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奈良クラブを100倍楽しむ方法#042 第2節対 カマタマーレ讃岐 -The Beatles- "Getting Better "
I got to admit, it's getting better,A little better all the time.
(It can't get no worse.)
ビートルズの楽曲は主にポール・マッカートニーかジョン・レノンのどちらかが作詞作曲しているわけだが、中には「共作」というものもある。この「Getting Better」もそのひとつ。「これからどんどん良くなるよ」というポールの前向きな歌詞に「これ以上は悪くならないさ」とややシニカルに返すジョン。彼らの価値観の違いが現れている楽曲だと良く言われている(もう一曲は「We Can Work It Out!(邦題:恋を抱きしめよう)」。ビートルズの楽曲の魅力のひとつは、彼らのほとんど間反対とも言うべき価値観の対立や共鳴にある。
自分にとって都合の悪い結末をみたとき、「これからどんどん良くなる」という言い方に、時に現実逃避のような感情を感じることがないわけではない。むしろ「これ以上は悪くならない」と考えることで結果を受け入れ、次の展開へと切り替えができることも少なくない。
2025シーズンの第2節、カマタマーレ讃岐戦は内容・結果ともに奈良クラブにとってはかなり厳しいものだった。もちろん、これから見ていくように全てがダメだったというわけではないが、総体として見た場合にこの試合は批判されてしかるべき内容ではあった。では、これでシーズンが終わったのかと聞かれれば答えはNOだ。まだ2試合しか消化していない。これから巻き返すチャンスは十分にある。今回は試合展開はやや横に置き、奈良クラブがどういう意図でこの試合に臨んだのか、どうしてそれが機能しなかったのかを考えてみようと思う。
先発メンバーの起用の意図
讃岐戦の先発メンバーは以上の通りだ。変更点はDF鈴木→中山、MF山本→堀内、前線が百田・戸水→國武・田村▲(田村翔太選手は田村亮介選手との区別のため、これから田村▲と表記します。田村亮介選手は田村△と表記します)の4名。前線は開幕戦での感触の良かった選手を先発に回したと想像する。堀内は開幕戦出番がなかったところからの先発、中山は移籍後初スタメンだ。
おそらくこうした起用の意図は、その日の戦術面だけでなく「全員にチャンスがあるんだ」という監督の意思をチーム全体に示すためだったのではないだろうか。開幕戦は内容としては悪いものではなかった。普通にいくとそこまでメンバーを入れ替える必要は感じない。それでも4名もの選手を入れ替えたのは、第2節というタイミングも踏まえれば「まだ誰も先発は確約されていませんよ」という意思表示だろう。
もし僕が監督だったら、迷わず開幕戦の先発をそのまま起用したと思う。この試合の顛末を見たときは「そのままやっとけば勝てたのではないか」という思いがあったのも事実だ。しかし、そんな素人の考えは監督もお見通しのはずで、何か意図があったはずだ。そう思い直すと、僕の判断はあまりに短略的なものだったのではないかとも思う。ここでほぼ同じメンバーを送り出してそれなりの結果を得られたとすると、先発メンバーは固定される。となると、今年入ってきた選手、あるいはベンチ外の選手の起用する機会はしばらくの間チャンスは回ってこない。選手起用や配置を触りづらくなるのだ。こうなると、怪我や累積警告などで特定の選手が欠けたときに対応ができない。もしそれがあったとしても「〜の代わり」という感じになり、やはり先発メンバーは固定されてしまう。そういう観念めいたものが出来上がってしまうのだ。できれば今後のリーグ戦やカップ戦の展開を考えれば、誰が出ても同じ、あるいはそれぞれの特徴を生かしたチーム編成ができるようになるべきである。そう、僕たちは「挑戦者」なのだ。強敵福島と互角の勝負ができたからといって、彼らと同様のところまで強くなっているわけではない。
また、今期からベンチ入りメンバーは9名まで増やされたのだが、この試合の奈良クラブは7人しか登録されていないことにも注目してほしい。監督の求めるレベルに達していないと感じられると、登録枠を余らせてでも試合に臨む。監督の厳しい態度、要求水準の高さを伺うことができる。
中山雅斗選手の起用の意図
2025年2月23日
— 奈良クラブ (@naraclub_info) February 23, 2025
明治安田J3リーグ 第2節
カマタマーレ讃岐vs奈良クラブで #中山雅斗 選手がJリーグ初出場!
