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『巨大IT企業クラウドの光と影』 (ディストピア小説)
2020年に翻訳されたSF小説。
Amazonがモデルになっている巨大企業「クラウド」は
ドローン配送による通販会社としてスタートし、現在では商品開発、保険、教育なども提供する巨大なグループ企業となっている。
近未来というほどでもない、現実にありそうな管理社会が描かれていて面白かったです。
クラウドシティ
「クラウド」に採用された人間は、社員だけが住むクラウドシティで生活をする。街では衣食住すべて揃っており、映画館もパブもある。イメージとしては "大きな刑務所" だが、看守も囚人も正社員だ。
仕事区分により制服の色が決まっている
赤シャツ:倉庫作業
緑シャツ:調理、清掃
青シャツ:警備
茶色シャツ:技術部
白シャツ:管理職
オレンジシャツ:ドローン、配送
▶️ 監視カメラはあまり多くない。金がかかりすぎるため。
人々の監視は配給されたデバイス(手首バンド)の位置情報で把握している
▶️ 街の中では、ずっとデバイスを装着しなければならない
・情報や指示が届く
・エレベーターや扉の操作に使う
・支払い
・脈拍などの健康情報が記録される
▶️ 入社時に遺伝子情報を取られる
社員の待遇
▶️ 格付け制度があり、自分のランクが星の数で表示される ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
星1つになると解雇される ⭐️
▶️ 給与は「クレジット」で支払われ、米ドル換金する際に手数料がかかる
▶️ クラウドwebでの社員割引 →5%OFF
また、住人同士が仲良くなりすぎないように設計されている
ジニアにはひとつの仮説があった。
誰かと親しくなるとアルゴリズムによって引き離される。
ジニアとパクストンは最初は同じスケジュールだったが、不思議にシフトの時間がずれていき、パクストンの方がジニアより4時間から5時間ほど早く上がるようになっていた。ミゲルもそうだ。何度か時計で呼び出そうとしたが、一度も同じ時間に働いていたためしがなかった。
社会システム
官と民には大きな違いがひとつある。民間の開発業者は金儲けが目的だが、政府の目的は雇用を維持することだ。だから政府はできる限り延々と事を長引かせるんだよ。
「デトロイトの学校制度が全面的にチャータースクールに切り替わって、数学の先生は1校にひとりじゃなく、地域の全校にひとりにして各教室に動画を流すことになったの。むかしは教師の数が1万5000人だった。今は100人もいないわ」
レコードの普及により、人々が一流の演奏だけ聞くようになって音楽家が活躍する場が奪われた時代と同じ現象が起きたようです。現実世界の学校教育も、今後もっと変わっていくような気がします。
今あるもので満足しろ、と自分に言い聞かせる。仕事があって、住む場所があって、美しい彼女がいる。そのほかはみんなオマケだ。
▶️ 主人公のパクストンが不正を糾弾するのは、企業スパイだった彼女を失ったあとである。社員たちに、大きなシステムの歯車であることに満足してもらうためには、失いたくない何かを与えておくほうが良い(待遇、家族、恋人)
「家族を路頭に迷わすわけにはいかない」
「何かが間違ってる気もするが、現時点ではベストの選択だ」
(政府がシングルマザー支援に消極的なのは、男性と再婚してもらい、彼らの生きがいとしての役割や介護を担ってもらいたいからではないかと思ったりします。陰謀論かしら、、🤔)
▶️ 作品内で言及される小説
『すばらしい新世界』
『1984』
『華氏451度』
『侍女の物語』
『オメラスから歩み去る人々』アーシュラ・K・ル・グィン
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