスター出身のDJ、Green Lanternによる、「Team Invasion」がサポートしたMixtapeを出す等、積極的な活動を行ってきました。

この頃は比較的曲調も幅広く、現在とはまた違った雰囲気のETOを聴くことができます。

GRISELDAの楽曲も数多く手掛ける、Beat Butchaとも、この頃は頻繁に制作を行っていました。

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2017年頃からは、プロデューサーとタッグを組んだ作品をだすようになり、徐々にETOの画一的なスタイルが磨かれていきます。

「OMERTÀ: THE FILM」(2017)

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シチリアのマフィアの「血の掟」を示すタイトル。映画のサウンドトラックを想起させる作品です。

2007年にMy Spaceで連絡を取り合って以来、数々の制作を共にしてきた盟友、V Donとの共作EPで、彼のドラマチックでケミカル臭の強いビートが、ETOの特異なフローと見事に混じり合っています。

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「Motion Picture」(2018)

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「Valenti&Rizzuto」(2018)

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「New Crack Era」(2018)

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「Heather Grey」(2019)

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「Hell's Roof」(2019)

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クイーンズ出身のMC、Meyhem Laurenから紹介を受けた、Soul AssassinsDJ MuggsとのジョイントEPは、各方面から高い評価を得ました。

御大Muggsは、ここ数年、アンダーグラウンド界隈のMCたちとのコラボレーションを着実に積み重ね、驚異的な化学反応を起こし続けています。

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Muggsのビートは、並みのMCではおよそ乗りこなすことの難しい、玄人向けのハードコアサウンドが特徴ですが、ETOの独特な声質とラップスキルはそれをも凌駕する、強烈なインパクトを残しています。

「Long Story Short」(2019)

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「Rocamerikkka」(2019)

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曲調や声質的にも相性の良い、Flee Lordとタッグを組んだ本作は、個人的にもかなり好きな作品の一つです。

Green Lantern、Tricky Trippz、Melks、JR Swiftz、Graphwize、V Don、GodBLESSbeatz、Big French、Fith、そしてEtoがプロデュースしたサウンド群は、それぞれのプロデューサーの持ち味を存分に生かした、非常に分かりやすいブーンバップノリで構成されています。

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Flee Lordは、クイーンズのファーロカウェイ出身で、ETOが影響を受けたMobb Deepの意志を受け継ぐMCということや、割と初期に共演したStack Bundlesもファーロカウェイ出身で、その辺りの共通項も非常に興味深いです。

ちなみに、「Roc Connectin」は、ロチェスターが"ROC City"と呼ばれることと、ファーロカウェイも"Far ROC"だったりするので、その辺も掛けてるのだと思います。

「Front Row」(2019)

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フランスのレーベル、EFFISCIENZに所属するMil Beatsとの共作は、全編通してホラーコアサウンドとなっており、ETOの真骨頂が存分に発揮されています。

Mil BeatsはWestside GunnやConway、Vic Spencer、MOOD、Main Flow等とも作品をリリースしていて、どれもHip Hop度数の高い良作ばかりです。

「The Circle」(2019)

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「Beats Me」(2019)

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「Flour City Street Bible」(2020)

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「The Beauty Of It」(2020)

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本作は、Alchemist、Daringer、Statik Selektah、Marco Polo、V Don、Green Lantern、Large Professor等の一流プロデューサーたちが名を連ねた、ETOの作品の中でも渾身の力作となっています。

客演には、Jai Black、Flee Lord、Grafh、Willie The Kid、Rome Streetz、Sha Hef、Vinnie Paz、Ill Bill、Lord Goat等々、新旧問わずアンダーグラウンドの豪華メンツが華を添えています。

Flour City Street Bible 2(2020)

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Eto Brigante(2020)

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この作品のMVには、「SCARFACE」、「Carlito's Way」にも出演していた俳優、"Ángel Salazar"とも共演しています。「Chi Chi get the Yayo」ですね。

ちなみに、ETOがカリートの道で一番好きなシーンは、ビリヤード場の乱闘シーンらしい。

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Rocamerikkka 2(2020)

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「The Perfect Storm」(2021)

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ETOのフルプロデュースによる、クイーンズ・サウスジャマイカ出身のNyce Da Futureとの共作EP。

改めてETOのプロダクションは、空気感の同じクイーンズ出身のアーティストと相性が良いです。

その他にも、Bodega Bamzが率いる「Tan Boys」での活動や、Flee Lordが旗揚げした「LORD MOBB」の一員である等、多方面での活躍で名を馳せています。

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今年は、ETO名義の作品を一枚も出さないそうですが、来年以降の新たな動きに期待しています。

ETOの求める"黒さ"の神髄

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ETOの伝えるメッセージは、ストリートでの経験に基づく、生々しくリアルで純度の高い言質の結晶体となっています。

自身の経験こそが最大のインスピレーションの根源であり、バイオレンス、ドラッグ、犯罪、愛憎、社会の闇・・・Hell's Roofの裏通りで見てきた景色を巧みなレトリックで描写する能力に長けています。

猟奇的な犯罪心理やマフィア映画に見るような言葉選び、その全てがETOの重い語り口から紡ぎ出されます。

彼にとって、ラジオを席巻するヒットチューンや商業的に加工された音楽は"くだらない"と吐き捨てます。

一人の表現者として軸をブラさず、忍耐と一切の妥協の無いこだわりが、彼の魅力を引き立てる要因であると感じます。

声なき者の声として、真実の"黒さ"を追及するETOの革命はまだまだ終わらない。

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peace LAWD.

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