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過去からの贈り物

埼玉の落合です。
私は子育てをするママたちの笑顔をみるとホッと安心します。眉間にしわを寄せたしかめっ面や、がみがみ怒ったり、という状態ではなく、穏やかな表情です。

会社員を辞めて助産師になり10年が過ぎました。
医療の現場という新しいフィールドで働くことはこれまでのワークスタイルとは違っていて、助産師になりたての頃は「何のために誰のために仕事をするのか」という考える余裕はなく、日々の業務をこなすことで精いっぱいでした。
しかし、どんなに忙しくても辛い日々でも、辞めたくない。無意識のうちに、子育てをしていく方への関わりをしていきたいと感じていたからです。私の根底には、子育てを「楽しい」と言えるくらいの心の余裕を持ったママさんが増えてほしい気持ちがありました。

私が誰かのお役に立てて嬉しかったと思えるようになったのは、つい最近の事です。
産む・育て始めのママたちは「今」目の前のことに必死で一生懸命です。そして出産は一人ひとり違います。たとえ、同じ人が再び妊娠・出産しても進み方や経過は違います。唯一無二であり一期一会です。
私たち助産師は子どもが産まれてくるお手伝いをするサポーター。
時には、なかなかお産が進まず、陣痛中に涙をする方、予想外の展開に動揺される方もいらっしゃいます。そんなときも、その人が妊娠中・出産・産後の頑張りを自分の力に換えて子どもを産む力・育てる力を発揮できたり、起こるかもしれない出来事を乗り越えるバネや自信につながっていくことを信じて関わっています。

先日、ある方に「私の子どもの頃はね…」と幼少期のことを話したとき、こんなことがありました。古い記憶をさかのぼっていくうちに子どもの頃の祖母と過ごした時間を思い出したのです。
祖母がうどんを作ってくれたこと、筍を掘ってくれたこと、そのときの祖母の歩き方や手の動きや表情やその時の景色や匂いさえも蘇ってきました。祖母と過ごした当時、そうした何気ない時間は、とても心地よくて安心しましたし、幼心にも、祖母に大事にされた、自分の心が満たされた感覚がありました。

大人になって振り返ってみて、「あの時」の味や「その時」の風景、祖母が私にしてくれたことが、現在の私の食べ物の好みや自然や植物が好きであったりする礎であることに気づきました。
生まれ育った場所、その時に体験した事柄、育ててくれた人、一緒に過ごした時間、いわゆる日常生活が蓄積されていって、最終的に大切にされ思い出や心地よい感覚や記憶となって心に残る。まるで過去からの贈り物のようでした。

これまでにお産を担当させていただいた方、母親学級で出会った方のなかには、出産後も繋がっている方がいます。
少し前に、一人目の出産に約24時間かかった方が、今回2人目を出産されることになり、再会をしました。事前に書いてもらう問診票に「出産はつらかったけど嬉しかった・幸せなお産だった」と書かれていました。
嬉しい再会をしてお話を伺うと、
「大人になってから人に頼ることはなかなかないことだった。初めての出産は陣痛という痛みと、これから自分がどうなっていくのかわからない不安で、辛いし、弱音を吐いてしまったけれど、肯定され励まされたことで、『この人(助産師)には頼っていい』と安心してお産に臨めることができました」と笑顔で話してくださいました。出産後から数年経ったママさんの問診票を目にして、お声を耳にして、役に立てたことを嬉しく思いました。

私の思いが、いつ、どんなふうに伝わるかはわからないことだと実感しましたし、時間が経って初めて伝わるものもあると思います。
いつか、子育て中のママたちが「昔、こんな助産師さんがいたな」と振り返ったとき、それをきっかけに妊娠中・出産・産後の頑張れた経験が蘇って、そのママが何かを乗り越える糧になったり、不安を払しょくさせる自信に繋がったら。出産体験が過去からの贈り物となるとしたら、ママ自身もどんなに心強いことでしょうか。そこから笑顔の波紋が広がってほしいと願っています。

2022年6月6日
埼玉県/落合陽子
NPO法人ハートフルコミュニケーション認定ハートフルコーチ


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