見出し画像

天の尾《アマノオ》 第3話   ――『決闘規則』――

2話 目次 4話

★★★

促されしは確たる飛躍。殻からの解放。
闘争に明け、闘争に暮れる世界。
生命にとっての永遠の地獄――に非ず。
戦いの喜悦。闘争の恐悦。暴の悦楽。永続する至闘。
破壊と殺戮を乞い願う者達は、その世界に魅入られる。

★★★

朝、俺もポポラも寝過ごした。

よって昼過ぎ、恐らくは3時頃。

「俺の名前はナワト、凪和人《ナワト》=アズグラード。ナワトって呼んでくれ。怪我の手当てをしてくれてありがとう。超助かった」

「あ、改めて、ポポラ=レンディアだ。ポポラでいいよ。ナワトお兄ちゃんが一昨日の夜に近くに落ちてきた時は本当にびっくりしたよ」

リンゴを齧る少女が火を焚いて作ったシチューを犬のように四つん這いで食べながらようやく自分の自己紹介を終える。ポポラに若干引かれているがしょうがない。足で食べるほど器用じゃないし。
いや、おかわりはいいです。
というか、ナワトお兄ちゃんだと? この少女、なかなか分かっているじゃねーか。

「腕が両方ともちょん切れてた上に、結構高い所から落ちてたから手当大変だっただろ。なんて感謝したらいいか……」

「え、ナワトお兄ちゃん、手が無くなったのって昨日だったの? ボクが見た時には傷口塞がってたと思うんだけど。そういう能力?」

「塞がってた?  ンな馬鹿な、あの傷が自力で治るわけ……」

治るわけない……と思ったがよく考えたらわからなくなってきた。出血多量で死ぬような気もするが、人や場合によっては助かりそうでもあるような。

「まあ、そんなこともあるか。実際治ってるし、人体の神秘だな」

いや今はそれよりも。

ずっと気になっていた疑問をぶつける。

「あのー……ここってどの国の何て地域? 俺は昨日気がついたらいきなり空から落下中だったわけなんですけど」

「国? 地域? 気がついたら空から……? ナワトお兄ちゃん、対戦相手に超長距離殴り飛ばされたってこと? ワープ系の攻撃?」

「ワー……? いや、殴り飛ばされたわけではなくな。初めから空だったんだ。すぐ後に腕を切り飛ばされたりとかはしたけども」

ポポラに簡潔に事情を説明する。
話しの始まりは半信半疑に聞いていた彼女だが、ムカデが出てきた所で少し目の色が変わった。
最後まで話を聞いた彼女からの最初の一言は。

「そのムカデ……目は何色? 光ってなかった?」

食いつくとこそこかよとは思ったが素直に赤色で、確かに光ってたと言うと今度は完全に黙り込んでしまった。
が、そのまま数分ウンウンと唸っていた彼女は最終的にパンッと両手で自分の頬を張りカッと目を見開くと、

「災難だったねナワトお兄ちゃん」

と言ってくれた。

そうなんだよ……死ぬかと思ったぜ。

「で、話しが戻るんだがここはいずこ?」

「うん、今のお話でナワトお兄ちゃんがこの世界の新参者だってわかったから、ここは先輩としてしっかり教えてあげるよ。国と地域はボクも知らないけど『世界』なら。まず、この世界の名前は『天の尾《アマノオ》』。生けとし生けるものが永遠に戦い続けるだけのバトルフィールドさ」

< 天の尾ルール >
・決闘は世界(天の尾《アマノオ》)によって不定期に執り行われる。
・決闘は基本一対一で行う。
・決闘相手の相性は考慮されない。
・決闘相手同士は、互いに僅かでも勝機を持つ相手である。
・決闘の勝敗は敗者の死、もしくは制限時間超過時に決定する。
・決闘相手同士は、互いの居場所を大まかに感知できる。
・決闘に勝利する度、『力』が手に入る。

その後、俺が納得するまで根気よく聞かされた話、その多くはにわかには信じがたいものだった。

ポポラ曰く、俺達は異世界の元強者であり――彼らの死後に魂を元とし、この世界に復活させられた存在らしい。
異世界転生。

「正確には『天の尾《アマノオ》』を作った神様が見定めた生物の魂を元に、だね。ボクとかそんなに強くはないし。そして、ボク達が元の存在と違うのはただ一点、名前を除くその個体固有の記憶が消されていることなんだって。誰かは、えぴなんたら記憶とか言ってたかな」

そして消えた記憶の代わりに入るのが、飽くなき戦闘欲求、闘争心なのだという。

「だからこの世界の生物はみんな戦闘に飢えているんだよ。お兄ちゃんも、ボクもね」


いいなと思ったら応援しよう!

ビーバーの尻尾
近所のドクペ(100円)を奢ってくださる方募集中(*´∀`*)