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初めての明晰夢2
真っ白な空間にただ一人。
明らかに尋常のシチュエーションではない。
いつから自分がここにいたのかも分からない。
最後の記憶は……ベッドに入った時のもの。
そして妙に意識が定まらない現状。
なんとなしに、自分は今眠っているのだと感じた。
ならばこれは夢。
しかし、今までの人生で見てきた度の夢とも違う。異様な夢。
それらを考慮すると……。
「まさか俺は能力(チカラ)に、目覚めたのか………ッ!?」
……少年は、その時の少年……すなわちビーバーの尻尾は、当時割と本気でそう思ったものだ。あ、名前がないと書きにくいので以降少年を尻尾と呼称します。
★★★
幾つかのくだらない思考(冗長なので割愛)を経た後、尻尾は身体を動かすことにした。
「あー、あーあー、アァ――ッ!」
声を張り上げても空間に木霊しない。
屈伸。
歩行。
その場でジャンプ。
少し身体を動かした尻尾はそのどの動作においても常とは異なる妙な感触を感じていた。
過程が認識できない。
より正確には、複数の動作を認識しずらい。
動作の最終結果のみに思考が集中してしまう。
屈伸はしようと思った瞬間に完結し、歩行中でも自分の足の動きが意識で出来ず、ジャンプをしようとしたら既に宙に浮いていた。
そして尻尾の身体がゆっくりと地面に落ちる。
「凄く珍しい夢か、夢に関する超能力に目覚めたかのどっちかだな」(俺は当時、まだ超能力とか世界の裏側とか魔法とかファンタジーとかに憧れていた。というか、今も憧れている)
気を抜くと意識が空間に溶けてしまいそうな状態は、しかし何故か自分に馴染み深いように感じる。
この場所はこの空間は初めて来たことに間違いはないが、それでもこのような体験は無数に繰り返してきたような気がした。
(夢なら思い通りのことができるはず)
確認の為にも尻尾はなにか超常的なことをしようと思った。
そういえば、さっきジャンプしたらゆっくり落ちてきた。
もしかして、やろうと思えば空を飛べるのでは?
「ふんっ!」
空を飛ぶ自分をイメージして尻尾は身体を伸び上がらせ……その身体は徐々に宙に浮き始めた。
(同時に何故か目の前の床から無数の立方体でできた柱が幾つも立ち上がり始めていたが、この時はあまり意識できてなかった。自分が飛ぶことに集中していたためだと思う)
そして1mほど浮いたところで停滞し、今度は徐々に下降し始めた。
「ふんッ、ふんぎぃいいいんぬらばぎぎぎぎッ」
力んでも下降は止まらない。ついには元居た位置まで落ちる。
「…………」
非常に微妙な結果、尻尾はそう思った。
実際には最初に浮いた時点で、いやそれ以前にこの奇妙な空間にいる時点で本当に自分を冷静に客観視できていれば夢であることには気づけそうなものだが。
地面に着いた己の足に視線をおろすと、その下の白い正方形のタイルに意識が向く。
膝を曲げ、タイルに手を突く。
「赤くなれ!」
イメージしたのは、己の手を突いた場所から波紋が広がる様に一気に鮮烈な赤色へと変じる白いタイル達。実際は。
――ジワ
赤いシミが。
「おおお」
ジワジワジワ
手から滲み出るように。
「おおおお!」
ジワジワジワジワジワ
白いタイルの色を赤く、段々と。
「うおおおお!」
ジワジワジワジワジワジワジワジワジワ…………
――いや、遅えッ!!……などと当時突っ込む余裕は無かったが、体感30秒ほどで尻尾が変えられたのは30㎝×30㎝の白タイルの下からおよそ1/3程度。イメージに反してメチャクチャに狭い範囲、ついでに赤色は小汚くくすんで鮮烈とは程遠い。
埒が明かないので立ち上がる尻尾、足元の二重の意味で中途半端な色のタイルを見下ろす。
微妙!
しかもこの時点で、当時本人は全く気づかなかったが、尻尾の意識は一番最初の段階よりだいぶ濁り始めていた。
「ちっ、なにか出ろ!」
雑な命令を夢に下し、掌を上にして前に差し出した瞬間、その上にパラパラと落ちてきたものは――ポ〇モンの形をした色とりどりの飴だった。
尻尾はその中で赤いギャラドスの形をした飴を取ると、白い部屋の端にぶん投げつつ叫ぶ。
「本物になれ!」
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