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君のいる町

その駅ではじめて降りたのは
仕事の研修

とは言っても自由参加みたいなものだったので
移動日は旅行のようだった

駅前の広場に出た時、
「田舎だってばかにしとっちゃろ〜?」
目尻を下げて笑いながら
そう言った彼の笑顔を思い出した

へぇ..綺麗な街だね。

見知らぬ町のオフィス街をぶらぶらと歩く
この街はどこかしらに南国の香りが漂っていた

ホテル見つけないとだなぁ..。

ホテルは駅近くの映画館の上の階にあった
ホテルマンの方言もなんだか懐かしい

部屋で着替えを済まし
街を散策に出かけた

Googleマップを開く
もう夕方だし、神宮と美術館の方に歩いてみよっかな

神宮に着くと、
想像以上の参道の立派さに驚いた

ばかにしてるって言われるわけだ..。

参道横の建物にちらりと白無垢の人が見えた

綺麗な花嫁さん。
そういえば彼は
そろそろ結婚しただろうか?

真っ白な敷石を鳴らしながら
参道を進む

いつからここにあるのだろうと思うほどの
貫禄のある木々たち
これは参り甲斐があるね

特に願いごともなかったけれど
地の神様に挨拶をした

それから向かった美術館は
大きな岩戸のような造り

夕陽が射す美術館には私ともうひとりだけ
2階がとても気になって上がると
躍動的なオブジェが点々と並べられてあった

大きな窓ガラスの向こうに
帰宅する学生、街に向かうであろう人々が
足早に通り過ぎていく

「君のいる町」

昔教えてもらった漫画のタイトルが
ふと頭をよぎった

この街のどこかに彼がいる
そう思うとなんだか変な感じだった

遠い昔、永遠のように感じたあの時間は
この長い人生のほんの一瞬

交差点をすれ違う人々のように
私たちの人生はすれ違ったまま
流れていく

もう二度と戻らないから
あの時間を今でも大切に思うのだろう

さてと、
そろそろ夕飯の場所探そっと

夕闇に染まる
知らない街の光の中を
心ゆくまで散歩した