見出し画像

奈良クラブを100倍楽しむ方法#40 2025シーズンの目標”Here To Stay -New Order-”

はじまるまえの、しずかなとき

今シーズンもよろしくお願いします。
このnoteは、奈良県にあるJリーグチーム奈良クラブの試合の観戦記です。一応、メインとしては戦術を切り口に、奈良クラブや対戦相手の意図、このカテゴリーの選手たちの戦いぶりやスタジアムの雰囲気などを記しています。試合を見ていない人に「一度見てみたいな」「スタジアムに行ってみたいな」という気持ちになってもらえたり、試合を見た人が「そうそう、これを言いたかったんだよ」というような気持ちになってもらえたりすれば光栄です。
どうして僕が奈良クラブを応援するのかについては、#0をご覧ください。昨シーズンの半ばから特にそうですが、奈良クラブだけでなくJ3というカテゴリーならではの魅力というのが確かにあり、意外とこれが言語化されていないのではないか、という発見もありました。J3というアマチュアとプロの境界線で、その向こう側へと全力で手を伸ばす人間の姿が見られる日本のフットボールのなかで唯一のカテゴリーでもあります。
なので、僕は「奈良クラブ」を主体とし文章を記述していきますが、それはあなたの推しクラブと機能的に等価であることと矛盾しません。僕の文章を読んで、あなたの推しクラブをもっと好きになってもらえたら、この文章を書き続けることの意義というのも見出すことができます。そして、もしそれが「奈良クラブ」だったとしたら、これほど嬉しいことはありません。


「新たなる挑戦」

2025シーズン、奈良クラブのスローガンは「新たなる挑戦」と発表された。個人的には、集団のサイズが大きくなればなるほど、「スローガン」の意味は空虚になってしまうという感覚があるので、あまり全体での目標というのは好きではない。それでも、今年の「新たなる挑戦」というスローガンは非常にしっくりとくる、まさに「それだ」と思わせるワードと感じた。
そう、僕たちは挑戦者である。一昨年前のシーズンがあまりにも上手くいきすぎたため、昨年のシーズン開幕当初は「今年は昇格だ」と鼻息荒く息巻いていた。結果的にそれはシーズン途中での監督の交代、降格争いからのからくも残留という結果となったのだが。J3リーグの厳しさをこれでもかと感じさせるシーズンであった。もしかすると、僕たちはJ3リーグに対して楽観的になりすぎていたのかもしれない。あくまで奈良クラブは挑戦していく立場であるとクラブの側から発せられることで、臥薪嘗胆がほぼ義務付けられたシーズンであることが明確になった。これは悪いことではない。
翻ってみれば、それは地に足をつけて戦うということでもある。昨シーズンのnoteのなかで、見田宗介の「根をもつこと、翼をもつこと」という言葉を引用したが、まずは根をもつことで、大空へ羽ばたく力にしようということだ。前監督のフリアンが指揮する時は、翼を全力で羽ばたかせるようなロマンティックな佇まいに奈良クラブの魅力を感じていた。監督が代わり中田一三氏になってからは、「根をもつこと」を優先しているように見える。それはそれで課題もあるのだが(どんな課題かはシーズンが進んでいく中で言及しようと思う)、「まずは地に足をつけよ」というところからのスタートである。

監督交代の直後はかなり守備的な戦術であった奈良クラブだが、最終3試合は3バックと4バックの可変システムを採用し、大空へと羽ばたこうとする片鱗を見せていた。年末年始に海外フットボールをたくさん見ることができたので、どこかに似たような戦術を取るチームはないものかと探していたら、おそらくイタリアの名門インテル・ミラノ(以後インテル)が一番近いことをしているのではないかと気がついた。インテルといえば長友選手が在籍していたことで、日本でも馴染みのあるチームではないかと思う。青と黒のストライプのユニホームは一度は目にしたことがあるのではないか。今期の奈良クラブを語る前に、インテルのシステムについて少し紐解いていこう。

インテルという戦術面でのお手本

戦術の話が苦手な人が「よくわかんないや」と思ってしまう理由に、横文字の選手名が連続して登場するので「誰がどこにいるのかわからない」という迷子状態になることがあると思う。インテルの選手も海外フットボールをよく見ている人が聞けば「あの人ね」という感じで読めるのだが、いきなりではびっくりしてしまうはずだ。なので、今回は2人の選手だけに注目して読み進めていただきたい。1人目はチャルハノール、もう1人はラウタロ・マルティネスだ。昨シーズンの試合のものになるが、こちらの動画をとりあえず流し見してほしい。後半にフォーメーション図が出てくるが、この時の立ち位置をできるだけ奈良クラブの選手に置き換えてみよう。おそらくチャルハノールの動き方が昨シーズン終盤の中島選手の動きに非常に似ているはずだ。

