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こころの鍵

これはある青年の不思議な物語である。
その青年の名はジェームス。
30代、独身だ。


それなりに仕事をそつなくこなしてきたが、最近、長く勤めた職場を離れたばかりだった。
周りには自分の夢のビジネスを立ち上げるためにやめるのだと嘘をついていた。
本当は、ただ何もかも嫌になってやめただけだった。


新しいビジネスを立ち上げる気持ちはあったが、実際はなんのプランも立っていなかった。
周りからのプレッシャーと自分への苛立ちで、気持ちはどんどん沈むばかり・・。家にいたら、頭がおかしくなりそうだった。

これではいけないと思い、近くの海へ散歩にでることにした。

長く続く砂浜を何を考えるでもなく歩いていると、目の前に奇妙な光景が広がっているのに気がついた。
なんと、海の色がジェームスの目の前で、青と赤に真っ二つにわかれているではないか。

ジェームスはいよいよ幻覚を見るようになっったかと、何度も目を擦ってみたが海の色は以前、変わらなかった。
 

どうしてこんな色なんだろう?
 これは泳いで確かめるしかない。



もともと好奇心旺盛なジェームスは、そう決めた瞬間、Tシャツを脱ぎ始めていた。
買ったばかりのスマートフォンを脱いだTシャツでぐるぐる巻きにして、砂の上に丁寧に置いた。
自分の身の回りで一番高価なものはこのスマートフォンだった。
これが、自分と周りをつなぐ唯一のツールだった。

泳ぎは得意だから、怖くはない。
少し泳いで潜ってみよう。

ジェームスは何の躊躇いもなく、赤い海へとダイブした。
その海は赤い色というより、赤茶のような色で潜っても何も見えなかった。
匂いも何も、感じない。
ジェームスはもっと深く潜ってみることにした。

すると、視界が一気に広がって、目の前に豪華絢爛な宮殿のような建物が見えてきた。
 
何だここは!

ジェームスは驚愕した。
昔、日本のおとぎ話を読んだことがあるが、まさにそれと同じような光景が目の前に広がっている。
 さらに奥に進むと、たくさんの果物や野菜が並べられ、子供たちが輪になって踊っているのが見えた。皆一様に笑顔で楽しげに見える。
誰一人として、侵入者であるジェームスを気にも止めない。
海の中に大豪邸があり、しかもヒマラヤ山脈のような高い山さえ見える。
 これは夢に違いない!!
自分の目の前に広がる光景を、到底信じることはできなかった。

しかしその反面、ずっとここにいたい、これが現実であればいいのにと思う気持ちも湧いてきた。
はたまた、俺はもうこの世にいないのだろうか。魂が帰る場所とはこのことか・・。

など、一度にいろんな考えがジェームスの頭の中をいったりきたりした。
現実世界はジェームスにはもう辛いだけの場所になっていた。
やりたいこともわからず、生きがいさえ感じず、今まで打ち込んできた仕事や人間関係さえもすべて無駄な時間に思えた。
自分は何一つ達成できていない。
しかも達成する力もない。自分がいなくなっても悲しむ人がいるのかどうかさえ疑問だった。

そんな自分が新しいビジネスだって?
笑わせるな。俺にそんな才能も、力もあるわけがない。
夢ならば覚めないでほしい・・。

ジェームスは目の前の光景に圧倒されながら、ただそこに浮かんでいたが、彼の脳内は自己卑下の思考でいっぱいになっていた。
どれほどの時間が経っただろうか。
彼はやはり陸に戻ることを決意した。
そこにいても誰からも声をかけられることもなく、ジェームスは居心地の良さの反面、君の悪い居心地の悪さを感じ始めていた。
そして、陸に戻らなくてはいけない、という焦りの感情が湧き上がってくるのを感じていた。

そう思った瞬間、彼は自分の手の中に小さな箱が握られているのに気がついた。
 これはおとぎ話で読んだ玉手箱と同じだろうか。

だとしたら俺はおじいさんになってしまうのかな・・。そんな風に思った。
踵をかえして、水面に向かって泳ぎ始めたジェームスの前に何かが立ちはだかった。
びっくりして声をあげたジェームスは同時にその箱を落としてしまった。

