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東アジアがお互い理解し合えるようになるための教育を研究・実践 Wake Up Japan理事 長川美里さん

日本・中国・韓国の「近くて遠い」という意識をなくしたいという想いで、東アジアの関係を専門に学び、グローバル人材の育成、研究、実践を行っている長川さんにインタビューしました。

長川さんプロフィール
■出身地:東京都
■活動地域:東京・横浜・東アジア
■現在の職業及び活動:Wake Up Japan 理事、Global Shapers 横浜ハブ インカミングキュレーター(2019)
■座右の銘:keep your dream alive

夢は、日中韓が「近くて遠い」と言われるのをなくすこと

記者 今のお仕事と活動についてお聞かせください。

長川さん(以下、敬称略) 今、三足の草鞋を履いています。一つ目がグロービスでの人材育成の仕事。二つ目が「Global Shapers(グローバル シェイパーズ)」。これは世界経済フォーラムから任命される32歳以下のグローバルなコミュニティで、私は横浜ハブのメンバーです。多様性の尊重という目的を持って、横浜100人カイギの企画・運営等、色々な横浜を盛り上げる活動をしています。

三つ目が、「Wake Up Japan」という団体で、社会変革についての活動を、主に高校生や大学生へのワークショップ提供や、IMPACT Japanという社会変革の企画を通して行っています。Wake Up Japanの活動ですごく大事にしてるのが、行うワークショップに対して、私達自身が答えを与える立場ではないという点です。答えをあげるというよりは、色々な問いを投げかけて、参加者で議論をします。例えば「社会に対してどう思う?」「いい市民とは何だろう?」「戦争とは何か?」。大学生や高校生、そして場作りを行う私たち自身がその問いについて考えることで、自分の中で疑問に思ったことや、やりきれてなかった事に気がつくような場になればと思っています。

記者 どのような夢やビジョンを持っていますか?

長川 私は、日本と中国と韓国の間で、「近くて遠い」と次の世代が言わない世界をつくりたくて。その世界をつくるためには、人を育てる部分と、様々なことを知ることが必要かなと。しっかりと私自身も知らなきゃいけないし、色々と新しいものにも触れ続けたいと思い、三足の草鞋を履いているという感じです。一つ目のグロービスは、社会でリーダーを育成するというのはどういうことなのか、二つ目のグローバルシェイパーズは、東アジアを含め、グローバルと私自身を繋げるという側面、三つ目のWake Up Japanは、いろんな知見や経験を社会に還元して、私自身も高校生や大学生から学ぶために身を置いている、という位置づけです。

お互いが健全な関心を持ち、それに基づいた行動をすることが必要

記者 日本と中国と韓国の間で、「近くて遠い」と次の世代が言わない世界をつくりたい、という夢を持つようになったきっかけは何ですか?

長川 日中韓、東アジアが「近くて遠い」と言われるのをなくしたい、そのためにずっと活動しています。理由は、それが嫌だったからというのが、単純に一番大きくて。高校時代にアメリカに1年間行った時に、私の浮き沈みが激しかった10代の頃に助けてくれたのが、東アジアの友人達だったんです。仲良くなれたし、一緒に人生を生きて楽しいと思えたんですけど、大学生になって、知識がそこそこついて、東アジアの情勢とかで騒がしくなってきて。いろんな知識をつけ始めると、自分自身も、韓国や中国の人をそういう目で見ているのに気が付いたし、中国や韓国の人も、私に対していろんな疑問を投げかけてくる環境になって。
そのことに一番大きく実感したのが、2010年の国連協会が主催した日中韓ユースフォーラムという事業です。その時に、中国の代表団の人が言ったことですごく気になったのが「近くて遠い国」という言葉だったんです。「地理的に近いのに、心理的に遠い」という意味で使っていて、彼はそれをマイナスの文脈で言ったわけではなかったけれど、私はそれがそれが単純に嫌だったんですね。留学時の経験から、一緒に楽しく生きられることを本当に実感して、多分そこが目指すべきとこなんだろうなと思って生きてきました。2010年からずっとその世界を目指していて。留学したときは若かったし、知識もなかったから、友達になれたって言われてしまえばそれだけなんですけど。でも、どうやったらそういう世界になるんだろうとずっと考えていて、私は教育の分野からアプローチをかけたいと思ってるので、リーダー育成の仕事をしたり、仕事以外でも高校生や大学生と話したりしながら、今の若い10代の人たちが何を考えているのか、どういう世界を望んでいるのか、どうすればみんなが幸せになるのか、彼らから学ぶことが必要だし、学びたいと思っています。

