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心理学者たち3:エリザベス・ロフタス

エリザベス・ロフタス(1944-)は、記憶研究、とりわけ目撃証言の信頼性という、社会の公正を根底から支える領域において、卓越した業績を上げた心理学者です。

彼女の研究は、法制度や臨床心理など多岐にわたり、私たちの記憶に対する理解を根底から変革しました。彼女のキャリアを振り返ることは、認知心理学の勃興から現代社会が直面する記憶の複雑な問題まで、多角的な視点を与えてくれます。

1960年代後半、ロフタスが研究を始めた頃、心理学は行動主義から認知心理学へと転換期を迎えていました。当時、記憶は過去の出来事を忠実に記録するものと信じられていましたが、ロフタスはそれに異を唱えました。

彼女の問題意識は、日常生活における記憶の不確かさ、特に目撃証言の誤りが社会に及ぼす深刻な影響への深い憂慮に根ざしていました。自身の経験も、記憶の脆弱性と主観性への探求心を駆り立てたと言えるでしょう。

ロフタスの研究は、厳密な実験に基づきながらも、その手法は独創的です。彼女は、参加者に出来事を観察させた後、質問や暗示的な情報を与え、記憶がどのように歪められるかを検証しました。

自動車事故の映像を用いた実験では、事故の描写を「衝突した」と表現した場合と「接触した」と表現した場合で、記憶に差異が生じることを示し、記憶が再構成される動的なプロセスであることを明らかにしたのです。


Understanding the human existence.

さらに、ロフタスは「偽記憶」の研究において、画期的な成果を上げました。彼女は、実際には起こっていない出来事を、暗示や虚偽情報によって信じ込ませることを実験的に証明しました。

ショッピングモールで迷子になったという架空の出来事を、詳細に誘導することで、参加者に自身の過去の記憶のように想起させた例は、その衝撃的な発見を象徴します。この発見は、目撃証言の脆弱性を浮き彫りにし、冤罪事件の再審など、司法制度に大きな影響を与えました。

しかしながら、ロフタスの研究は常に賞賛されたわけではありません。
性的虐待などのトラウマ記憶の信憑性に疑問を投げかけることになったため、時に厳しい批判も受けました。

彼女は、記憶の脆弱性を指摘しただけでトラウマを否定したわけではありませんでしたが、その複雑なニュアンスが理解されにくいこともありました。この批判は、彼女の研究の重要性と同時に、記憶というテーマの倫理的な側面を浮き彫りにしました。

それでも、ロフタスは自身の信念を曲げず研究を続け、記憶研究に革命をもたらしました。彼女の研究は、私たちの記憶に対する過信を戒め、証拠を慎重に評価することの重要性を強く認識させてくれます。

司法制度における証言の扱い方、精神療法における記憶の信頼性、教育における情報伝達など、幅広い分野に変革をもたらし続けているのです。



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Mr.こころの虹
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