#7 音MADでリズム感を養う
生きてます。
書くことがやっと見つかりました(約2年ぶりの更新)
と言いつつ、いつか触れようと思い温めていたトピック。
普段の練習内容を聞かれることがありますが、あまり上手く説明できません。
どのように叩くかというフィジカル的な鍛錬は久しくしていないからです。
他方で、何を叩くかというフレーズ作りのためのインプットは絶やすことがないよう意識しています。
約2年ぶりの更新となる今回は、
そんなインスピレーションの源であり、何より僕自身が学生時代から熱中してきた深淵なるネットカルチャー、音MADを取り上げます。
網羅した説明をすることは大変難しいので、
馴染みがない方は下記リンク先をまずご覧ください。興味がない人にまでわざわざこんなものを勧めるのもどうなのか
うまく言えないけどとにかく好きなんだ
音MADに対する個人的な見解としては、
ポジティブな表現をすればオリジナル作品(対象)のコンテンツ性を高める二次創作(ファンアートの一種)。
しかし、結局は映像・音声素材を切り張りした悪ふざけに過ぎないと考えています。
本稿で取り上げる音MADを見れば朧げに理解できるかと思いますが、
オリジナルが持つ意図を無視、あるいは踏みにじる内容が多数を占めており、ディスリスペクトに溢れています。
肖像権侵害、名誉毀損、著作権違反……。
少なくとも作者や各関係者にとって快いものであるはずがなく、ポリコレ抵触を厭わない内容ばかり。
だけど、当事者には悪いけどもつい笑ってしまう。
そのような不思議な面白さ・痛快さがあり、物好きな一部の者たちから支持され、細々と続いてきた文化。
ある種の無礼講が成立するのが音MAD、ひいてはサブカルチャーの醍醐味だと思っています。
もちろん怒られたら謝るべき。
でも面白いという感情に罪はありません。しかたない。
現在でこそ高尚な伝統芸能として扱われていますが、
江戸時代に誕生し隆盛を極めた歌舞伎も、当時は風紀を乱すとして物議を醸した過去があるといいます。
決して「お利口」とはいえない、公序良俗に沿わない猥雑なものが流行るのは世の常であり、
音MADはインターネット時代の大衆娯楽と言えるのではないでしょうか。
いいえ。
これの何が面白いかわからないって?
音MADを楽しむためにはコンテンツへの理解があること、つまり文脈を読み取れることが重要です。
例えば本稿のサムネイルを飾る、先日ブームとなった「おとわっか」の件の一節では次の4点のミームがポイントになっています。
ファイナルファンタジーシリーズを知っていること
→以前より登場キャラ「ワッカ」がゲイとして謂れのない扱いを受けていた(3. と関連)『魔法少女まどか☆マギカ』を知っていること
→OP曲『コネクト』は放映時から人気があり既に色々な音MADに使われていた(この界隈では”あるあるネタ”)ワードのインパクトがあること
→1. のワッカはゲイであるという派生設定に絡めているメロディの譜割りに合致していること
→ゲーム・アニメ中のセリフをサンプリングし、1語ごとに並べ直し、ピッチ修正し、任意の単語で歌わせる「人力VOCALOID」もMADにおける常套手段の一つである
これらの4つのうち理解できる点が多いほど、
これまでの"知識・記憶" と "目に映る・耳に入る情報" とがリンクし合い、
言い表すことのできない多幸感をもたらします。
これは慣れない環境下で自分と趣味嗜好が似ている人間に出会えた時の安心感と近いものがあり、一種の帰属意識ではないかと推測します。
まるで同好の士であることを確かめる符牒かの如く、インターネットミームが複雑に作用し合っているのです。
なので……
誤解を恐れずに言えば、何かのMADを見てイマイチ面白いと思えなかったのならば、それはあなたに原因があります。
でも、無理に理解しようとして頑張るようなものでもありませんよ。
譜割りの再構築
先に引用したサイトにて言及されている通り、一口に音MADといえど色々なタイプに区分することが可能です。
中でも主流なものは、
ある楽曲をピックアップし、メロディに切り取った別素材を割り当てる「替え歌」タイプでしょう。
ここに、今回伝えたいリズムの妙があります。
音価を無視して強引に別ミームの素材を詰め込む、拙い出来のものが大半ですが、中には優れたクオリティの作品も存在します。
定期的にニコニコ動画ランキングをチェックする中で、
特に感銘を受けたのは以下の音MADです。
まず、これに含まれるミーム(コンテクストを読み取るための前提知識)は次の3点です。
ファミリーマートで頻繁に流れ、耳につく帝京平成大学の音声広告がある点(イヤーワーム)
テレビアニメ『ONE PIECE』登場キャラクター「トニートニー・チョッパー」および「ナミ」の両声優が1. でナレーションを担当している点
現在放映中のテレビアニメ『うる星やつら』(リメイク)のタイアップED曲『トウキョウ・シャンディ・ランデヴ』がそもそも流行っているという点
1.&2.はMADにおいて、まるでお膳立てされたかのような完璧な条件と言えます。
アニメのキャラクターが世界観を無視したメタ発言をしているかのように仕立て上げられるからです。
3.に関してはそこまで関連がありませんが、リリースされたばかりの楽曲を使うことで話題性の獲得に貢献しています。
本MADのどこが素晴らしいかを述べるにはどうしても主観的な表現になってしまいますが、次の3点が挙げられます。
語末の母音が一致している点
→テイキョウ・ヘイセイ・ダイガク
トウキョウ・シャンディ・ランデヴ
奇跡的な一致ですね。モーラ数※が一致している点
→4×3=12個「帝京平成大学」(16分音符12個)を開始位置をずらして使用している点
→00:58~がしっくりくることは当然予想がつきましたが、
00:42~のドラムフィル(小節終わりの16分食いまで)をしっかりユニゾンできているのは驚きました。
偶然に恵まれつつ、丁寧な作りをしているのだと感心されられます。
※
音MADには、
このように原曲にはなかったリズムが意図せずフィットすることがあります。
リズムにとってのリハーモナイズといえるかもしれません。
思いつきで”譜割りの再構築”と命名することとしましょう。
これに立ち会った瞬間のハッとする感情がリズム感の養成に良い影響を及ぼす気がしており、
日々の演奏・フレーズ作りに生かしています。
(おわり)
好きな音MAD
色々御託を並べつつも、例のアレカテゴリを紹介したいだけでした。
この手の話ができるバンドマンが周りに全くいないのが寂しい。