目の前にいたのは、白髪で白い装束を着た老人だった。
無表情でジェームスを見下ろしている。
足があるのかどうかは、長く垂れ下がった装束に隠れて見えなかった。
「誰ですか?」ジェームスが訪ねた。
老人は黙っている。
「あなたのせいで箱を落としてしまいました。あれには何がはいっているか知っていますか?」
老人は何も答えない。
「無視しないでください。無礼じゃないですか。」

ジェームスは今まで感じていた不安を目の前の老人に当てつけた。
しかし老人は相変わらずなにも発せず、そこに浮かんでいる。
 何か話してください。私はどうしてここにいるのか、さっき見た光景がなにかさえ、わからないんです。こんな不安なことはありません。
ジェームスの口調はどんどん荒々しくなっていった。
「興味本位で来てみたけれど、今は不安しかありません。
陸に戻ったら何が待っているのか。また元通りの生活に戻ってしまうのか。人生はなんて辛いんだろう。生きてる意味がわかりません。
さっき子供たちが踊っているのをみました。
あんな踊り続けて、楽しそうにしていたけど、私はあんなふうに馬鹿みたい
に踊って笑って生きるわけに行かないんですよ。
正直、嫌な気持ちになりましたね。
気楽なもんだ。ああそうだ、ここよりも陸に帰った方がずっとマシだ!
陸に帰らせてください!」
すると、老人は言葉を発するのでなく、ジェームスの心に話しかけた。
まるでテレパシーのように・・。
「君は現実には帰れないよ。帰りたいのなら、私を説得してみなさい。」
ジェームスはしばし口をぽかんと開けていた。
そして再びはっと我に帰ると、
「あなたはどんな権限があって、僕をここに引き止めるんだ!説得だって?なんであなたを説得しなくてはいけないんだ!」
そうまくし立てた。
老人の言葉を聞いた瞬間、自分には老人を説得できるだけの帰りたい理由がないことがわかっていたからだ。
しかし、老人はずっと黙っているし、自分も心のどこかで帰らなければという切迫した感情が湧き上がってきている。
これは説得するしかないだろう。
ジェームスは大きく息を吸い、全身を使って息を吐いた。
「僕は、、このまま生きているか死んでいるかわからないようなところにはいたくないんです。僕の人生はきっとまだやることがあるんだと思います。それが今もわからない。わからないけれど・・でも、見つけたいんです。
だから僕がいるべき場所に帰らせてください。」
ジェームスの頬には、いつの間にか涙が流れていた。
涙を拭った瞬間、老人の姿は消えていた。

宝箱は、足元の岩の隙間に落ちていた。
それを拾い上げて、ジェームスはさっきとは違う気持ちで水面へと向かい始めた。
ジェームスは自分の心が少し軽くなった気がしていた。
今まで誰にも言えなかったことを全部言えたような・・そんな気がしていた。

僕は見つけたいんだ、自分のやりたいことを!
仕事のことばかり考えていたけれど、そうじゃない。
僕はこの人生でまだやることがあるんだ!
それを見つけたい!知りたい!教えてください!

岸に上がったジェームスは、宝箱をそっと開けてみた。
箱の中には、きらきら光るクリスタルの鍵が入っていた。
それを手にした瞬間、ジェームスのハートから光が放たれ、ものすごい解放感がジェームスを圧倒した。
宇宙のような大いなる存在から祝福を受けた、そんな体感だった。
それまでジェームスは見えないものはあまり信じないタイプだったが、今、彼に起こっていることは彼の今までの人生の価値観を全て覆すような出来事だった。
 
そしてその後、ジェームスはその鍵をツールとし、悩み彷徨う人の心の鍵を開けるセラピストとして名を馳せるようになった。
ジェームスはそれをライフワークとして世界中の人に無料で施していた。
しかし、ジェームスの行いは彼に永遠の富を約束した。
彼だけでなく周りの人々も幸せと感謝の日々を送り続け、心の鍵を開いてもらった人によって世界中に愛の連鎖が起こり続けていた。


おしまい、おしまい。

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お読みくださりありがとうございます。
ノベルセラピーで即興で作ったミニストーリーに肉付けしたものです。
誰でも簡単に物語を作ることができるノベルセラピー。
ぜひ作ってみませんか?
セラピーと名付けられた通り、ご自身の内面(健在、潜在意識からくるストーリー)からのメッセージ、気づきがあるエネルギーワークの一種です。

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