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『負け犬の遠吠え』 酒井順子

この本における「負け犬」とは
未婚、子ナシ、30代以上の女性

それ以外の女性は「勝ち犬」と呼ばれ、
男性については「オスの負け犬/勝ち犬」と表記されます。

こと女性に関して言えば、今も結婚と子供というポイントによって勝ち負けの評価はなされがち。言論統制が行き届いている現在、

「エッ、まだ結婚してないの?なんで? 今はよくても、歳とってから寂しくなるよ〜」
といったわかりやすい差別発言は減ったものの、

「ああ、負けてるんですね」という無言の評価を、私のような三十代・独身・子ナシ者はなされるわけです。

p10

言論統制という表現は良いですよね。

本書を初めて読んだのは私が大学生のとき
佐藤可士和さんの装丁が印象的だったのと(装画は井筒啓之さん)
当時は広告業界に憧れていたり、なんとなく自分に関係ありそうだと思って手に取った記憶があります。

判断基準

面白そうなことを、どうしても選んでしまう。これは負け犬の性(さが)であり、業であります。

 勝ち犬的要素を持つ人も、面白いことは好きなはずです。しかし彼女達は、それこそ犬のような嗅覚を持って、面白そうなことが放つ危険な香りを嗅ぎ分け、その香りが漂う場所には近付かないようにすることができる。

一人の女子大生が、商社とマスコミ両方の内定を勝ち得た時、商社を選ぶのが勝ち犬で、マスコミを選ぶのが負け犬なのです。

p18-20

マーケットの魔術師』という本で、エド・スィコーターが
「勝っても負けても、皆、自分の欲しいものを相場から手に入れる」
と言っていたのを思い出します。

勝ちトレーダーは利益を、負けトレーダーは熱狂を手に入れている。


踏み絵

で、含羞問題とは何か。

負け犬からすると、勝ち犬というのは人生のある地点で、結婚という目標を達成するために、一回恥を捨てた人に見えるのです。

 それはつまり、狙いを定めた男性の前で酔ったフリをしたり、「お見合いしろって親から言われてるの」とか「妊娠したかもしれない」とか「料理が得意なの」などと嘘をついてみたり、泣き落としをしたり、1オクターブ高い声で話したり、経歴詐称してみたり、一人では生きていけないフリをしたり、それなのに婚約が整った後は急に強権を発揮しだしたり。

 負け犬が手練手管だと思っているものは、しかし勝ち犬を目指す人にとっては、"生きていくためには必ず踏まねばならぬ踏絵" です。

p27-28


趣味

身も蓋もない言い方をすると、和風趣味に限らず、何かの趣味に熱狂的にのめり込んでいる負け犬というのは、とってもモテなそうなのです。(中略)
彼女たちはおしなべて、「色気」とか「おしゃれ」といった言葉には無縁な感じ。処女率が異常に高そうな世界です。

p127

宝塚、競輪、寄席などでスターの出待ちをしている人たち。
今でいう推し活ですが、この文章が書かれた2003年には「推し」という言葉は存在していないためアディクション=依存という単語が使われています。

そして踊りを趣味とする人も多い

働く独身女性のアディクション対象としてもう一つ顕著なものに、「踊り」があります。フラメンコにフラダンス、サルサにベリーダンスにクラシックバレエ等、やけに負け犬達は踊っていて、私もしばしば素人踊りの発表会に誘われることがある。

p128


社会への影響

単身者と所帯持ちでは、人生観も変わってきます。

明日死んでもいい。
腐乱してもいい。
骨がどうなろうと気にならない。

 ……そんな考えを持つ人が、働き盛りの世代に、少なくないボリュームで存在している、今。それは日本にとって、決して喜ばしい状態ではないでしょう。

p235

少し前に話題になった単身FIRE希望者のレポートを思い出しました。
→ みずほリサーチ(2024/08/29)


後半に掲載された「負け犬にならないための十ヶ条」のうちの1つは、VERY、STORYなどの勝ち犬系女性雑誌を読むべし、ということでした。

勝ち犬女性誌が世の女性達に教えようとしている最も重要な問題は、
「疑うな」ということ。

「私はこのままでいいのか?」「本当の自分って?」などという、自分以外の人間には何ら意味を持たぬ疑問を抱いてうしろをふりかえったり考え込んだりせず、「夫と子供とお金とお洒落」を得ることイコール幸福、ということを信じて疑わない姿勢を持つ。

p284

欲しいものを明確にするということは、どのイデオロギーを信じるかということになるのかも。


おわりに

人間誰しも、"私の方がまだマシかしら" とホッとしたいがために、自分より下の存在を必死に見つけようとするものです。

p272

 その場を丸く収めるコツは、
「本当に、これでいいのかって感じですよねぇ。親も可哀相だから安心させてあげたいんですけどねぇアッハッハ」
と、負け犬に徹することです。

女として幸せになりたいとは思っているけどなれないのだ、という意思を表明しないと、相手は決して納得してくれません。余計な気を遣わせて申し訳ないとは思いつつも、その「とっても交わらない感じ」に、私は疲労するのです。

p198

「女友達」「ピュアな性格」の項目も紹介したかったのですが、長くなったので割愛しました。


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