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【短編小説】#1 交通系ICカード

初夏のある日、出社するために私は同僚と先を急いでいた。なぜ同僚と一緒にいたのかいくら考えても思い出せない。記憶はそこから記録されていたからだ。

電車に乗るためにはいまや交通系ICが便利だ。スマホ版とカード版があるが、前者はスマホでチャージできる券売機がないと利用できないため田舎に住む私はカード版を利用している。

定刻の電車に乗る前に同僚たちは次々と券売機でICカードにチャージを行っている。私も2,000円ばかりチャージしておこうとカードを差し込み口にねじこんだがいくら差してもエラーで返却されてしまう。

これは困ったな。まわりには駅員もおらず、呼び出しボタンを押しても応答がない。その時は慌てていて考えすら浮かばなかったんだが、そんな時は切符を購入して乗ればよかったのだ。物理的な切符が完全に廃止されないのはIC系の不具合の予備システムとしても機能するからかもしれない。

それはともかく、職場の同僚たちも巻き込んで遅刻してしまうのも無意味がなので私を置いて先を急ぐように伝えた。私の職場はタイムカードがないので、今日中に着けば問題にはならないだろうくらいにその時は考えていた。

さて。財布を何度かまさぐっているうちに、別のIC系カードが出てきた。先に使ったのは旧国鉄系のグリーンのICカードだったが、いま手にしているのはピンクの私鉄系のICカードだ。ICカードは相互運用されているので、今度こそピンクのカードを差し込み口に差し込んでみた。

すると券売機にはチャージ額を選択するボタンが表示された。いつもの画面だ。乱暴にポケットに折りたたんだ千円札2枚を紙幣の投入口に入れ、チャージ完了の文字が画面いっぱいに大きく表示される。反射的にICカード差込口の前に右手を広げるがすぐにカードは返却されない。

おや? 違和感に気づくとタッチパネルはどこの国かわからない言語で埋め尽くされている。おそらくなにかしらのエラー文言が表示がされている様子なのだが、言葉自体がよくわからないので文字とも記号ともつかないものを適当に押してみた。

同意を求められているような雰囲気のボタンを押すと、画面上に動画が再生しはじめて右上のチャージ額から再生分の金額がひかれたことに気づいた。そしてもう一つ肝心なことにも気づいた。このカードは銀行口座ひもづけのオートチャージ型だったことだ。これはまずい。

何語とははっきり言えないのだが、ところどころ漢字のような文字が混ざっており「消」に似ている文字を押すとその動画を削除することができる画面に切り替わった。ということは再生時間に応じて課金される仕組みなのだ。私は慌てて削除(であろう動作)を実行してみると、動画の再生は止まりさきほどのホーム画面に切り替わる。

現状ではもうどうしようもない。とりあえずこの画面を終了してICカードを回収したうえで、ICカードのサービス運営会社に問い合わせをすることにした。私が券売機の前で困っていると、二人組の小学生が横を通った。なんとなくこの言語を知っているような顔だちだったので英語で話しかけてみると「ああ、それならこのボタンだよ」と日本語で返事が返ってきた。彼らはわいわい笑みを浮かべながらボタンを押す。

すると新たな画面に切り替わり、今度は文字すらなくなってしまった。ぬるっとしたのっぺらぼうのような画面には鼻や口のような模様が描かれており、わけがわからず小学生たちに声をかけようとするがその姿はもうそこにはなかった。仕方がない。鼻を触ってみよう。反応がないか。次は耳を……。

「ブッブッブツ」

頭の上のほうからブザーのような通知音のような音で目が覚めた。あーそうか。夢だったんだ。タブレットには電池の残量が残りわずかの警告が表示されていた。

今夜は夕食を食べてからnoteの自己紹介でも書くか……。

* * *

筆者より
この話はいわゆる夢落ちと思われるかもしれませんがノンフィクションです。現実の世界の中でみた夢という実話です。私はよく明晰夢を見るのですが、ここに出てくる電車の路線は架空のものでありながら毎回同じ場所に出現します。そして夢に関連した次の要素が強く関連していると思われます。みなさんにとって夢とはなんでしょう?

・前日に不審なメールのお知らせを読んだ(不審な画面)
・英会話聞き流しをタブレットで再生しながら寝ていた(小学生二人組)
・本日は月末の事業経理の日(仕事の話)

なにかひとつひっかかるんだけど……

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