記者 すごく強い意志を感じます。

長川 大きな意味での公的な教育を変えることは難しいと思っていて、それは私の役割ではないと思うんです。でも、お互いが健全な関心を持って、それに基づいた行動をすることが必要なんじゃないかなと思っていて。過去に起こったことに対して思いを馳せて、そこから何を未来に伝えていくのか。そこに対する興味、関心というのが、私は日本社会全体にはまだちょっと足りないのかなと思うんです。私はそこに何かアプローチできるものがないかなと思って。特に私は若い人が次の社会を作ると思うので、若い人に対してアプローチをしたい。それが開発教育なのか、リーダーシップ教育なのか、学校の大学での選択できる教育なのか、まだ答えがでてなくてドタバタしてるんですけど。方法はいろいろあるよねっていうステージですね。

記事 長川さんのような問題意識を持って活動している人は、なかなかいないと思います。

長川 そうかもしれないですね。私が究極にやりたいのは3ヶ国へのアプローチなんです。例えば、慰安婦の人に会って話を聞いたのも、メディアや学術で言ってる事って、ある意味正しくて、ある意味正しくないと思っていたから、本人の言葉が一番力があると思ったんですよ。私がそれを中国と韓国に拾いに行った時に大事にしていたのは、彼女達の次世代に対するメッセージというのは、何なんだろう、というのをしっかりと考えるということでした。私は、彼女達と話をして、彼女たちを「慰安婦」というレッテルだけを貼るのではなく、東京大空襲や沖縄などと同じで、様々な所で戦争に苦しみ、死んでしまった戦争の当事者や、被害者として見るべきだと思ったんです。戦争に対する悲惨さ、苦しさというものは、人類共通の価値観じゃないですか。そこに対する痛みへの共感を、次の世代に受け継ぐことが大事だと私は思っています。

人の痛みを理解できる力は誰にでもある

記者 日中韓の中で、日本でなく、韓国や中国にアプローチするにいたった背景は何ですか?

長川 なぜ私が敢えてそこをやってるのかというのは、私がそこが強みだから、そこを変えたいと思うからです。アフリカでは貧困問題があるし、環境問題に苦しんでいる国もある。世界には、もっと緊迫して今苦しんでいる人はいっぱいいるわけで。じゃあなぜ私はその問題をおいて東アジアなのかといろいろ考えた時に、一番自分で今納得しているのが、人には役割があると思っていて。私の役割はたまたま高校でアメリカに行って東アジアの人たちと出会って、そこに対してたまたま想いを持って、東アジアを変えたいと思ったっていうのがあって。たぶん、変えたいとか、好きというのが、一番力があると思っていて。
私の人間観として、人の痛みって当たり前に人はわかると思うんですよ。お腹空いてる、可哀想だなとか、殴られてる、痛そうだなとか。そういう人間が誰しも持ち合わせている感情ってあるはずで、みんなそれがあるから、広島に対しても思いを馳せることができるし、いろんな所に共感できると思うんですよね。
それを考えた時に、私が一番気になる痛みが韓国、中国だったっていうのがあって。私は人の痛みを理解できる力は誰にもあると思っていて、それが戦争後の和解という中でも理解できれば、全然違う世界ができると思うんです。痛みを理解するためには知らなきゃいけないし、知ればそこから興味を持ったり、変えたいと思う人がリーダーとして出るはずだし。私一人の力ではどうにもならなくても、関心とか興味とか、フックをかけて上に上がる人がいれば、変えられる世界だと思ってます。


