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主観と客観を切り替える鍛錬

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突然ですが、ここに一つのプロダクトがあるとします。

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そのプロダクトを見つめる視線には様々な種類があります。

そのプロダクトを利用しているユーザーの視点、利用していないが存在は知っているという人の視点、それをつくるデザイナーの視点、プロダクトを運営している会社経営者の視点…

もしあなたがデザイナーであれば、デザイナーの視点だけが唯一自分で体感できる「主観」で、それ以外はすべて「客観」となります。

主観と客観のスイッチング

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プロダクトデザイナーはユーザーの期待通りに正しく動くしくみを設計し、「このプロダクトを利用した時に、ユーザーの生活はどう変化していくのだろうか?」と問いを立てながらアウトプットを評価していきます。

自らの考える理想像をデザインしながら、一方でそれに触れるユーザーの様子を想像する…プロダクトデザイナーは主観と客観を電気のスイッチのように瞬時に切り替えることに長けた人が多いイメージを持っています。

…とはいえこのスイッチング能力、なかなか習得が難しいし教えるのも難しい。そこで最近は、一緒に働くメンバーと対話する時にはフレームワークを活用しています。

ユーザー視点でのショートストーリー

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ユーザーがプロダクトを使う瞬間を切り取ったショートストーリーを、5行の文章で書いてみる…というものです。

「ユーザーストーリーシート」と呼んでいて、「これつくりたい!」というアイデアをひらめいた際に使います。使い方は以下の通りです。

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1.好きなところから穴埋めしてください、1行目から順に埋める必要はないです。

2.すべて埋まったら声を出して読み上げます。本当にユーザー視点からのストーリーになっているか確認してみてください。

3.違和感を感じるところがあれば、文章を調整していきます。

デザイナーではない人も客観視点を体感しやすいように「5行の文章」というシンプルな形式にしています。図解などを伴わないので、企画書でもFigma上のテキストでもマークダウン表記でも容易に再現可能です。

あまり考え込みすぎず、所要時間は15分くらいを目安に書いてみましょう。

早速書いてみよう

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記入例として、生鮮ECアプリ「クックパッドマート」に最近登場した、生産者さんの選んだおすすめ食材セットが定期的に届く「プロにおまかせ定期便」機能をえらんでみました。

この機能は「出品者」「購入者」という2種類のユーザーが関わるものです。今回は「まずは魅力的な商品がなくてははじまらない、そのため今回は生産者視点での価値を理解したい」と定義しました。

まずは1行目の「誰」を記入します。

👨誰が クックパッドマートを利用している生産者
場面 
欲求 
行動 
変化 

アイデアとしては「おすすめ食材セットを定期便として登録し、隔週/毎月といった頻度で販売できるのはどうだろうか?」というぼんやりした構想はあるので、4行目にその機能を使っている光景を書きます。

誰が クックパッドマートを利用している生産者は
場面 
欲求 
行動 おすすめ食材の定期便設定をオンにして出品することで
変化 

上野学さんのデザイナーの逆推論にもある通り、デザイナーのアイデアの大半は「これやりたい」からはじまります。順にロジックを通そうとせず、解決策をいきなり書いてみましょう。

次に場面(時間や場所など)の設定、行動する上での欲求を書いてみます。

誰が クックパッドマートを利用している生産者は
🕑場面 季節の旬や入荷商品が日々変化する中
💭欲求 是非いま食べて欲しい!と思う一品があるので
行動 おすすめ食材の定期便設定をオンにして出品することで
変化 

「〜な時に」「〜ので」といった各項目の末尾は、適切な文章表現に適宜変化させてもらって構いません。

最後に、アイデアとの出会いによりユーザーの日常はどう変化していくのか?を期待を込めて書きます。ここはできるだけポジティブで、ユーザーから見て「やったー!」と喜べるような表現が良いです。

誰が クックパッドマートを利用している生産者は
場面 季節の旬や入荷商品が日々変化する中
欲求 是非いま食べて欲しい!と思う一品があるので
行動 おすすめ食材の定期便設定をオンにして出品することで
変化 食卓に並ぶ食材の意思決定を購入者から任せてもらえるようになる、定期購入により継続性のある売上がたつようになる

