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犬育てと子育て ❹

蘇る記憶

子育てをしてよかったと思うことはアレコレあるが、子どものころ大好きだったお菓子を正々堂々と買えることもその大きなひとつと、常々思っている。
2枚のビスケットの間のクリームを先に舐め取る背徳感を思い出させてくれるビ○コとか、可愛らしい三角形のドロップをかみ砕くと中心部分のじゃりじゃり感も楽しめちゃうサ○マのいちごみ○くとか。

別にいつだってスーパーに並んでいただろうし、買おうと思えば買えたのだろうけど、私の感覚ではこうしたお菓子は「オヤツに出される」ものだったから、いつのまにか自分の生活からも記憶からも消えていた。

子どもが生まれて、離乳食やら何やらを経ていろいろ食べられるようになった後、スーパーのオヤツ売り場の棚を初めて「子どものオヤツのために」眺めたとき、私は歓喜した。なつかしのビ○コやいちごみ○くがあったから! しかも、パッケージもそのままに。

私は高齢出産だったから再会はおよそ30年ぶりだったが、味はもちろん、クリームを前歯でしごきとる感覚まで蘇ってきた。迷わずカゴに入れたことは言うまでもない。飴はさすがに早かったが、これ幸いとばかりに私が独り占めさせてもらった。
それ以来スーパーに行く楽しみが増え、成人したムスメが見向きもしなくなった今でも時々、棚に手を伸ばす。「子どものため」という顔をして。

ちょぼが家族に加わってことで、この記憶の蘇りを別方面で経験している。というのも、ムスメは小さな頃からインドア派だったからだ。犬であるちょぼはもちろんそうではなく、 しかも我が家の誰よりも社交的。 人が大好きなことは現場報告済みだが、犬仲間と走り回っているときの輝きぶりたるや! その姿が見たくて自然と外に出る機会が増え、結果、眠っていたアウトドアでの記憶が揺り起こされることとなったのだ。

先日は、頂上が絶景と聞いて、ちょぼと二人でちょっとした山登りをした(高さわずか百数十メートル)。元気いっぱいなちょぼに対して、ヘタレな私はすでに最初の斜面で息も切れ切れで、上から降りてきたご老人に「飼い主さん、頑張って!」と励まされる体たらくだったが、それでもなんとか頂上に辿り着くと、広がる菜の花! 前方に海! 視線を巡らすと富士山!  

すごいね! と傍らを見たら、ちょぼは仰向けでゴロゴロしていた。枯れ芝に体をスリスリして実に気持ち良さそうで、誘われるように隣に寝転んだ。

真っ青な空。ヒンヤリした空気を思い切り吸い込む。途端に枯野の斜面で遊んだ記憶が蘇ってきた。段ボールを尻に敷いて、長い斜面を滑り降りていく小学生の自分が。風を切る感覚も、友だちの笑い声も。
大好きな場所だったのに、ずっと忘れていた。思い出せたのは、ちょぼのおかげだ。

その後のほぼ半世紀の間に、良いこともそうでないこともいろいろあった。覚えていないこともたくさんだけど、そのすべての結果が、今の私だ。背中が少し湿ってくるのを感じながら、まんざら悪くもないかもしれないと思えた。

ちょぼ、ありがとね。
また一緒に出かけてね。ひとりではちょっと、寝転べないから。

現場からは以上です。

米澤佐知子
NPO法人ハートフルコミュニケーション認定コーチ


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