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オムすび日記

「あぁ、今日はたくさん頑張った」
という日には、ちょっと贅沢をする人がいる。
僕がその1人だ。

たまたまセブンイレブンで見かけた「オムすび」。
甘くて、強く握れば崩れるほどフワフワのおにぎりは、おにぎりとしては邪道なのかもしれない。
けれども僕にとっては、いろんなことに夢中になっていた童心に帰らせてくれる魔法の食べ物だった。

食べれば心が元気になれる。
廉価だが、親の庇護の元で無邪気に笑っていた頃を思い出せるこの食べ物を、僕は大層気に入った。

でもある時を境に、ぱったりと見かけなくなってしまった。

終売
僕の頭にはそのふた文字が浮かんだ。

「あぁ、あの味には二度と触れられないのか」
「もっと食べておけば良かったな」
たかが おにぎり1つにそんな後悔を抱いていた。

セブンイレブンに立ち寄れば、無意識におにぎりコーナーへと歩く日々。
ある訳がないと頭では分かっていても、存外心は理解してくれなかった。

それから半年たった今日、仕事終わりにいつもどおりコンビニに立ち寄ったら、3割引のシールが貼られた「オムすび」が、棚の一番下の奥に2つ置かれていた。

驚きと喜びでどうにかなりそうだった。

2つ買ってしまおうか。
いや、久しぶりの再会なんだから、1つを存分に味わう方がいいに決まっている。
残すのは惜しいが、今日は思い出に浸りながら味わおうじゃあないか。

棚の前で脳内会議を行った結果、手前の一つを手に取った。
強く握れば崩れてしまう、そんな気遣いすら懐かしみながら、無事購入。

駅への帰り道を歩きながら、半年ぶりの封を開けた。
ひとくち目。玉子の甘さが広がった。
ふたくち目。ケチャップの酸味がツンときた。
さんくち目からは夢中になって頬張った。

喜びと感動に震えるしあわせな時間はいつの間にか終わり、手の中にはほんのりと温かい包み紙だけが残った。

あれだけ求めてきたものに出会えた喜びと、それが一瞬で消費された虚しさが一気に溢れ出てきて、泣きそうになった。
けれど、オムすびは、またしばらく食べられる。
そう思うと、塞ぎ込んでいた気持ちがスゥッと楽になった。

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