【七転八倒エオルゼア】#6
※このシリーズについて
ゲーム『ファイナルファンタジー14』における自機『Touka Watauchi』及びそのリテイナーキャラ『Mimino Mino』を主役とする不連続不定期短編企画です。ゲーム本編のメインクエストやサブクエスト、F.A.T.E.などの内容をもとにしたものが含まれます。また、各エピソードごとの時系列は前後する場合があります。
登場人物紹介
Touka Watauchi(綿打 灯火/トウカ):主人公。海を渡ってリムサにやってきたアウラ男性。リムサ渡航時点で20歳。ナナモ・ウル・ナモ女王陛下暗殺事件の冤罪を被せられたため、現在はイシュガルドにフォルタン伯爵の客人として滞在している。
Mimino Mino(ミミノ・ミノ/ミミノさん):Toukaが雇ったリテイナー。リムサにすっかり慣れたララフェル女性。年齢非公開。なお、今回のエピソードには登場しない。
【決闘裁判、開廷!】
《これまでのあらすじ》
クリスタルブレイブ総帥アルフィノ・ルヴェユールと暁の血盟の金庫番、タタル・タル。トウカと共に雪の街イシュガルドに渡ってきた2人は危険を承知で酒場での情報収集を続けていたが、これが教皇直属の蒼天騎士団の目に止まった。グリノー卿とポールクラン卿の手で異端として告発され、神聖裁判所へ連行されたことを知ったトウカは、神殿騎士団本部でアイメリク総長及び盟友オルシュファンと策を練り、当事者同士による決闘裁判制度を利用する作戦を承諾。怒りを胸に神聖裁判所へ向かったのだった……。
◆◆◆◆◆◆
「告発者グリノー卿及びポールクラン卿によれば……」
神聖裁判所の裁判長による起訴事実の読み上げに合わせるかのように、紫髪の男が法廷に駆け込んできた。背中にはアウラ・レンの体躯に相応しい戦斧。黒の上等なコートに身を包んだこの男の名は、ワタウチ・トウカ。暁の血盟で数多の実績を上げながらも、冤罪のために第二の故郷リムサ・ロミンサを離れた戦士である。
「……グリノー卿による告発に対し、身の潔白を訴え、決闘裁判を求めるか?」
裁判長の呼びかけに食いつくように、見目麗しき少年が答える。
「我が名は、アルフィノ・ルヴェユール。そうだ、我々は無実であり、告発されるいわれはない……!正当な権利として、決闘裁判を要求する!」
言い終えたアルフィノは、傍聴人席のトウカを見つけると軽く頷いた。
(((うむ、助かった。これで2対2だな)))
(((ああ、任せとけアルフィノ!)))
その横で、赤い帽子のララフェルが震えながら発言する。
「わわわ、私は、タタル・タルでっす!こ、このとおり、か弱き乙女なのでっす……戦うのは無理なので、だだだ、代理闘士を求めるでっす!」
「裁判長!」
神聖裁判所に響かんばかりの大音声が聞こえたのはその時であった。
「……発言を許可します」
少々耳をやられた裁判長の許可があるやいなやの内に、トウカは傍聴人席から助け船を出した。
「被告人タタル・タルは巴術士ギルドに一度入門したものの、最初期の訓練において挫折、その後退会届を提出しています。この事実については巴術士ギルドのマスター代理、トゥビルゲイム氏に問い合わせいただければ証言が得られましょう!」
(((トウカさん!)))
己の恥ずかしい過去を証拠として持ち出されたタタルの赤面を尻目に、トウカは朗々と話し続ける。
「戦えぬ相手を一方的にいたぶって真実と称することが、戦神ハルオーネに誇れる行いとなりましょうか?いいや、それは断じてない!この私、ワタウチ・トウカがタタル氏の代理闘士としてこの決闘裁判を……戦います!」
◆◆◆◆◆◆
「ひどいでっす、トウカさん!」
入廷するやいなやぺちぺちと叩いてきたタタルに、トウカは詫びを入れる。
「ごめん、タタルさん!でも戦えないことを補強する証拠がほしいと思ってさ……」
「少々言い過ぎだが、君の言わんとする事はわかった」とアルフィノ。
「しかし、君らしからぬ言い回しだったが……アイメリク総長と打ち合わせを?」
「アルフィノも失礼だな、こういうときの言い方くらいわかってるよ。人に訴えかけるときの言い回しなら、いい先生が身近にいたしな」と言いながら、トウカはなぜかアルフィノの方をじっと見た。
「先生?」
「これだけついて回ってれば、多少は身につくってもんさ」
トウカは、タタルにだけ見えるようにそっとアルフィノを指した。
「斬られる順番の相談は終わったかよ、ええ?」
グリノー卿から声がかかったのは、その時であった。
「ああ、終わったぞ」トウカの目つきが、どこか人懐こいアウラの青年から勇猛な、怒れる戦士のそれへと変じたのはその瞬間であった。
