高師緑地にて
車の定期点検中の約一時間半、店内で待っていても退屈しそうなので雨の中ではあるけれど、高師の緑地公園で少し散歩してみた。店から公園までの500メートルは259号線の車の往来で喧騒と水はねを気にしながらだったが公園に入るとパラパラと傘に当たる音と地面からのビチャビチャという跳ねる音だけが耳につく。
こんな天気だから人影も疎ら。多少靴の中が湿っぽくなるのを覚悟しながら歩いていると舗装された遊歩道とは別に茶色い細道が伸びている。路面が土にしろ、アスファルトにしろ、こんな天気だから多少の水溜りがあってもよさそうなものだが、その様子がなかったので行ってみると木のチップが敷き詰められていた。チップと言っても燻製に使用する細かいものではなく、製材所から出るような粗目のチップで、これがどれくらいの厚さか判らないが、絨毯が敷かれているかのようにふっくらとクッションがかかるくらいの心地よい踏み心地である。チップに当たる雨はピチャピチャと音をたてることもなく雫は静かに吸い込まれていく。300m程で細道は終わってしまった。アスファルトの遊歩道は雨が跳ね、靴の中が濡れてしまったため屋根のある東屋で少しばかり休憩をとった。東屋の前には倒れそうで倒れない、倒れたくても倒れられない事情でも抱えているのか、大きな松の木が根元から真横へ伸びている。
この公園は元々陸軍の演習場だったとかで、樹齢80年を超える松の木が大木となって残っていて、綺麗に手入れされた広い芝生などとともにこの緑地公園の風情を醸し出している。80年間にいろいろなことがあったのだろう。どうしてこんな生え方になったのか不思議に思える位にとんでもなくぐにゃぐにゃに伸びていたり地面すれすれに横に伸びた松の大木が何本か生えている。ベンチ代わりに腰かけている人も時々見かける。
松の木が何本あるかは知らないが、間隔を開けて広い公園内の其処此処に太い幹が生え、エリアごとに落葉広葉樹等が隙間を縫うように生えている。公園はよく手入れされていて時々シルバー人材センターの人たちが草刈りや落ち葉清掃をする姿をよく見かける。公園から出る倒木の処理された木材は市役所の公園緑地課へ申し込めば木材を購入することができるらしい。公園の一角に薪などに使える処理木材が積まれた場所がある。先ほどの細道に敷かれたチップも倒木処理された樹なのかもしれない。
休日の公園は人出も多く、野球グランドやゲートボール場が設けられていて馬術練習場や子供のための遊具の置かれたエリアもある。休日はたくさんの人たちが集まってくる。散策路も散歩する人の切れ間がないほど賑わっている。
ところでこの園内を周遊する散策路では散歩をするほとんどの人が左回りに歩いている。別に左回りに廻らなければならないと決められているわけでは無いらしいが、聞くところによれば部活の生徒たちがこの散策路を走るとき左回りに走るらしく、一般の人達も自然に左回りに歩くようになったとか。ということで、私はこの習慣に抗って右回りに歩いてみたが、そうすると正面に次から次へと迫りくる顔・顔・顔。時々すれ違いざまに目が合ってしまったりすると、まるで異端者かのような、感じなくてもいい後ろめたさに耐えられなくなって断念せざるを得なかった。見ず知らずの人と繰り返し目が合うと、言い知れぬ緊張感に包まれるものだ。結局世間の目に負け、左回りに踵を返すのであった。やっぱり長いものには巻かれる方が楽だな。
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