記者 長川さんのこれからの目標・計画について聞かせてください。

長川 教育という部分でアプローチをかけたいというのは変わりません。私が絶対的に必要だと思うのは、東アジアの情勢に関する知見や経験と、人を育てることに対して何かしらのスキルがあること。私自身はグローバルで活躍できる力をちゃんとつけたいと思っています。 
そして、まず目指すべき世界は、東アジアの人たちが「近くて遠い国」と言わない世界をつくること。内閣府が毎年外交に関する世論調査というのを行っていますが、日本からの東アジア諸国に対する国民感情は、あまりよくありません。この世論調査の数値が、いつか逆転すればいいなと思っています。そこに向けて、この5年、10年の間でやりたいのは、まずは「東アジア」というフラグをしっかりと自分自身につけること。学術的な側面からも、実践的な側面からも、両方必要だと思っています。状況は常に変わるので、知識は常にアップデートしないといけない。あとは、東アジアの人たちがもうちょっと変わるためには、横の連携が必要なんじゃないかなと思っていて、政治だけを見るのではなく、芸術や経済など、東アジアの中で違う分野の人たちをつなげる取り組みは必要だと感じます。ここにいずれアプローチしたい。

記者 日々どんなことを意識していますか?また、どんな基本活動をしていますか?

長川 行動を重ねることが一番大きいなと思っています。私は行動で取っていく人間で、人の声や生の物を取りに行くっていうのを一番意識して行っています。やっぱり考えてもわからないことはいっぱいあるから。思いを持った人と一緒にやりたいし、自分自身が何か貢献できることがあれば、例えばワークショップなのか講演だったり、そういう場所があれば行きたいと思うし、私自身もそこに来た人から学びたい。発信し続けることが大事かなと思ってます。

記者 AI 時代、人間にとって一番必要なことは何だと思いますか?

長川 共感力。情報は取れるから、そこから自分が何を感じて、何に寄り添いたいと思うのか。AIが提供しているものは、情報や整理の部分だと思います。自分自身が物事を選択する時に軸になるのが、それに対して寄り添いたいと思えるかだと思うので、共感力が必要だと思います。

記者 最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

長川 仕事柄、キャリアの悩みを持っている人に出会う機会が多いのですが、すごく伝えたいと思うのが、難しいことを考えずに好きなことをやればいいんじゃないかということです。年を重ねるごとにいろんな責任感とか、どうしようもないこととか出てくると思うので、私自身も含め、そんな簡単ではないですが・・・。でも究極、自分が一番強くあれるのって、好きであることだと思うので、もし何か悩んでるのであれば、好きなことをやって欲しいなと誰に対しても、おせっかいなので、思ってます。
そして、これは完全に個人的なおすすめですが、休暇ができたら、ぜひ、韓国や中国に行ってみてほしいですね。隣国だから避けて通れない関係性であるのは間違いないですし、知っておくことは、損じゃないと思います。何よりおいしいものがいっぱいあります!時間ができたら、ぜひ中国・韓国へどうぞ!

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長川美里さんの情報はこちら↓↓
■Wake Up Japan(理事)
https://wakeupjapan.jimdo.com/wake-up/leadership/

■Global Shapers横浜ハブ
https://gsc-yokohama.com/member

■GLOBIS “The Millennial Identity: How East Asian Students at Top Universities see themselves” (2019)
https://e.globis.jp/global-japan/the-millennial-identity-how-east-asian-students-at-top-universities-see-themselves/

■East Asia Forum “Public Divided Over Comfort Women Agreement” (2016)
https://www.eastasiaforum.org/2016/01/22/public-divided-over-comfort-women-agreement/

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【編集後記】
インタビューを担当した陣内、杉本です。
長川さんの東アジアに対する想いは一途で、必ずわかりあえるはずという確信と情熱を持っていることがとても印象的でした。また、知見を広げること、足を運んで情報をとること、10代の若い世代の意見を聞くこと、グローバルな場に見を置くことなど、非常にバランスを重視していて、常に自分を磨き、向上させていこうとする強い志にも感動しました。これからのご活躍、応援しています!

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン”美しい時代を作る人達”にも掲載されています。


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