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天の尾《アマノオ》 第8話 ――『焚火を挟む』――
★★★
「……完敗だよ、ナワトお兄ちゃん。わかった、終わりにしよう。ボクの負けだ。今日の戦いはここまでにするよ。多少は欲求も満たせたし、お兄ちゃんの事は諦めよう」
「わかってくれたか」
「そして、」
俺が続けて何か言う前に、ポポラがその場に膝をつき地面に手を突き額もつけて深々とお辞儀してきた。
「ごめんなさい、心の底から謝罪します。ごめんなさい、ナワトお兄ちゃん。都合のいい話だと思うけど、どうか命までは取らないでください」
「ちょっ、ばっ、そんなことするわけないだろバカなにやってんだ。立てって、いいから立て、気にしないからっ」
「でも……」
終わった。やった。
実際はそうでもないのだろうが体感時間は結構長く感じた。
命の危険からだろうか。
「ほら、結果的に俺も何ともなかったし」
何にせよ、一段落だ。
地面に身を伏せるポポラを強引に右肘で立たせながら思う。
油断したところを背後から……とかが怖いので警戒はするけど表面上は一段落。……まったく、まだ心臓がバクバクしているぜ。
「じゃ、戦闘終わったなら寝るから」、となるほど肝っ玉が大きくない俺は、とりあえず朝までポポラと話しておくことを思いついた。ポポラを目の届く範囲に置けるし、気持ちの整理もつくだろう。明るくなったら予定通り出ればいい。
ポポラにそう提案すると快諾される。申し訳なさそうな表情をしているので、俺のお願いに応えることで謝意を示そうとしているのかもしれない。
焚火を起こし、火を挟んで地べたに座り対面。右膝の傷は借りた薬を塗って放置。包帯は自分じゃ巻けないが……巻いてもらえる空気ではないしな。かなり痛いが見た目かすり傷だしまあいいか。
「あー、それで、ポポラはアレだ。闘争心が抑えきれず、俺を襲って来たってことだよな」
「そうだよ。ごめんね、ナワトお兄ちゃん。普段は一日一回誰かと戦えば辛うじて抑えてられるんだけど、たまたま今日は森向こうで誰とも戦えなくて……」
「そうか」
まず第一の確認。そうだろうとはほぼ確信していたが実際そうだった。良かった。いや良くはないけど。
万一これが、「ナワトお兄ちゃんの事が嫌いだから襲ったんだよ」とかだったら、今日の出来事はこの世界での俺のトラウマ、その記念すべき一ページ目にデカデカと刻まれていただろう。対し、昼間話し合った中で出てきた『世界に強制された欲望のせい』で襲ってきたのならなんというか、しょうがないね、となるのだ。
俺の気持ち的に。しょうがない、そう、世界のせいならば!
「……本当に? 実は俺のこと嫌いだったりしない?」
「しないしない。本当だよ。殺そうとはしちゃったけど、むしろナワトお兄ちゃんのことはどっちかって言うと、その。…………好き、だよ」
ちょっと恥ずかしそうに言うポポラ。
ぐへへ、聞こえなかったなぁ。もう一回言ってみ?
「……」
赤くなって俯いてしまった。かわいい。やはりいい娘じゃないか。
「あの槍はどこから取り出したんだ? テントの中にあれを置く場所なんて……あ、ベット下とか?」
「そ、そうだね。あれは特別な槍だから、普段はあまり使わないんだ。レプティって言うんだけど」
「なんかすごい綺麗な長槍だったよな。俺が蹴っ飛ばしちゃったけど……特別だったのか、なんかすまん」
「いやいやいや、ボクがナワトお兄ちゃんを襲ったのが悪いんだから謝る事じゃないよ、ほんと。……にしても、ナワトお兄ちゃん凄かったねぇ。『星になる』って表現がぴったりだったよ。レプティ、落ちてくるのかなあれ。さすが火天の鮮赤《センセキ》というか」
ん? その言葉、確か戦闘中にも聞いた言葉だ。
「何なんだ、そのカテンノセンセキって言うのは」
「火天の鮮赤。天の尾における、強さの指標みたいなものだよ」
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