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カタコト

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見上げる夜空は何の匂い

なかなか簡単に流星は流れない
まだ時間が早いのか、ちょっと曇り気味なのか

春の夜空を眺めながら、懐かしい匂いを感じる
いったいこの"匂い"とは何なのか、なんと表現したらいいのか分からないけど
この感覚をわたしは匂いと呼んでいる

気温や湿度、自然界から湧き出す香り、静まった中に反響してくる音
そんな五感で感じるものを混ぜ合わせたものが"匂い"だ
ゆうなれば今感じている雰囲気だけど、その場で感じる

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『片言の片想い』②

『片言の片想い』②

台風は町中を覆った暑苦しい空気を連れて太平洋に消えた。
残された空は澄んでどこまでも高く、
小さくまとまった雲のかけら達がまばらに散っている。

リビングにあつらえたほんの飾り程度の出窓からは、
隣家の庭を挟んだ向こうに浜辺が見える。
ほんの数日前まで賑わいを見せていたビーチも、
今は人影もなく全く別の場所のように思える。
波は人だかりを名残惜しむように静かにゆっくりと寄せては返している。

この

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カタコト1

何もしていないわけでは無いが、気がつくともう秋だった。

確か私が最初にここに来てから半年が経っている。
季節は二つ進んでいる。

時が経つのを悪いこととは思わない、けど、少しもどかしい。
よく10月頃から「もう一年終わっちゃうんだねー」とか、「もう3月とかこの前お正月だったのに早いねー」だの言う人がいる。
時間の流れ方は人それぞれで、そういう感想をもっても悪いわけじゃない。けど自分はなんだかそん

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『片言の片想い』①

『片言の片想い』①

 私の鼻先を春の薫りがかすめる。風に揺れるカーテンは、眠る大きな森の妖精が深く静かに呼吸をするようにゆっくりと膨らんではしぼんでいる。
 読もうと思って本棚から持ってきた本は、開かれることもなく私の手の届く範囲内の一番遠い所へ置かれている。
 いや、私が意図して脇へ追いやった。こんな本を読んでいる所を見られたら、彼はなんて言うだろう。そしてそれを見られた私は、なんて反応をしたら良いのかわからない。

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