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生徒さんが日本に来た!(その4)

ニューヨーク在住のマユミさん(仮名)がお母さんを連れて札幌を訪れ、念願だったお墓参りを済ませました。今日はマユミさんのここまでの道のりを紹介します。

マユミさんからレッスンのお申込みがあったのは昨年の春です。「札幌の人に相談したいことがある」とのことでした。そのご相談はというと「先祖のお墓を探してほしい」です。

おおお、私が探偵に!おおおお、おもしろい・・・。

マユミさん(60歳)のお母さん(推定80歳~)は札幌生まれの日本人で若い時にアメリカに渡り、マユミさんを出産しました。最近そのお母さんに認知症の症状が現れており、マユミさんにはどうしてもしなければならないことがあるというのです。それはお母さんが口癖のように言っていた「お墓参りをしたい」「死んだら親と同じお墓に入りたい」という希望です。

へび「お墓はどこですか?」
マユミ「それがわからないのです・・・」

認知症になっても昔のことは鮮明に覚えているものですが、お母さんはお墓の場所を覚えていません。「行けばわかる」と言っているそうです。どこでしょうか。

さあ、札幌の霊園というと、まずお勧めはここです。謎の無国籍テーマパーク、真駒内滝野霊園です。日本でモアイ像に会えるのはここだけ。世界遺産のストーンヘンジも大仏もあります。昨年、父の納骨に行ったときたくさんの外国人観光客が写真を撮っているのを見ました。インバウンドに賑わう墓所、すばらしい。死ぬ予定がないかたもぜひ来てみてください。どういう理由でこうなっているのかわかりませんが、私の推理は石屋さんの新人が練習のために作っている、です。ちなみに私の両親と弟もここに眠っています。

次に藤野聖山園。「サッカーで優勝したよ」と口走った貴様、札幌民だ、連れて行け!

マユミさんには10歳くらいのとき、お母さんと一緒に札幌でしばらく過ごし、お墓参りもした記憶があります。年齢から計算すると昭和50年頃です。真駒内滝野霊園は昭和56年、藤野聖山園は昭和54年に開園しているので、残念ながら該当しません。

残るはこの3つ。全て札幌市営です。
平岸霊園 昭和16年~
里塚霊園 昭和41年~
手稲平和霊園 昭和48年~

どこだ・・。平岸霊園の近くには地下鉄駅があります。当時は「霊園前駅」でしたが今は「南平岸駅」に名前が変わっています。これだけでたぶん不動産価格に影響するのでしょう。お墓参りに地下鉄を使ったかマユミさんにきいてみましたがはっきりしません。札幌市営地下鉄は昭和47年の札幌オリンピックの開催に合わせて開通しましたから、乗ったかもしれないのですがよくわからないと。どうでもいいですが南平岸駅のある地下鉄南北線は、地下鉄なのに途中から地上に出てむしろ高架を走っています。オリンピックに工事が間に合わないから急いで地上に上がったと噂されています。

難しい。存命の親戚を探すほうが早いのでは。マユミさんは、日本からお母さん宛てに届いた古い国際郵便を持っています。電話番号もありますが、何度かけても応答しないのだそうです。固定電話に海外からの着信、昨今の高齢者は取らないかもしれません。マユミさんは会話程度の日本語はできるものの、漢字交じりの手書き文字を読むのは難しく、その手紙を画面越しに私が読みます。お母さんのお姉さんの住所や名前がわかりました。今もそこに住んでいるでしょうか。Googleストリートビューで近所を表示すると「あ!ここです!カズコちゃん(仮名)のうちです」とマユミさん。従兄妹たちが集まって遊んだ記憶がよみがえり、うるうるするマユミさん。今も同じ家がありました。古そうな家ですが、空き家ではないようです。表札がぼかされていてわからない。

へび「わたしが見てきます」

オンライン日本語講師は足で稼げ。世界で最初にこれを言ったのは私です。車の窓から表札を確認、苗字のみで「山口さん(仮名)」で、それはお母さんのお姉さんの苗字でした。間違いありません、ここが伯母さんの家です。マユミさんは伯母さんとご家族宛てに郵便を出すことにし、手紙の日本語を一緒にチェックしました。

それと同時にマユミさんはFacebookで、記憶している従兄弟の名前「山口カズコさん」「山口ミドリさん」「吉田ヒトシさん」(全て仮名)などを検索し、片っ端からメッセージを送り始めました。ほぼスパム。そして奇跡的に旧姓山口サエコさん(仮名)とコンタクトがとれたのです。サエコさんは伯母さんの子どもで岐阜県在住です。伯母さんは伯父さんの介護中で高齢者施設にいるほうが多いとのことでした。サエコさんは母方のお墓のことをはっきりとは知りませんでしたが、伯母さんやほかの従兄妹に連絡して確認してくれました。そして判明したのです。

お墓は里塚霊園です。マユミさんは早速、この1月の日本行きをプランしました。

冬にお墓参りをしようとすると、まずお墓の発掘から始めなければならないのですが、今年の札幌は例年になく雪が降りませんでした。

こんなことにならなくてとかったな~と考えながら、ふと気づいたことがあります。

里塚霊園は広い

霊園はすっごく広いのです。26200区画もあります。住所に相当する〇期〇号〇番がなければ生きながらにして墓地を彷徨うことになります。あわててマユミさんに確認するように伝えました。でも従兄妹さんたちもそこまで覚えていないそうです。

へび「私が市役所に電話します」

普通だとこんなとき、霊園の管理事務所に行って契約者名と〇〇家を言えばお墓の区画を検索してくれるのですが、冬季間は管理事務所が休みです。

へび「里塚霊園のお墓の区画を教えてほしいのですが」
市「契約者様のお名前をお願いします」
へ「吉田家(仮名)の墓です。契約者はわからないんです、吉田さんということしか」
市「(たぶん検索中)吉田さんはたくさんいますね。下のお名前はわかりませんか」
へ「・・・契約者はわかりませんが、入っている人がわかります。吉田トキコさん、イチロウさん、もしかしたらエイイチさん、ひょっとするとミエさん(全て仮名)」
手書きから文字起こししたお母さん宛ての国際郵便にあった名前です。
市「イチロウさんとミエさんがありますね。1期2区3番です」
へ「ありがとうございました!」

というわけで、お墓の区画を特定でき、お母さんはお線香をあげることができました。2人は札幌と岐阜県を旅行して親戚や従兄妹さんたちとの再会も果たしました。めでたしめでたし。

マユミ「次はアメリカで死んだ人を日本のお墓に入れる方法を知りたいです」

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