①チャルハノールの立ち位置
インテルの基本フォーメーションは5−3−2や3−5−2と表現される。5人で守りを固めるのはボールを持っていないときである。ボールを持っているときはサイドの選手はかなり高い位置をとる。その代わり、中央のチャルハノールが最終ラインまで下がり、ここから攻撃を組み立てる。
この攻撃の何が嫌なのかというと、チャルハノールという選手は長い距離を蹴るパスの精度が非常に高いので、守るゴールから遠くに行ったからとほったらかしにしておくと、彼から精度の高いボールがどんどん送り込まれてしまうことだ。また、だからと言って彼を自由にさせまいとボールを奪いにいくために前に出ると、今度はその空いたスペースを使われる。この試合の対戦相手であるアトレティコ・マドリーは、バックラインまで下がるチャルハノールにもマークをつけ、ほぼマンマーク気味に相手を捕まえることで危険なスペースが生まれることを阻止しようとしていた。結果的にアトレティコは試合には破れてしまうのだが、それでも互角に渡り合っていたのはすごいことだ。これは守備組織が欧州ナンバーワンのアトレティコだからできることであって、普通のチームでは必ず綻びが出る。
加えてインテルはチャルハノールが下がってくる代わりに、センターバックがどんどん前のスペースに入り込んでいく動きをする。全体が最初のポジションを捨てて入れ替わっていくので、それに対応しようと人を捕まえにいこうとすると必ずフリーの選手が出てしまうという地獄のような設計がされているのがお分かりいただけるだろうか。
インテルは現代的3バックの一種の到達点であると形容される。3バックというと両サイドも含めた5人で守ることで、守備的と評されることも多い。インテルに限っては守備的にも攻撃的にも運用できる柔軟さを持ち合わせている。また、相手の出方とボールの有無によって3バックを構成する選手を能動的に入れ替えながらゴールへと前進する。なお、この戦術を落とし込んだ監督はシモーネ・インザーギ。名前を聞いてわかる通り、僕が一番好きなフォワードであるフィリッポ・インザーギの弟である。

②フリーマンのラウタロ
インテルの選手は戦術が徹底されているとはいえ、ぱっと見るとかなり自由に動いているように感じられるが、何試合も見ていると「この形はどこかで見たなあ」という定型的なセットが見えてくる。攻撃でも守備でも「こういうときはこうする」という約束事があり、注意深く観察していると規則性があることが見えてくる。しかし、そのバリエーションが豊富なので予想することができない。加えてこの中で唯一、その約束事の外側にいるのがアルゼンチン代表にも選ばれるラウタロ・マルティネスだ。
現代の選手らしく守備のときはしっかりと周囲と連携しながらサボらずに仕事をしているが、攻撃の時は前線をフラフラと動き回り、彼の動きだけ規則性がない。彼の役割は「点を取ること」で、全体での約束事のなかで瞬間的に生まれるスペースを見つけ、そこに入り込み得点を量産する。
奈良クラブでいうと、この役割をするのは岡田優希選手だ。昨シーズン終盤に、酒井選手とパトリック選手など、2トップ気味の配置もあった奈良クラブだが、役割としては岡田優希選手が一番これに適している。相模原戦で見せた2ゴールなど、全体の連動の中から生まれるスペースにするすると入りこみ、素晴らしいシュートを叩き込んだ姿はまだ忘れられない。フリアンの頃にも書いたが、彼が一番生きるのは相手ゴール前であり、自陣の深い位置で守備をさせる選手ではない。

③パワフルな両サイド
選手としてはこの2名を注目したが、この戦術を機能させるための見逃せない要素が非常にパワフルなウィングバックの選手だ。かなり運動量を要求されると思うが、ボールを持った瞬間、自陣のバックラインから最前線まで一気に出ていこうとする。この時の勢いで相手を自陣に押し込み、強制的に彼らに対応させることで中央のチャルハノールをフリーにし、攻撃に自由を与えるよう全体で連動している。実際に見てもらうとわかると思うが、インテルの両サイドが上がってく迫力はものすごい。中央が間に合ってなくても、彼らが最終ラインまで位置を上げようとすることで、相手は必ずその対応をしなければならない(フリーにすると必ずチャルハノールから正確なフィードが飛んでくるので、もっと厄介なことになる!)。また、両サイドがいっぱいに張ることで相手のバックラインを横方向に広げ、そこに中盤の選手が入り込むスペースを作り出している。
奈良クラブで言えば、昨シーズン後半から怪我から復帰し目覚ましい活躍を見せた吉村選手の動きがこれにあたる。守備のときの強度、前進するときのスピード感、クロスの精度、かなり高いレベルのプレーを要求されるのだが、彼はこれを完璧に遂行していた。

