ペーパーチキンが紡ぐ「マレーシアと日本の交流物語」
ペーパーチキンってご存じでしょうか?
マレーシア料理(シンガポール料理)の中で、そんなには認知度で上位トップクラスには来ないように思います。しかし、一度食べてみると、急激な認識変更が必要になる、しかも衝撃的に。そんな料理です。
どのくらいの衝撃度か?
例えば、「隣り合わせたひと(一人客)に、『一切れ如何ですか?』って当たり前のように差し出さざるを得なくなってしまうくらい!」
いやあ、さすがに少々時間をおいて冷静になったら、さすがにそんなことをしたのは生まれて初めてだと思い出します。次があるのかもわからないです。馬来風光美食のエレンさんの前だからできたのかもしれません。
その日は日曜日の夕方5時半過ぎ。馬来風光美食は今、訳あって、金土日の夕方のみの営業です(17:30-21:30)。私はコースを頼み(¥@3,500)、事前にペーパーチキンを特別に頼んでおきました。基本的には店主エレンさんによる「おまかせ」です。
早速お目当てのペーパーチキンが出ました。一応事前に調べてあります。必要な調味料で漬け込んであるチキンを、うまみを逃さないためにキッチンペーパーを使って「包み揚げ」する料理。(食べたことはないのですが、中国の「乞食鶏」に似通った料理なのかも)
大体の想像は付きます。今更ながらどうしても食べたくなったほどですから。
でも、想像はそこまで。
ペーパーチキンを出してもらって、逸る思いで紙を破きます。一口大にカットされている熱々のチキンに遭遇。まずは一口。えっ、何ですか、これは!ペーパーの中に閉じ込められたすべての「うまみ」が一気に噴出してきます。一体どんな調味料からこの味が出せるのか?そんな詮索などどうでもよくなってくるくらい。ただただ「衝撃」に身を委ねながら、食べ進むのが怖くなる不思議な時間でした。
そんな時です。ドアがおもむろに開いて次のお客さんが現れました。
「予約をされていますか?」
「いえ、していませんが・・・」
「基本的にはご予約いただきたいのです・・」
こういう事態がかなり発生するんです。実は私も最初はそうでした。「短い時間」を条件に、早い時間だったし何とか座らせてもらいました。それと同じ展開になりました。ワンプレートでのおまかせ。
このお客さん、フランスとスコットランドのダブル国籍の男性で、とにかくマレーシア料理が大好きということで、その思いをかなりの爆量でエレンさんに伝えていました。彼はワンプレートで、私はコースの複数料理。そんな状況の中で「一口如何ですか?」が発生したのです。
何でマレーシア料理には、そんな展開を生み出すような力があるのでしょうか?馬来風光美食に要素が詰まっているのだとは思いつつ、「ペーパーチキン」そのものにも内包されているのに違いありません。もっと他の料理それぞれに、お客さんの思いが詰まっているように思います。もちろん料理人さんにはその量が一番大きいのも間違いないでしょう。
例えば先ほどのお客さん、ロンドンを別にしてヨーロッパにはそんなに多くのマレーシア料理店はないように思います。あれだけの思いが、いつ、どんなシチュエーションで育ったのか?! これって「物語」だと思うのです。それぞれのお客さんが温めている極上の物語。
マレーシア料理が好きな日本人、故郷マレーシアの料理を懐かしむマレーシア人、もっと第三国からの熱烈ファン。様々なお客さんが馬来風光美食に集まり、特別な時間で特別な空気が醸成されているのです。そしてその空気はエレンさんの故郷イポーでも共通のものがあるように思います。
そんな物語を、一つ一つ表に出してみたい! それらは、ただ「マレーシアをもっとよく理解する」だけではなく、物語の「融合」によって、例えばマレーシアと日本との「相互理解の醸成」に繋がっていくし、もっと、さきほどの男性のような「第三国」にまで拡大して、膨大な広がりにもなっていくのかもしれません。いつかは。
何しろ、その日のコース料理は、こんなメニューで、すべての料理にエレンさんの「思い」が詰まっている。それらは閉じ込められているのではないのでしょうが、もっともっと広く開放させていくべきものだと思うのです。