おめでとうございます!🎉🎉#奈良クラブ #初出場 #jleague pic.twitter.com/KjfeoRrAtB
戦術というのは、選手個々の能力を積算したものではなく、チーム総体としてどのようにしたいのかの意思表示である。基本的に全体が先にあって、そこで部分を見ていくという順番になると僕は考えている。その上で、この日の中山選手の起用について考えて見たい。なお、彼は前半途中で交代となったのだが、Jリーグのデビュー戦というプレッシャーの中で普通にプレーできる方が異常なのだ(誰もが戸水や國武のようにプレーできるわけではない)。彼は相当なプレッシャーや期待、「やってやるぞ」という意欲をもって試合に臨んでいたことは間違いない。だから能力や意欲についの批判は僕はしない。彼は奈良クラブの大切な選手であり、未来ある若者なのだ。1度や2度の失敗だけをあげつらって批判をするようなことはあってはならない。
彼のプレーを見るのは初めてだったので、ソニー仙台ではどのような役割でどのようなプレーをしていたのかは正直わからない。見たところ、左利きでテクニックがあり、ポジショニングと正確なフィードが武器なのではないかと推測された。彼がここに配置されたことは、彼だけを見るとわからない。この日の前線に田村▲が起用されているところをセットで考えると少しは見えてくるのではないだろうか。
ここで視点を讃岐側に移して考えてみよう。福島戦の奈良クラブの試合運びを見ていて、みなさんなら奈良クラブをどのように攻略しようと考えるだろうか。バックラインで回せば回すほど、奈良クラブは追いかけ回してくるはずなので、できれば安全に試合をしたい。また、讃岐のストロングポイントは対人能力の高い選手が多いということだ。今年讃岐からやってきた奈良クラブの奥田を見ればわかるが、身体をぶつけ合うプレーを全く嫌わない。「喧嘩上等!」とばかりにボールを奪いにいく(本当に良い選手が来てくれたなあと思う)。となると、バックラインで回すのではなく、前線に長いボールを蹴り出して相手のバックラインにプレスをかける方が得策と考えるのではないだろうか。フォーメーションもお互い3−4−2−1なので、ミラーゲームとなるわけだから、布陣を触らなくてもそのまま前へ前へのプレッシングで対応可能だ。自分たちのストロングポイントをそのまま前面に出すことが、勝利への最短距離であるとともに、もっともリスクの低い展開であると考えるはずである。
奈良クラブもそれは予想していたはずだ。なので、前に出てきた讃岐の裏のスペースをつくことを狙ったのではないだろうか。そのために、スペースを突くパスが出せる堀内を起用。さらに中山を右のセンターバックに置いた。おそらくだが、彼にはピッチの対角線にボールを蹴らせて、川谷の前のスペースをつかせたかったのだと思う。奈良クラブのエース、岡田優希には厳しいマークがつくことが予想できる。同サイドにいる讃岐の守備的ミッドフィルダー長谷川だけでなく、ウィングバック内田も岡田の存在感は気になるはずだ。そこに相手選手を集めておいて川谷を走らせる。あるいは、真ん中の田村▲の裏抜けをさせる。というのが意図だったように思う。
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ただし、この狙いは成功しなかった。思いのほか、讃岐試合開始の出足が良いため、バックラインでのパス回しが安定しない。また、三連休ということもあってか、おそらく前日にピッチが別競技で使われたのだろう、どうにも芝生が凸凹としており、ボールの転がりがイレギュラーなところもあった。ただし、最大の要因は彼が左足でボールをキープする姿勢にあった。図で説明するが、右のセンターバックが左足でボールをキープすると、左足を自軍のゴールに向けてボールを保持する。内側向きになるわけだ。これはボールをチェイスする立場にしてみれば、このボールを奪いさえすればキーパーと一対一になることを意味する。これを見逃すはずもなく、彼のところを集中的に狙ってボールを奪いに来た。前半7分のピンチのシーンがそれだ。
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奈良クラブはこれに対応するため、バックラインの形を変化させる。都並が「偽のセンターバック」としてボールを持つ時はバックラインまで下がって4バックを形成、その分奥田を左サイドに押し出してサイドバックの位置まで開かせようとした。しかし、これが裏目にでる。反撃のために前進しようと國武に差し込んだ縦パス、國武は必死のプレーで相手を背負い込んでキープしようとしたが奪われる。このとき奥田はサイドに開いていたのと、攻め残りした森がフリーでいたため、生駒の左サイドに広大なスペースができてしまい、そこにボールが通される。懸命に対応する生駒だが、森のシュート性のクロスが生駒に当たってリフレクション。それが岡田慎司の逆をつく形となってゴール前に流れる。そこに走り込んだ丹羽が押し込み、讃岐が先制に成功する形となった。かなり痛い失点だ。
