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Dare#14 「バージニアからの変異体X」|Fly Anakinについて
前回のナンバリングに引き続き、バージニア州出身のアーティスト、Fly Anakinをピックアップしました。
Fly Anakinが育ったリッチモンドは、都市部のワシントンDCやシャーロット、アトランタの間に位置し、D'Angelo、Timbaland、Pusha T、Missy Elliot、Pharrell Williams等々、何人もの著名アーティストを輩出してきました。
しかしながら、エリア的な知名度は低く、Hip Hopシーンの土壌としては陽の当たらない未開の地でした。
また、リッチモンドのHip Hopシーンは、対立構造こそ無いものの、トラップとブーンバップのシーンが相容れず存在し、それぞれがワーク・エシックに基づく考え方で分立しています。
ここ数年でリッチモンドのブーンバップは、このFly Anakinを中心とした、"集団的ムーヴメント"の実験的な段階を経て、新たな局面を迎えていると感じます。
彼のデビュー作、「Frank」のリリースと併せて(数年前から彼らの動きに注目していた人たちには改めて)、そのプログレスの一端を紹介します。
Fly Anakinのバイオグラフィ
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Fly Anakin(本名:Frank L. Walton, Jr.)は、バージニア州・リッチモンド出身の27歳のMC・プロデューサーです。(現在は、アトランタに移住)
彼は、自身のクルー「Mutant Academy」の創設メンバーの一人であり、現在はロンドンのインディーズレーベル、「Lex Records」に在籍しています。
Anakinのラップは、耳に粘り付くハイピッチボイスと、自在に捲し立てるフロウが非常にユニークで、一度聴けば忘れられないこと必至です。
Fly Anakin - one of the illest MCs🙌🏾
— Madlib (@madlib) July 18, 2019
また、カリフォルニア州オックスナード出身のプロデューサーで、Hip Hop界の革命児ことMadlibに、「one of the illest MCs」と言わしめたことでも話題となりました。
Fly Anakinの経歴
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Anakinは、Lenny WilliamsやEarth, Wind And Fire等が日常的に流れる、ソウルミュージック好きの家庭に生まれ、幼少期からソウルやR&Bといった、スロージャムに囲まれて育ちました。
Hip Hopとの出会いは兄の影響で、Ghostfaceの「Ironman」や、Hot Boysの「Guerrilla Warfare」等を聴いたことがきっかけです。
Anakinは9歳の頃、兄に取り入るために、"ラップの真似事"をやり出しますが、本格的に取り組んだのは、同郷のHenny L.O.と出会った13歳の時(2008年頃)。
彼らは、「Mutant Academy」の前身となるチームを結成し、Henny L.O.の自宅でレコーディングをやり始めました。
Anakinは14歳の時に、初のミックステープ作品を作り、それ以降も毎年何かしらの制作を行っていたようです。
キャリア開始直後は、DeuceというMCネームを名乗り、その後、Nathan Hale→N-Haleと改名し、2011年頃から現在の名義に落ち着きました。
当時は、ミックステープ・エラ全盛期のLil Wayneの影響を強く受け、その他様々なアーティストの楽曲に触れることで、徐々に自分のスタイルを見つけていきます。
Anakinの現在のサウンドが確立されたのは、ニューヨーク州マウントバーノン出身のプロデューサー、ewoneeと2014年にコラボリリースした、「mirrors_episode.1」辺りからと話しています。
また、同年頃からプロデューサーとしてのキャリアも開始し、Big Kahuna OGの「360 Santana」(2020)を全曲プロデュースする等、マルチな才能ぶりを発揮。
直感的かつ、スピーディに作品をリリースできる環境を作るため、レコーディングとプロデュース、そしてミックスまでできるようになることを自身の目標としています。(ちなみに、同郷のBig Kahuna OGは、ミックスとマスタリングまでやっています)
彼は自身の音楽について、「俺にとってはそんなに深い意味はない、自分の人生とその瞬間に起こっていることについて話しているだけ」とクールに語ります。
「Mutant Academy」の結束
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「Mutant Academy」は、リッチモンド出身者を中心とした、大所帯のアーティスト集団です。
