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【短編小説】#5 夕焼け小焼け

———ふふふ
——あはは

居間から楽しそうな二人の声が聞こえる。瀬田蒼の横に座っているのは、とある動物のぬいぐるみ。信じられないかもしれないけど、二人は会話をすることができるのだ。

『結局何を目的として発信したいかってことなんだよ』
「私はただただ書きたいって気持ちが強すぎて書いているだけ。そのはけ口というかアウトプットってやつ? そのくらいの感覚かなあ。内容に特にこだわりがないくらい」
『確かにこだわりがないねぇ。支離滅裂っていうくらいに』

——あはは
———ふふふ

二人はnoteに試験的に導入されたある機能について話をしているようだ。

「けどさあ。何かの力を借りて書くってことは、それはもう100%で書きたいってことではないよね」
『やや、あくまでアドバイスの範疇でしょ? 作家における編集者みたいなものじゃん?』
「君はずいぶん肯定的なんだね。それはそうかもしれないけど、プランで利用できる回数が制限されるんだって。つまりはそういうことじゃない?」
『あおいはビジネスモデルってものに理解がなさすぎだよ。ひねくれたことばかりで世間を知らない』

ぬいぐるみの考えはこうだ。物を書くということにおいてAI(=誰か)がアドバイスしようが、著者が自ずから生み出したプロットやアイデアであろうが文章としての価値は変わらない。誰が書いたのではなく、目の前の文章こそが読みたい話なのだ。そこはこだわるところじゃないよ、そう言いたいのである。

いっぽうの瀬田蒼はこのサービスが記事の直接購入で収益モデルを作っていることは理解できているつもりだ。ただ商業誌と同人誌が書店の平積みになっているようなものなので手に取るのが非常に複雑になっているのも事実。ちんちんに熱せられた鍋の中で水と油がぼこぼこ爆発していることを憂いているわけだ。

『書く題材にこだわりがない。書く手法にこだわりがない。どっちも読む側からしてみればどうでもいい話なんだよ。あの機能が○○につながるのであれば、その恩恵にあずかれるのが自由きままに発信できるあおいみたいなユーザーなんじゃん?』
「なるほど、それはそうだよね。あいかわらず君の分析はすばらしい。どう、私のAIにならない?」
『ぬいぐるみにアドバイスされたいのかね?』

———ふふふ
——あはは

遠くから防災行政無線の夕焼け小焼けチャイムが聞こえてくる。時刻は午後5時半だ。

夕焼け小焼けで日が暮れて
山のお寺の鐘がなる
おててつないでみなかえろう
からすといっしょにかえりましょ

童謡・夕焼小焼

タンタタンタタン♪

『すっかり油を売っちゃったな。じゃあ今日のところはこのくらいで。そろそろ帰らないと』
「また明日も来るの?」
『うーんどうだろう。これからの季節は一年のうちで一番がんばらなきゃいけない時期だからね。時間をみつけてまた来るよ。じゃあね』

蒼は右手を小刻みに左右に振ると、目の前に満月のような光が現れて目をつむったぬいぐるみは数秒で消えてしまった。それからノートPCの蓋を開けると、彼に売ってもらった油を燃料にもう少し執筆作業を行うことにしたようだ。

* * *

子供がかえったあとからは
まるい大きなお月さま
小鳥が夢を見るころは
空にはきらきら金の星

私がもしも小鳥なら・・・・・・・・・、この話は夢だったのかもしれない。

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