そこからも前目のプレスを続ける讃岐に対し、奈良クラブは引き続きバックラインを変形させてボールを保持することで対抗しようとする。このためには”本職”である鈴木の方が適任だ。またプレス回避には中へと差し込むロングボールよりも、外回りでの安全なショートパスの方がよいという判断もあっただろうか。前半途中での交代は中山選手にとっては精神的に堪えたことだろう。決して彼の能力が劣っているわけではないし、彼が良い選手であることに変わりはない(そもそも、”悪い選手”という価値観が僕には基本的に存在しない)。やり方を完全に変えるために、早めに手を打ったという感じだろう。中山選手には、ぜひ近いういちにまたチャンスを与えてほしいし、そこで自分のプレーを見せつけてほしい(個人的に使ってほしいポジションがあるのだが、それは後述する)。
余談だが、フォーメーション図で表現するときは、選手を丸だけで図示するものを僕はあまり使いたくない。選手は駒ではなく人間である。また、フットボールというのはボールの持ち方、くせ、体の向きといった1人の選手だけでもかなりたくさんの特性が組み合わさった存在である。選手の配置はすごく重要な情報なのだが、それだけで伝えられるのはある程度フットボールを理解した人であって、もう少し工夫が必要ではないかと思う。ただ、僕の書き方がわかりやすいかと聞かれたら、あまり自信はないのだが。。。
讃岐の見せた奈良クラブ対策
鈴木選手の交代で、バックラインで安定してボールがキープできるようになったので、讃岐の勢いは弱体化される。ボールを奪うポイントがなくなったことで讃岐はやや撤退。ただし、讃岐はかなり奈良クラブを研究し、こちらのストロングポイントを消しにかかってきていた。特に両サイドの守り方はお手本のような手法であり、奈良クラブは今後これを打開していかなければならない。
右サイドの吉村は「中切り」で対応する。つまり、前にドリブルをさせても良いがクロスは入れさせないぞ、という守備だ。吉村に対面する森川は、とりあえず「蹴らせない」ことを念頭において守備をしていたように見える。できるだけ吉村の横に立ち、前進するドリブルは許してもクロスだけは上げさせない。クロスのコースがなければ吉村はボールを下げざるを得ない。では、左サイドはどうか。
川谷には逆に「縦切り」で対応する。川谷の持ち味はスピードで、福島戦では何度も前のスペースに飛び出したり、ドリブルで突破しようとしていたが、そんなシーンがこの試合はほとんどなかった。ここに対応する内田は、右サイトとは逆で、川谷の前に立つことで「一対一で抜かれない」ことを心がけていた。そして長谷川や左合がサポートに来れば、川谷は利き足とは逆の右足でボールを持たされることになる。やはりここも突破できず、ボールはバックラインへ戻される。奈良クラブはこの対応にかなり手を焼いた。また、センターフォワードタイプの選手がいないため、真ん中にボールを差し込むことをできず、相手の守備陣系の外側をボールが動くだけで、崩しにかかることがなかなかできなかった。攻めあぐねる奈良クラブ。そんな中で後半9分にも追加点を許し、かなり厳しい状況に追い込まれる。
しかし、今年はGK岡田慎司にとって不運な失点が多い。止められるシュートは全部止めている。もしフットボールに自責点というような概念がるのなら、彼の責任においての失点は今のところ0だ。
前進への兆し
ここから反撃に出る奈良クラブなのだが、最後まで試合の流れを掴み切ることができなかった。両方の田村に一度ずつ決定機はあったが決め切ることができず、悔しい敗戦となった。特に田村△(亮介さんの方)は、悔しかっただろう。開幕戦はベンチ外選手の横で見ていたが、田村△の表情はずっと厳しいものだった。「なんで俺を出さないんだ」「なんで出れないんだ」というメラメラした闘志を横で感じていた。そのなかで掴み取った出場機会と決定機、絶対に決めたかったはずである。彼は逆境でこそ力を発揮するタイプなので、次ぐらいは大仕事をやってのけるかもしれない。
また、途中出場した戸水のプレーぶりは素晴らしかった。彼は丁寧にボールを扱う分、ルックアップする時間が必要だ。なのでシャドーの位置ではなく、ボランチ起用の方が良いように思う。パスの正確性はJ3でもトップレベルと言っても良いかもしれない。「奈良クラブのペドリ」として、チームに欠かせない選手となることを期待している。
中山選手は右のセンターバックではなく、例えば都並選手がいているポジションなどはどうだろう。もし可変システムとしてセンターバックになるとしても左側になるので利き足の問題はなくなる。さらにここからインスイングでフィードを蹴れば、吉村選手や川谷選手の前のスペースを狙うことができる。特にこの試合はダイナミックな展開が鳴りを顰めた印象だが、前目に出てくる相手の裏を狙うことも必要だろう。左利きの正確なフィードがかられる選手がいることはかなり強みになる。そういう起用も面白いと思うのだが、いかがだろうか。