「皇都に誉高き蒼天騎士団の席を、いくつ空席にしてやるか今決めたところだ」
(((トウカ!?)))アルフィノが止めるのも構わず、トウカが続ける。
「ほう、そっちの冒険者のほうが旨そうだな?口と名声ばかりかと思えばやるようじゃねぇか」
両手槍の騎士、ポールクラン卿が得物を構える。
「安心したのはこっちもだ。プライドと名声、それに鎧の値段ばかりが高いと思っていたが、そうでもないらしいな……!」トウカが斧を振り抜く。その刃に熾り火の如き輝きが宿り、戦士の目が恐るべき闘志を燃やす。
「アルフィノ、ちょっと下がっててくれ。タタルさんはもっと下がって!」
「はいでっす!」
タタルの退避を確認し、戦士は口を開く。
「ポールクラン卿と言ったな。この野蛮なる戦士に、蒼天騎士の戦を見せてくれ……!」
「言われなくても見せてやる!グリノー卿!」
「おう!そっちの斧術士の野郎は任せたぞ、ポールクラン!」
一触即発の4者の殺気を感じたか、裁判長は早々と開始を宣告する。
「それでは決闘裁判……始め!」
◆◆◆◆◆◆
「お前みたいなスカしたガキに教えてやるぜ、蒼天騎士団の、斧術士の真ず」
言い終わるが否か、無骨な戦斧がグリノーの目と鼻の先を抜けて旋回飛行し、吸い寄せられるように戦士の手元に戻った。
「アルフィノ、槍の方を頼む」
「……請け負った!」
アルフィノは直感的に返した。こういう時のトウカの意志を折るのは、かなり難しい。
「グリノー卿、一つ訂正だ。俺は斧術士じゃない」
得物を掴んだその勢いで、勢いよく神聖裁判所の床に挨拶代わりのもう一撃を叩きつける。
「戦士だ。戦士の闘いをその身に全て撃ち込んでやる。だから、全部撃つまで立っていろ」
一歩。二歩。トウカは両手で得物を然と握り、歩みだす。
「何が戦士だアウラ野郎!」
ヘヴィスウィングを起点に、グリノーが3連撃をねじ込む。トウカのコートが裂かれていく。
「俺の斧は即ち教皇猊下のご意志も同然!格が……」
ガキン。
初撃。グリノーが本能でガードする。対面するアウラの周囲に、異様な熱が渦巻いている。
「それが」2撃目。
(こいつ、退がらねぇ!)
「どうした」3撃目。
一撃、また一撃とトウカが斧を振るう度に、熱が、光が、重く、濃くなっていく。トウカの周囲に、嵐の如き光が渦巻いている。
「止めれるものなら、止めてみろ!」
アルフィノの目から見ても、確かにトウカはダメージを負っている。だが、止まらない。攻撃が力を呼び覚まし、力が攻撃に繋がる。これまで蛮族や蛮神に放たれていた戦士の力の循環が、たった2人に襲いかかっている。もはや今のトウカには、回復すら下手な手出しとなりかねない。
「ポール……クラン、こいつは、危な……」
ポールクラン卿が妨害に入るも、時すでに遅し。循環する刃の旋風と化したトウカの連撃を受けたグリノー卿の意識は、そこで途切れた。
くず折れるグリノー卿には目もくれず、戦士はポールクラン卿へと歩み寄る。
「オラオラ、来いよ!グリノー卿を倒したくらいで……」
「全 身 全 霊。あんたは最後まで、立っててくれよ」
ポールクラン卿が最後に見たのは、グリノー卿が見せたこともない型を挟みつつ更なる連撃をもって襲いかかる戦士の、怒りと失望がない混ぜになった目であった。
「そ……そこまで!」
裁判長の声で、傍聴席の面々は我に返った。
「はっ……はっ……」
トウカは構えを解かず、ゆっくりと呼吸している。
「トウカ……ワタウチ!もう終わったぞ!」
アルフィノの呼び掛けに……トウカは思ったよりカジュアルに返した。
「わかってるよ……この裁判、俺たちの勝訴だ」
◆◆◆◆◆◆
「あー……疲れた!上着も裂けたし……いてっ」
神聖裁判所からの帰り道。真っ先に口を開いたのはトウカであった。
「あんな無茶苦茶な戦い方をするからだ。もう少し傷を負わない戦いをだな……」
「俺が壁にならなきゃいてっ、アルフィノが怪我すんだろ。傷を負っても最後まで立つのが戦士のあり方なんだよ……いてっ」
「ところでタタルは何を?」
「乙女の、秘密を、公にした、罪は、重いの、でっす!」
タタルはトウカのすぐ後ろを歩きながらトウカの脛をリズミカルに叩いている。
「助けて、くれた、のは、嬉しい、でっす、けど、それと、これとは、話が、別でっす!」
アルフィノの目から見ても、だんだんトウカはダメージを負っている。だが、タタルが止まらない。攻撃が力を呼び覚まし、力が攻撃に繋がる。
「タタルさん!流石に……ぐぇっ!もう!二度と!言わない!から!勘!弁!して!」
トウカがこの日初めて上げた悲鳴は、蒼天騎士団の猛攻ではなく、暁の血盟の金庫番の怒りが故であった……。
完