実体験からみる米国医療保険のシステム
1. はじめに
今回の投稿は、これまでとは趣向を変えて、私が実際に体験した歯科治療の経験を基に、米国の医療保険システムを紹介します。私自身、この経験があったおかげで、米国の医療保険をよりリアルに理解できるようになりましたので、いつかnoteで共有したいと考えていました。(後で金額も書きますが、文字どおり「高い勉強代」でした。)
なお、この後に登場する医療保険に関する用語は、日本テキサス医学振興会(JMTX)という日本人医師の方々によるNPO団体のウェブサイトにある記事(https://jm-tx.org/houstonmedical/4/)の説明が分かりやすかったので、そちらを参照しています。上記記事を一読いただくと、米国の医療保険制度の大枠を理解いただけるかと思います。
2. 実体験
時は今から約1年前、2023年5月に遡ります…(ここからは、当時の日記(再現)と解説というスタイルで進めます。)
悪夢の始まり
[1] 米国では、病院は基本的に予約制です。
[2] 米国でも、DMVエリア(ワシントンDCとその周辺エリア。D=ワシントンDC、M=メリーランド州、V=ヴァージニア州)など日本人が多く住むエリアでは、日本人医師を見つけることも難しくありません。ただし、日本人医師の数は多くないので、予約が取りにくいかもしれません。
[3] 私は米国で病院に行ったことがなかったので、まずは日本人歯科医師を探しました。しかし、A医院は3週間以上先まで予約が埋まっているとのことで、我慢できないほどの痛みだったので、そこまでは待つことができず、他を探すこととしました。
米国医療システムのリアル
[4] 保険会社によってネットワークに加入している医療機関が異なるため、病院の予約時には、自分がどこの保険会社の医療保険に加入しているか質問されます。私が加入していたのは、Delta Dentalという保険会社のPPOプラン(のはず)ですので、ネットワーク外の歯科医師の診療を受けることも可能でした。
※ネットワーク:米国では、医療保険に加入すればどこでも一律に医療保険が適用されるのではなく、保険会社によってその会社の医療保険を適用可能な医療機関が異なります。この医療保険が適用可能な医療機関を総称してネットワークといいます。学校で加入する保険の場合、日本人に特に配慮するということはないと思いますので、日本人医師のいる医療機関がネットワークに含まれるとは限りません。
※PPO:Preferred Provider Organizationの略。医療保険のプランの一類型。かかりつけ医の登録が不要であり、かかりつけ医の紹介がなくても専門医の診療を受けることができます。また、保険会社のネットワーク外の医師の受診も可能ですが、その場合にはネットワーク内の医師の診療を受けるのに比べて医療費が高くなります。
[5] 米国では、医療保険の有無、プラン等により費用が大きく変わってきますので、予約時(受診前)に費用が伝えられます。
[6] 医療保険に加入していたとしても、患者負担額は、日本のように一律●割負担という形で決まるものではありません。主な仕組みとしては、サービスごとに患者負担の固定額が定められているCopay、日本のように割合で患者負担額が決まるCoinsurance、年間で一定額を免責(免除)するDeductibleといったものがあります。ある診療に対してどの仕組みが適用されるかはは、保険会社のプランによって異なるようです。そのため、患者自身が正確な費用を自力で計算することはほぼ不可能かと思われます。
なお、Delta Dentalでは、Annual maximumという額が定められており、一年間でDelta Dentalの(Coinsuranceの?)支出額がこの額を超えると、それ以降は保険が効かなくなるそうです(私もその影響を受けました。)。
※Annual maximum(https://deltadentalks.com/knowledge/what-is-an-annual-maximum)
[7] 米国では、医療の分業化が進んでおり、私のケースでも、root canal therapy(根管治療)に関してはendodontist(歯内治療医)へ行く必要がありましたが、その他の診療(初診やcrown(クラウン、かぶせ物)作成など)はdentistで行いました。
[8] 私の要配慮個人情報?とはいえ、なかなか見る機会のないものですので、実際に受領した見積もりを載せておきます。D医院で口頭でも説明を受けましたが、何とも分かりにくいです。Totalとある行のFee(2796ドル)が総額(保険適用前)、Pri Ins(952ドル)とDiscount(1192ドル)がDelta Dentalの負担額、Pat(652ドル)が自己負担額のようです。歯科医療保険は学校からは任意と言われていましたが、加入しておいてよかったです…
治療
[9] D医院の専門医は、おそらくroot canal therapyなどの手術業務に特化して仕事をしているのだと思いますが、私が受診した時も、私ともう1人の患者がほぼ同じ時間帯でroot canal therapyを受けており、その専門医は同時並行的に手術を行っていました。
[10] 上記[8]でも触れたように、治療を受ける前に受付で見積もりの説明を受けました。また、その上で見積もりにサインをして同意をするというプロセスがありました。金額が大きいことが理由かと思いますが、事前に金額の同意を得るというのは日本との大きな違いです。
[11] この金額がCopayの額なのか、Annual maximumを超えたことによる保険不適用の金額なのか記憶が定かではありません。後で出てきますが、crownはAnnual maximumを超えたとの理由で保険が使えませんでした。
Crown作成
[12] なぜcrownがこんなに高いのかと疑問を持たれる方もいるかもしれません。今回保険が効かなかったことも理由の1つですが、もう1つの理由として、米国では日本のように銀歯が保険適用で安くなるということもなく、セラミックやジルコニアを使用することになります。おそらく、歯科矯正など歯の見え方に気を遣うアメリカ人の考え方から、銀歯はそもそも好まれていないのかなと推測しています。なお、私は何を使ったか忘れましたが、本来の歯よりもやや白いcrownが入っています。
3. まとめ
以上のとおり、日本と米国では医療保険の仕組み、病院の医療体制などに多くの違いがあります。保険会社ごとの違いもあるようですので、米国の制度を詳細に理解することは私たち日本人にとっては極めて困難なことであり、また理解する実益も乏しいように思います。ただ、実際に治療が必要になる場面では、ネットワーク内の病院にかかること、見積もりを確認することなど日本とは異なる注意点があることを意識しておくべきといえるでしょう。
また、上記のとおり、私は一連の治療で合計1571ドルを支出しましたが、もし歯科医療保険に加入していなかった場合、さらに+2000ドル以上必要になっていましたので、留学される方は医療保険のみでなく、歯科医療保険にも加入することを強くお勧めいたします。
(写真:サウスカロライナ州チャールストンにて。2022年11月訪問。)