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プライドを捨てて得たもの

元彼への未練を立ち切り、新店舗のオープニングメンバーとして上を目指す事だけを考えて前に進もうと決心した24歳の春。

元彼のマサヤに素直な気持ちをぶつけて真正面から向き合う事もできないまま彼は大宮へ行き、マサヤの彼女だった結女ちゃんが破局を匂わせるブログを書いていたものの、その後の事は何もわかりませんでした。

もしかしたら二人できちんと話し合って別れという手段を選ばずに解決したかもしれないし、結局そのまま終わったかもしれない。いずれにせよ前回の記事に書いた通り、私は彼に対してあんな発言を繰り返してしまった立場なので今更"本当は寂しい"と伝えたり"どうして彼女いないって嘘ついたの?"と聞いたりする事もできず、もう後には引けない状態でした。

その後も、新店舗で自分なりに努力を重ねても空回りする一方で良い結果は出せず、昼夜共に週5日働いて心も体も疲弊し、私はボロボロになる寸前でした。

そんな時、マサヤの働いていた店で知り合って仲良くなった友人2人とマサヤの後輩のヒカルくんに誘われ、4人で彼のいる大宮店に遊びに行こう!という話になりました。

当然ながら私は戸惑いを隠せず、状況をおおよそ理解しているヒカルくんや友人達に素直に今までの出来事を打ち明けました。

その時に友人が「大丈夫!あいつがれいちゃん泣かすような事言ったらその場でぶっ飛ばすから!」と言ってくれた事、ヒカルくんが「今回は仲間内で日帰り旅行に行って現地で楽しく飲もうって感覚でいれば良いんだよ。あいつには俺から連絡しとくから」と前向きなフォローを入れてくれたお陰で、気持ちを切り替えて行く事にしました。

そして私は、次の宣材写真の撮影日をあえて大宮に行く当日に決めました。

何も取り柄のない私でしたが、撮影の時にシャッター音に合わせて次々とポーズが思い浮かび、瞬時に表情や体の向きを変える事が唯一の特技でした。綺麗な撮影用のドレスに身を包んでヘアメイクを済ませた後にカメラの前に立つと、不思議とその時だけは"私も自信と魅力に満ち溢れたキャストになりたい、雑誌で他店の女の子達と比べた時に見劣りしないくらい輝いている自分を見せたい"という気持ちが前面に出てきたのです。

綺麗に仕上げた髪型と撮影中に見せた最高の笑顔のまま大宮に向かおう。あんな疲れ切ってボロボロになった私のままでマサヤに会いたくない。そう思ってこの日に撮影を行いました。

その日の夜、私達4人は大宮に向かい、ヒカルくんがマサヤから教わったというお勧めの居酒屋に立ち寄って軽く食事をしてからマサヤの店に行きました。

約1ヶ月ぶりの大好きだった彼との再会。彼から別れを告げられ、あの店で再会するまで約半年間想いを引きずっていた頃と比べたら今は辛くない。そう自分に言い聞かせました。

ただ、素面でまともに話せる自信がなかったので普段以上にペースを上げて飲んでしまい、早くも酔いが回ってきました。みんなの話し声が遠く感じるようになってきた頃、どんな会話の流れだったよか忘れましたが(笑)店のスタッフに「れいちゃんとマサヤはお似合いだと思うけどな〜つき合っちゃえばいいのに!」と突拍子もなく言われました。

思わず「は!?それは絶対ない!だってマサヤ彼女いないとかずっと私に言ってたくせに実際結女ちゃんとつき合ってたじゃん!この色恋クソ野郎!」と叫んでしまいました。そして、急に大声を上げたからか一気に酔いが回って

酔い潰れてその場で寝落ちしました。(最低最悪すぎる…)

それなりに飲んではいたものの、潰れるほど飲んだつもりはなく…恐らく昼職と新店舗でのレギュラー出勤の両立で疲労が溜まっていたのだと思います。

回復するまで寝ている間も、一緒に来ている仲間達がマサヤに向かって

「れいちゃんも新しい道で上を目指して真剣に頑張ってる」

「こんなに純粋な気持ちで応援し続けてくれる子はなかなかいない」

などと話してくれているのが聞こえました。…そう、私はマサヤへの想いが断ち切れない反面、恋人同士だった頃とは別の形で彼を応援したかったんだ。交際期間は1年に満たない程度。その時は彼に甘えてばかりで、私は彼に何も与えられなかった。だからこうして少しでも支えになれる事が嬉しかった。なのに、彼女の存在を隠して色恋営業まがいな事して…それが一番悔しかったのです。

やっと起き上がれる状態になった時マサヤに大丈夫?と声をかけられたものの、まだ頭が回っておらず「何よ、色恋嘘つき野郎。言っとくけど、ホストでもないのに彼女の存在隠すなんて私だけじゃなくて結女ちゃんにも失礼な事なんだからね!」と言ってしまいましたが、そんな私にマサヤはこう言って頭を撫でてきました。

「隠してたのは本当にごめん。でも、あいつとはもう別れたよ。ここにいるみんなに誓って嘘じゃないって言い切れるよ。俺もここにたどり着くまでに地元で仕事しててたくさん悩んできた事があるけど、れいも同じようにずっと前を向いて頑張ってきたんだよね。」

あー、こういうの本当に悔しい。私の気持ちなんて分かっていないようで実は分かっている所。毎日店でダメ出しばかりされて思うように結果を出せなくて精神的にも肉体的にも限界に近くて。それでも好きな人にこんな言葉をもらえるだけで"まだ頑張れる"って前を向く事ができるんだから。

この時、本当の意味で気持ちを入れ替えて今まで以上にA店の看板キャストとしての自覚を持って頑張ると心に誓いました。そして、次にマサヤと会うのは自身も周りも認める結果を出してからだと決めました。

地元に戻ったら、もう一度自分自身をよく見つめ直してNo.1にふさわしいキャストとはどんなものか根本から考え直して進んでいこう。こうして私は再び在籍店No.1を目指す決意を固めていったのです。

***

今回の記事を書くにあたり、当時を振り返ってみてマサヤは私にとって水商売の世界に入る前から自分を知っている数少ない人で、だからこそ恋愛感情を含めても含めなくても日頃から支えられている部分が多かったんだと改めて気づきました。

確かに色恋まがいな事をされて苛立った事や何度も泣くほど辛かった事はたくさんありましたが、この人にもう一度出会えていなかったらたった3ヶ月で断念した夜の世界に戻る事も、自分がNo.1になろうと一念発起する事もありませんでした。良くも悪くも私の人生に大きく関わってきた人です。

その後、私が再びNo.1を目指して突き進んでいく過程は次回の記事でまた書きたいと思います。それではまた!

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