メンバーには、MC陣のFly Anakin、Henny L.O.、Big Kahuna OG、プロデューサーに、Foisey、ewonee、Tuamie、Unlucky Bastards、Sycho Sid、Graymatter、Ohblivらが名を連ねます。(Koncept Jack$on、BSTFRNDは現在は脱退)
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前述の通り、Fly AnakinとHenny L.O.の中学時代の出会いがきっかけで誕生し、この2人を中心として、その後は勢力拡大していきます。
Anakinのキャリアにとって重要な転機の一つである、2014年以降から、クリエイティブ・チームとして機能させるべく、メンバーを増員してきました。
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この周辺と頻繁に共演している、リッチモンドのOG、Nickelus Fや、Anakinとは「FlySiifu's」(2020)、「$mokebreak」(2021)といった、秀逸なコラボ作品を残している、アラバマ州バーミンガム出身の奇才、Pink Siifuらも名誉会員としているそうです。
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また、GraymatterとBig Kahuna OGを中心とする分隊、「Scheme Team」は、3way Slim、Monday Night、Fly Anakinらが所属しています。
リッチモンドにある彼らのスタジオ、「Holly Block」に集う地元の仲間たちと互いに刺激し合い、ファミリーの様な関係性を保ち続けています。
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特に、Big Kahuna OGやMonday Nightは、個々でも非常に魅力的なキャラクターなので、(多分)また別の機会に詳しく紹介するかもです。
「Mutant Academy」の音楽性は、レトロな感覚を持ちつつも、決して90'sオマージュという雑な括りに捕らわれることなく、独自性を保つ前衛的なサウンドとラップスタイルの両立を体現しています。(Fly AnakinとKoncept Jack$on名義ですが、「Chapel Drive」(2017)で、各メンバーの音源が割とまとまった形で聴けます)
サンプリング主体の小洒落た緩めのループに、イカツいドラムやキャッチーなフックを必要とせず、短尺のグルーヴの中で繋がれた質素なマイクパスに渋さを感じます。
いわゆる、"ギャングスタ"的なアプローチとは一線画す、少々ヤンチャなライフスタイルと思索を凝らしたライムを音楽に溶かし込み、確固たる共同体意識の下で、絆を感じるコミュニティ形成を行ってきたことが伺えます。
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彼らの作品は、主に身内同士のコラボレーションをローテーションによって変化を付けつつ、扶助し合うリリース・スタイルで成り立ちます。
MC × プロデューサーの組み合わせを変えることは勿論ですが、例えば、MCがミックスやマスタリング、シーケンスを行ったり、プロデューサーがビデオやアートディレクションに携わったり。
大所帯のメリットを存分に生かし、仲間内で完結する、しかも役割分担はその時々でバラバラ。この一見ゴチャついた感じを、芸術的にまとめ上げるのが、このコレクティヴ(仲間たち)の面白いところです。
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Anakinは、自分たちの音楽について、「レーベル契約がないからアンダーグラウンドなだけ」と語っており、「Mutant Academy」は"地下"に留まり続ける存在では無いことをアピールしています。
また、Henny L.O.も、「アーティストとして、アンダーグラウンドもメインストリームも関係ない」と言う通り、より広範囲なフィールドで活躍するビジョンを彼らは見据えているのです。
デビュー作、「Frank」について
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Fly Anakinが所属するレーベル、「Lex Records」から、先日リリースされたばかりのデビューアルバム「Frank」について、「この作品をデビュー作と呼んだのは、制作に一番予算がかかったからだ」と彼は語っています。
客演には、盟友、Henny L.O.、Pink Siifu、Big Kahuna OG、彼のメンター的存在、Nickelus Fといった常連メンツと、ニュージャージー州・ニューアークを拠点とするシンガーソングライターのBillzegyptが参加しています。