【試合結果のご報告と次への決意】
— ICHIZO (@NAKATA_ICHIZO) February 23, 2025
讃岐とのアウェー戦は0対2で敗れました
敗因は明らかで
自分たちの最大の強みである
『縦に速いサッカー』よりも
『相手への対策』に意識が向きすぎてしまったことです
その結果
選手たちが本来持つ
『迷いのない攻撃』が影を潜め
躊躇を生んでしまいました…
所謂「しょっぱい敗戦」だったが、こういう試合はシーズン中には絶対に出くわすものである。大事なことは、ここからどうリアクションを見せるかだ。
中田監督もいう通り、「迷いなく貫き通す」ことが今シーズンの奈良クラブだ。福島戦で見せた、なりふり構わず、泥臭くても相手に喰らいつく姿勢。皆が「今期は違うぞ」「なんか楽しいぞ」と思ったのは、そういう選手たちの直向きな様子だったのではないだろうか。おそらく、またこういう試合はあるだろう。それでも、こうした経験を積み重ねながらでしかチームは強くならないので、受け入れるべき部分は受け入れた上で、反発してほしい。そう、「新たなる挑戦」はまだ始まったばかりだ。
できれば、あまり「自分たちらしい〜」には縛られすぎないでほしい。特に今期は、感情優先・闘争心優先の部分が大きい。相手に全力で向かっていくなかで、事後的に「ああ、奈良クラブらしいフットボールだったなあ」と思えるもので「〜らしさ」は後から付いてくるように思う。フリアン監督のころがコンセプト優先のチーム作りだったので、違和感があるのは承知の上だ。良い意味で選手の皆さんは自分の一番得意なプレーをどんどんしてもらったら良いと思う。才能・感情が爆発するようなプレーが見たいのは、きっと僕だけではない。
ちなみに、この辺りのチームの成長過程は西部謙司氏の著作『Football Odyssey』(2006年、双葉社)の西ドイツの描写を念頭に置きながら書いている。ぜひ一読されてほしい。74年ワールドカップをめぐる若者達の群像劇。現代フットボールの原点を知る上でも、名著作だと思う。
次節は優勝候補の松本山雅が相手。相手に合わせたら確実に負ける。この著作には僕にとっても大好きな一節があり、それを引用してこの試合のレビューを終えよう。ちなみに、これは74年W杯の決勝でこの物語の主人公であるベルティ・フォクツが恩師バイスバイラーとのやりとりを思い出すシーンである。
<いや、間違っちゃいねえよ>
あ、そう言われたんだっけ。ボルシアの入団テストのとき、バイスバイラーに「何をしていた」と聞かれ、フォクツは「フットボールをしていた」と答えた。間違ってますか、と聞いたときの親父の答えは、
「確か、こうだったな。」
親父さん、間違ってなかったみたいだよ。俺のフットボールは。いま、ワールドカップの決勝でそれをやっているよ。俺は俺のやりかたで、サッカーを丸ごとやりきるよ。
(おまけ1)喫茶バルドーさんに行ってきたよ ep.2
この日は午前中に奈良クラブ、早朝サッカー教室に参加していたので遠征はなし。家で見るのもなんなので、喫茶バルドーさんのPVに参加しました。前回は長女と僕の2人ですが、今回は次女も参戦。次女はまだフットボールにそこまで興味はありませんが「奈良クラブが得点した分だけ、推しのVチューバーのプロマイドを買ってあげよう。アイスクリームも美味しいよ。」という甘い誘惑に乗せられて参戦です。僕は古墳ドライカレー、娘たちはナポリタンをいただきました。とても美味しかったです。
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バルドーさんでは、20年来の再会もあり、なんとも贅沢で楽しい時間を過ごすことができました。負けた悔しさも、みんなでみれば「割り勘」にできるので、気持ちの切り替えがしやすいですね。PVをされている飲食店も増えてきた印象です。次のアウェー戦もどこかで見ようと思います。
(おまけ2)第一回矢部次郎杯があったよ
この日に行われた早朝サッカースクールでは、トップチームの遠征不参加組の練習が隣で行われており、そこに現れた現アドバイザーの矢部次郎さんから「昔に着ていたウェアだよ。なんかの景品にしてよ〜。」とまさかの展開。いうことで、第一回矢部次郎杯が行われました。
まだ日の出からあまり時間も経っておらず、ナラディーアの人工芝は霜が降りています。凍てつく寒さを吹き飛ばすように、熱戦が繰り広げられました。しかし僕は大した活躍もできず、景品には手が届きませんでした。く、悔しい。次回があれば(あるのか?)、ぜひともゲットしてやると、心に誓いました。
それにしても、サッカースクールは非常に雰囲気が良く、お互い関係性もできてきたことで朝からワイワイと賑やかにプレーしています。これは楽しいですね!朝から奈良クラブ漬けな1日をすごしました。