…どうでしょう?ひとまず項目がすべて埋まりました。

声を出して、読んでみる

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次は、声を出してゆっくり読み上げてみます。これにより、文章は自分の手を離れていき客観視ができるようになり、違和感に気づきやすくなります。主観(開発者の思惑)がまだ混じっている可能性は、徹底的に排除してみてください。

例えば「定期便設定をオンにして出品することで」という文章。

この一文にはプロダクトの動作に関する言葉(設定をオン/出品)が混じっていますが、ユーザーが能動的にしている行動は「設定をオンにすること」ではなく、「商品を定期便として販売する」ことです。

行動 おすすめ食材の定期便設定をオンにして出品することで
 ↓
行動 今おすすめの食材を定期便として販売することで

修正と読み上げを何度か繰り返して、デザイナーとして自分が信じられる表現にブラッシュアップしていきましょう。

この過程で「売上やCVRといった事業目標はあるけど、ユーザーの生活がどう変化していくかはあまり考えられてなかったね」とか「ユーザーの行動から考えると、私たちのプロダクトじゃなくても解決策いろいろあるよね。それでも利用してくれるってなぜなんだろう?」という気づきが出てくれば、それはあなたが新しい視点を習得し始めているサインです。

この工程を「ユーザー体験の解像度を上げていく作業」と呼んでいます。

・ ・ ・

さて、完成したユーザーストーリーは以下になります。

「おまかせ定期便」機能のユーザーストーリー


👨誰が クックパッドマートを利用している生産者は
🕑場面 季節の旬や入荷商品が日々変化する中
💭欲求 是非いま食べて欲しい!と思う一品があるので
✋行動 今おすすめの食材を定期便として販売することで
✨変化 食卓に並ぶ食材の意思決定を消費者から任せてもらえるようになる、定期購入により継続性のある売上がたつようになる

ちなみに今回はプロダクトの新機能の事例で紹介しましたが、◯◯に入るのがマーケティングの施策であっても、社内のオペレーションのしくみであっても使えると思います。その場合「誰が」の部分には生活者、チームメンバー、従業員、クライアント…様々な人が入ります。

これをすることで何が変わるの?

ユーザーストーリーシートを繰り返し書いていくことで、主観と客観のスイッチングをある程度自在に操作できるようになります。昨年からすべての施策でこれを書いてくれている社内メンバーがいるのですが、何度も書いて適宜レビューしていくことで、あるタイミングから不思議とするすると書けるようになりました。鍛錬あるのみ。

また、ユーザーストーリーは成果物としても有用です。アイデアの言語化が苦手な人でも、チームメンバーに簡潔にアイデアのねらいを文章で伝えることができるようになります。

そして初期仮説があることで、プロトタイピングやリサーチ時に何を確かめたいか?という明確な軸ができます。

注意点

…とはいえ、ユーザーストーリーシートはあくまで「自転車の補助輪」のようなものと捉えてください。この工程が活きるのは、プロダクトのつくり手であるあなたの手で実行可能なアイデアがある時です。まだ見ぬビッグアイデアを生むための魔法のフレームワークではありません、あしからず。

まとめ


👨誰が プロダクトのつくり手は
🕑場面 新しいアイデアをひらめいた時に
💭欲求 アイデアと出会ったユーザーがどう変化するかを予測したいと思い
✋行動 ユーザーストーリーシートを書いてみることで
✨変化 ユーザー/開発者双方の視点からアイデアの有効性を初期検証でできるようになる

もし利用してみた方で、感想や提案があれば教えてください!アップデートの参考にさせていただきます。

参考資料

このフレームワークの源流は、クックパッド社内で以前使われていた手法である価値仮説シート / EOGSや、アーゴデザイン部会さんの構造化シナリオ法 です。

価値仮説シートのシンプルさ、 EOGSの目指す未来をポジティブに見据えた表現、構造化シナリオ法のインタラクションとアクティビティの分解の考え方などを参考にさせていただきました🙏

・ ・ ・

…以上、クックパッドデザイン戦略部・部長の倉光でした。

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Miwa Kuramitsu / KRAFTS&Co.
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