助言 #5
食事の後、バーに寄り、彼女の講義を聞きます。
「さて、さっきのつづきだけど、新たな管理手法ってやつを教えてよ」
「あら、新たな管理手法とは言ってないわよ。別の管理手法っていったのよ。」
「うん、うん、それで」
「先ずは、1つめは、プロジェクト管理よ」
「えー、プロジェクト管理なら知ってるよ。でも、プロジェクト管理は、プロジェクト毎に、
管理する手法じゃないか。
工場の中には、何百ものプロジェクトが同時に流れていて、そのプロジェクトを
一件ずつ管理しても、結局、いわゆるリソースというやつが競合して、
まったく使えないんだよ」
「そうね。良く知ってるわね。まだ続きがあるのよ。
伊藤君の工場は、複数のプロジェクトが錯綜している状態でしょ。
従来のプロジェクト管理手法には、複数プロジェクトのマネジメントという観念がなかったのと、
元の期間を短縮するためにどうしたら良いかというアプローチや方法論もないし、
予定は、遅れていくという前提で、いかに遅れないようにするのかを問題にしていたのよ」
「へーそうなんだ」
「まー、私もまだ勉強中なんだけどね。日本の製造業は、
元の期間、つまり工期を短縮するためにどうしたら良いかというアプローチで、カイゼンを行ってきたんだよ。
ところで、リソースの定義だけど、なにがあるの」
「うちの工場の場合には、作業者、機械、そして作業場所がリソースかな」
「へー、作業場所ってなに」
「かなりの大物を製作しているので、作業する場所が問題になるんだよ」
「そうか、そんな制約もあるんだね」
「うん、それで」
「まーせかさないで、聞いてね」相変わらず、彼女の目は輝いています。
「2つめの手法はカイゼンのアプローチよ」
「えっ、よくわからないよ」
「カイゼンというアプローチで、先ずは現状の工場の状態を理解することよ。
たとえば、伊藤君が関わっている製品のリードタイムは、どのように決まるの。」
「えーっと、各職場長が図面を見ながら、工数を見積もるんだよ」
「ふーん。じゃー、その図面が無い場合はどうするの。
たとえば受注とかいわゆるプロジェクトの開始時点ではどうやってリードタイムが決まるの」
「えー、難しいこというよな。過去の同様の物件を参考にして」
「そうなるわよね。ところで、リードタイムの定義はどう考えてるの」
「すべての工数の合算だよ。いわゆるクリティカルなんとかで決まるんだよね」
「あー、クリティカルパスね。でもそれだとカイゼンの糸口が見つからないわよ」
「うーん」
「じゃ、答えを教えてあげるね。リードタイムの定義はね。
ものを製作する作業の時間と当たり前だけど運搬などの時間もあるよね。
そしていわゆる滞留も考慮したすべての時間の合計よ。
つまりリードタイムが、作業の時間の合計だという認識だとなにもカイゼンに結びつかないの。
停滞の認識があまりないということは、カイゼンの可能性がたくさんあるってことね。
いままでの話を整理すると、伊藤君の職場の特徴は、
一品一様であり、作業時間を正確に見積もる事は困難。
しかし経験的な工数算出は可能だが、
作り直しが発生したり、設計変更が発生する。
これらの工数は事前に予測することは無理だよね。
でも、すべての進捗が把握できていて、
その進捗状況を反映して、計画の組み替えがスピーディーにできればいいよね。」
「言ってることはわかるけど、具体的にはどうしたらいいのか、わからないよ」
「えー、こんなにわかりやすく教えてあげたのに」