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天の尾《アマノオ》 第4話 ――『寄宿』――
★★★
心を込めて優しく、
信頼を寄せて暖かく、
ゆっくりと焦らず慎重に、
真心を込めて、相手に接する。
そうして明るく静かに大人しく、
朗らかに楽しく相手を見ながら、佇む。
人を安心させる、気遣いのコツ、その一。愛をもっての対話。
★★★
「だからこの世界の生物はみんな戦闘に飢えているんだよ。お兄ちゃんも、ボクもね」
ポポラがふざけるように拳を突き出した。
ぽすんと音を立てて俺の胸に当たる。
なんだこいつ可愛いな。
「俺、今全然そんな感じしないけど……」
どっちかっていうと食事的な方向性で飢えてはいる。シチューとりんごも美味しかったが今はガッツリ肉を食いたい気分だ。血液が不足しているに違いない。
「ポポラも俺が見る限りじゃわからん」
ポポラにも、『戦闘に飢えている』というような雰囲気は微塵もない。普通の女の子にしか見えん。
「なんでだろうね? ボクは今自分で抑えているからだけど……ナワトお兄ちゃんはこの世界に生まれたばっかりだからとか?」
首を傾げるポポラ。
「まあいいや。ナワトお兄ちゃん、ムカデさんの位置はわかる?」
言われて意識すると、確かにわかった。
俺の上空遥か彼方にポツンと何かがとぐろを巻いて浮いているのを感じる。
雲に遮られている今でさえ、そいつの視線が俺の方角に向けられていることがわかる。
なるほど、今俺とアイツは決闘状態なのか。
「わかる。向こうの方角のすっげー高い位置に居る」
指を差した方を向き、ポポラが目を細めつつ言った。
「別に決闘に不具合が起きている訳でもないみたいだね。このまま相手が来ないなら時間制限で引き分けか、ナワトお兄ちゃんの負けになると思う。制限時間は?」
「……あー、8日後の日の出までっぽい」
何故かわかった。
「なら、それまでここに居たら? ナワトお兄ちゃん話が通じる人だから一緒にいても大丈夫そうだし」
「それはありがたい……けどちょっと不用心だろポポラ。俺は別に1人で野宿しても何とかなりそうだし、今日限りで出て行くよ。色々教えてくれてありがとう。いつかお礼しに来るからまた会おうぜ」
ポポラの申し出は嬉しいものだったが、この気のいい恩人の言葉にまんま甘える気にもなれなん。先程聞いた話ではここから見える森の向こう側には人の住む街もあるらしいし、とりあえずそこに行って何かしらの生活の目途をつけよう。
「あー、でも、悪いんだがこの毛布は貰えないか? 何も着ないままに出発は心細すぎる。いつかのお礼にこの分も追加するから」
甘えたくないけど甘えなくちゃいけない時があるとした今だ。
頼み込む。
土下座して頼み込む。
額を地面に擦り付けて頼み込む。
裸一貫で外に出るには肉体的にも精神的にも極力避けたいところである。
「……ボクは気にしないんだけどね。じゃあせめて明日まではいるといいよ。今日はもうこれから暗くなるし、出るのは明日の朝の方がいいでしょ?」
「いやでも――」
「じゃないとその毛布あげない」
一晩だけお世話になります。
その後、ポポラは森の向こうにあるという街に用事があると言ってふらりと消えていった。俺は待っているように言われたのでポポラの三角コーン型住居を少し離れ、周囲をぶらぶらして適当に暇をつぶす。
「イテッ、結構石がゴロゴロしてんな」
尖った小石を素足で踏んだり、変な色の葉っぱに触って手がかぶれたり、蟻の大群を素足で踏んだり、踏んだ蟻の大群と激闘を繰り広げたり、最終的に全身を噛まれまくって泣く泣く敗走したりしたけど夜中、ポポラが戻ってくるまで程よく暇をつぶすことが出来た。
「ナワトお兄ちゃんただいま……なんか傷増えてない?」
「ちょっと蟻相手に手を使わないハンデ戦してた」
濡らした布で身体を拭いた後、夜食にポポラが取ってきたりんごを2個食べながら、ポポラに手当てして貰うと腫れはすぐ引いた。
俺は手が使えないのでポポラさんがその小さな手で甲斐甲斐しく塗り薬を塗布してくれる。
くそっ、なんていい人なんだポポラ様。益々頭が上がらなくなってしまう。
とか何とか考えていたところ、気づく。
「ポポラ、お前――」
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