バトルショートショート ――『指弾』VS『ノスタルジア』――
下は地平線まで広がる白いタイル張りの床。
上は異様なまでに高く広い、同様に白色の天井。
おおよそ10mの距離にて対峙するのは白い貫頭衣を着た2人の少女。
片方の名前は「カイナ」、片方の名前は「キュラ」という。
カイナは無手、対するキュラは両手にナイフを握っていた。
2人の容姿は持ち物以外、まさに瓜二つ。
そして仕合開始と同時に互いが取った行動の『自由さ』とでも言えるものも、いい勝負をしていた。
カイナはぶらぶらと腕を振ったり、手を組んで前に伸ばしストレッチをしている。
キュラは開始地点を中心としてそこからグルグルと円を描くように歩き続けていた。
互いを意識していないようにも見える動き。
まるで戦いの気配を感じさせない二人の行動は、
――相手を確実に殺すため、万全を期すためだけの前準備だ。
傍から見ただけでは理解しかねるこの日常も、二人の間では疑問を挟む余地もない大前提だった。
「う~ん……」
一通りのストレッチを終わらせたカイナは最後に大きく全身を伸ばし、パチンと両手で頬を張る。
快活な笑顔と大仰な身振りで対戦相手に両手を差し伸べ――。
「じゃ、やろうか」
――その手の指先から光弾を放った。
――Finger-Blast『トリックバレット』――
指し示した軌道にエネルギー弾を放つ。
ピンポン玉ほどの光の球がカイナの指先から放たれ、小さな尾を描きながら真っ直ぐにキュラへと向かう。
その数、実に10個。
一度に放つ『弾』の数としては、キュラの経験上『放出』系統の中で最多だったが――。
「……遅え」
遅い。
単純に、遅い。
おおよそ時速40㎞程度か。
至近距離や不意打ちならいざ知らず、ある程度の距離があって警戒していれば当たる方が難しいくらいのスピードでしかない。
「ついでに威力も大したことない。精々、僕のパンチと同程度かなぁ」
カイナが愚痴を言うようにぼやくが、キュラは聞いていない。
油断せず冷静に軌道を見極め、その延長線上から事も無げに外れる。
光弾はキュラの横をあっけなく素通り……した次の瞬間。
――カクン
「っ!?」
光弾の群れが直角に曲がった。
★★★
「♪~」
カイナが指揮者のように指を振るう。
カクン
対応するように光弾が曲がる。
カクン
時に滑らかに、時に直角に、
ヒュッ カクン カカッ
それらをキュラは良く避けていた。
すぐさまカイナの動作と光弾の挙動を紐づけ、能力を看破。不規則な挙動でカイナの描いた軌跡を予測し、そこから外れる。
ボンッ
「ッ!」
当然、それでも避けきれない分はある。
光弾の一つがキュラの背中にヒット。
しかし、彼女は足を止めない。
単発の威力は、本当に殴られたぐらいの衝撃でしかない為だ。
急所や筋肉の薄い場所に当たればダメージがあるだろうが、背や肩で受けれる程度ならば問題はない。
問題はそこじゃない。
続く光弾をナイフで切り裂き、カイナへ向かって弧を描いて走る。
「……さっきから距離を詰めたい一心かな? ナイフも持っているし、君は典型的な近距離タイプ?」
カイナが空間を引っ掻き回すように腕を振るえば、新たに発射された光弾が一定箇所を反復横跳びする局所的光壁となってキュラの進路を阻む。
また、間に合わなかった。
これで何回目の撃退だろう。
カイナの周囲をぐるぐると回るだけで、中心には決して至れない。
「ちっ!」
忌々し気に舌打ちするキュラのすぐ背後には、
波のように押し寄せる光弾の群れ。
『トリックバレット』、その光弾は累積してゆく。
インターバルはおおよそ5秒と極短時間。
時間経過で消える様子もまるでない。
確かに一発一発は非常に軽い。徒手空拳のような威力だ。致命傷には程遠く、しかしその集合は?
キュラはちらりと横目で後ろを振り返る。
光の津波。その一端が抉り取った床が、見るも無残な姿を晒していた。
【続く】