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スキー場と屋根裏部屋

時はバブル全盛期。


若者達は夏はサーフィン、冬はスキーに行くのがステイタスになっていた時代に
就職して間もない私がいた。

年に一度、友人とスキー旅行をしていたが、その中でも忘れらない旅の思い出がある。

志賀高原にある民宿に友達4人で泊まりに行ったときのこと。

昼はスキーを楽しみ、夜は互いに仕事、恋愛の近況報告をしあうのが恒例であった。


その日もワクワクしながら報告タイムを迎えようとしていた矢先、部屋に備え付けられていたダイヤル式の電話がリーン、リーンと鳴った。


「誰からだろう」

恐る恐る受話器を取り、電話に出た。

「今から屋根裏で集まりますので、
 遊びにきませんか?」

お誘いの電話だった。

皆で顔を見合わせて、一瞬戸惑った。

「旅の恥はかき捨て」という言葉もあるので、皆で行ってみることにした。


屋根裏部屋にはすでに男女合わせて25人ほどが集まっていた。

まずは自己紹介。

1人ずつ立ち、みんなに向かって話した。
この場に集まっているのが、宿泊客と宿のバイトをしている学生達だということがわかった。

その場にあったお菓子を食べ、お酒も飲みながら全員で色々なゲームをして遊んだ。



屋根裏部屋に集まった人達は、前からの友達のように仲良くなっていった。


次の日はあいにくの吹雪で、民宿の中で過ごすことになった。


昨晩、知り合いになったバイト学生に会ったときには、

「仕事頑張ってるね」

「まあね」

気軽に声がけできるので、むしろ宿にいる方が楽しく過ごせた。

吹雪はひどくなる一方で、夜行バスで帰る予定だったが、運行中止となった。

次の日は仕事だった。


当時、遊びで仕事を休むなんて
許されない時代だった。


友達と顔を見合わせては「困った」「どうしよう」の言葉しか出てこない。だかどうしようもない。


明日、会社に電話をして休ませてもらうしかないという結論に至った。

途方に暮れている私達に、仕事終わりのA君が声をかけてきた。

昨晩は全く話す機会がなかったのだか、話をしてみると気さくで私達と
話が合った。

A君が「僕はオーストラリアのエアーズロックに行くのが夢なんだ」と語った。

「どうして行きたいの?」

「エアーズロックは太陽の日が当たると燃えているように真っ赤になるんだ。
それを日が沈むまで見ていられたら
きっと強くなれると思うんだ」

A君は言った。

なぜこの話をしたかは覚えていない。

その後、私達は彼にどういう声がけをしたかの記憶もない。

そのときロビーでは、帰宅できなくなった宿泊客みんなでドラマを見ていた。

「東京ラブストーリー」

主題歌の「ラブストーリーは突然に」が流れていたことは、今でも鮮明に
覚えている。

あの日 あの時 あの場所で 
君に会えなかったら
僕らはいつまでも 
見知らぬ2人のまま

A君に対して
「この人はきっと素敵な男性になるのだろうな」と思ったのも覚えている。


この旅行後、1人の友達は
再びこの宿に宿泊しに行った。


私はその後、宿にも行かなかったし、
誰とも連絡を交わすことはなかった。

今では名前も顔も思い出せない。


しかしこの曲を聴くと、若かりし日の楽しかった屋根裏部屋のことや、A君との会話を思い出す。



楽しかった旅の思い出は、
何年経っても記憶に残っている。


また新しい思い出を作りに
旅に出ようと思う。





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