プロデューサーには、MutantコレクティヴのFoisey、Sycho Sid、Ohblivや「Stones Throw Records」のDJ Harrison、Lastnamedavid、Pac DivのLike、Eardrum、そして、人間的にも信頼を置くEvidence、Anakinの大ファンでもあるMadlib(クレジットには、Fly Anakinとの共作を示す「MadFly」)、過去の楽曲、「Custie Bop」でも共演済みのJay Versaceといった、興味深いメンツがずらりと並びます。(一曲、セルフプロデュース)
本名を冠したセルフタイトルの本作は、「FlySiifu’s」と時を同じくして、2018年から2019年にかけてレコーディングされた楽曲で、実質的には"過去作品"と呼ぶべきかもしれません。
しかし、彼の音楽の時間軸はタイムレスであり、古典的な位置付けの先を行く、雄大な世界観を生み出し、ストリートとクラウドラップ的アプローチを絶妙なバランス感覚で融合した、新たな扉への鍵となっています。
本作は、Anakinの作品の中でも最もパーソナルな面にフォーカスし、「Mutant Academy」初期の感覚を再現するために作られた、"自身のコミュニティに捧げる作品"とも語っています。
また、幼少期に父親が聴かせてくれた、ソウルやR&Bのレコードからインスパイアされたビートセレクトは、終始メロディアスで甘美なサンプリングループで埋め尽くされています。
渾身の全17曲入りのアルバムを、ぜひ通しで一聴して欲しいのですが、何曲か摘んで紹介したいと思います。
制作当時好んで聴いていたという、Max Bからの影響も感じるフックコーラスの「Love Song(Come Back)」、定番ネタの切り口を変えた、Sycho Sidの変態ループがクセになる、Henny L.O.との「Dontbeafraid」、タイトル通り、自身に影響を与えた、亡きレジェンドに捧ぐ、Evidence作の「Sean Price」、DJ Harrisonのロウ・ファイなビート上で、ブラック(黒人)の内なる声を、BillzegyptのコーラスとAnakinのヴォーカルで重ね合わせたフックが印象的な「Black Be The Source」、グリッティかつ低音呻るサウンドで、Nickelus Fと問いかける「Ghost」、Madlibのダンサンブルな上モノと濁ったビートでリズミカルにスピットした「No Dough」、Evidenceの「Unlearning Vol. 1」での活躍も記憶に新しいEardrumが、和ネタをドラムレスで無駄無く仕上げた「Grammy Snubnose」、Foiseyのソウルフルなビートで内省的な抒情詩を吐露した「Poisonous Primates」、最後は、Jay Versace得意のミニマルなドラムレスの聖域で、ヴァースオンリーの「Bag Man」にて締め括ってます。
Anakinは、このリリースを契機に、全米・ヨーロッパツアー等、ファンベースや活躍のフィールドを絶賛拡大中です。
加えて現在は、Graymatter、Foisey、Theravada、Chuck Strangersらとのプロジェクトも進行中だそう。
Fly Anakinのディスコグラフィ
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Fly Anakinの作品は、「Mutant Academy」のMC、プロデューサーらと共に、複数のコラボレーションを重ね、自身のスキルやスタイルに磨きを掛けてきました。
近年は、コラボ作品を量産しているスモーキーな相方、Big Kahuna OGとの「Big Fly」シリーズや傑作「Holly Water」、独創的でジャンルレスなMC、Pink Siifuとリリースした、オリジナリティ溢れるコンセプトとサウンドの「FlySiifu's」等々、どの作品も彼らのコレクティヴの色が出た、バラエティに富む作品が並びます。
また、外部客演でも、V.Don、Bane Capital、Paul Wall&Termanology、NugLife、Ankhlejohn、Rahiem Supreme、Smoke Dza、Evidence、Buckwild、Vic Spencer、Reallyhiiim他、多くの現行アーティストたちからも高いプロップスを得ている、Fly Anakin。
活動初期の音源は見つからなかったので、現存している2014年以降の音源(コラボ名義を含む)を以下に紹介します。
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◆Fly Anakin Instagramアカウント
◆Fly Anakin Twitterアカウント
◆Fly Anakin Soundcloudアカウント
◆Fly Anakin Bandcampページ
◆Mutant Academy Bandcampページ
peace LAWD.