他にも、バレッラやムヒタリアンの献身的なポジショニングや、テュラムとラウタロの連動性、キーパーからのパスコースの確保と、見どころの大変多いインテルなのだが、これらはシーズンを進めていく中で重なる部分が出てくるはずなので、その時に述べていこう。
この戦術を取る前の奈良クラブは、常に前線に選手の数が足りない状態での攻撃が続いていた。逆に言うと、フリアンのときは守備の枚数が足りていなかった。こうした構造的な課題はどのカテゴリーのどのチームであっても、フットボールが11人でプレーするスポーツである以上必ず解決しなければならない課題なのだ。解決策はいくつかある。相手よりも少ない人数でも強力な選手を備えることで、自分たちよりも多い数で守らせる(大宮)。相手がじれて出てくるまで徹底的に耐える(FC大阪)。布陣の噛み合わせで狭いスペースので数的優位を作り出し、そこから打開する(北九州や福島)。ちなみに、J3というカテゴリーはこうしたチームごとの色合いにかなり違いがありこのコントラストも魅力のひとつである。

見えてくる2025奈良クラブの姿

ここからは奈良クラブに話を戻そう。まずは、昨シーズンからの継続性という観点からみるフォーメーションを予想してみよう。もっとも、今シーズンがどのような戦術を奈良クラブが取るのかはまったく不明なので、完全な空振りに終わることもある。また、怪我やコンディション面でのこともあり、純粋なベストメンバーとその時のベストメンバーは一致しない。加えて、新加入選手のプレースタイルや特徴もまだ把握しきっていないので、とりあえず昨シーズンも在籍した選手での構成としている。

シーズン開幕前での予想フォーメーション

インテルの戦術を解説しているなかで奈良クラブの選手名もたくさん出したので、ある程度は予想できたメンバー構成だと思う。大事なことはフォーメーション(最初の立ち位置)ではなく、どのような役割を与えられているかだ。
基本的に、奈良クラブは「岡田優希が点を取る」ということが仮想目標になる設計だ。フリアンのときはチャンスメイカーだった岡田優希は、中田監督になってからはポイントゲッターの役割が与えられている。もっとも、彼は試合全体の流れを見て最終節の盛岡戦のようにゲームメイクもできる。精神的にも戦術的にも彼が奈良クラブの中心だといえる。彼とゴールキーパーの岡田慎司をつなぐラインを背骨として、ここにどんな肉付けをしていくかというのが構成だ。
インテルのキーマンはチャルハノールであったが、今期の奈良クラブのキーマンは森田凛選手だ。彼のダイナミックな中長距離のパスはこの戦術では欠かせない武器になる。彼が中盤からバックラインまで下がり、そこから両サイドやポケットにパスを差し込む。これが決まると相手はかなり対応に苦慮するはずだ。こういう「わかっていても止められない攻撃」のバリエーションをどれだけ備えておくかが重要になる。
森田が下がってくる代わりに、ビルドアップを円滑にする上で堀内を左のセンターバックに置く。ただしこれは偽のセンターバックで、保持のときに森田が下がった分、堀内が前に出る。堀内は森田よりもパスのレンジが短いが、「ここ」という狭いスペースにもパスを差し込むことができる。また、立ち位置で相手を釣り出し、パスコースを作る動きをすることもできる(ピン留めする、といいます)。ここで相手のマークのズレを作り出してできたスペースに岡田優希が飛び込んでゴールを決めるのが、このチームの初期設定ので再現すべき得点スタイルだ。

この布陣の昨年との一番の違いは左ウィングバックの嫁阪だ。下川、西田と昨シーズンこのポジションを務めた選手がいなくなったことで、正直なところここだけが未知数である。本来であれば嫁阪は一列前、そして中でプレーすべき選手である。しかし、ここであえて彼をここに起用するのは、フィジカルの強さ、左足のクロスの精度、ドリブル突破という彼の魅力をここで発揮できれば、さらに活躍の場が広がると感じているからだ。また、この両サイドは逆サイドからのクロスには中に入ってきて合わせる役割もあり、彼の高さを生かすこともできるはずである。さらにフリーキックのときも、右足の神垣と左足の嫁阪という2枚をキッカーに当てることができる。タイキャンプのインタビューを見ていると、どうもポジションのコンバート(変更)がありそうな雰囲気の話もしていた。彼がブライトンの三苫のようにドリブルで仕掛けていくことができるなら、昨年以上の攻撃力を発揮できるはずだ。
昨シーズンの前半は岡田優希、下川の左サイドが奈良クラブの攻撃の中心だった。彼らができるだけフリーでボールが持てるように右サイドでボールをキープし、選手を押し出す時間を作り、全体を右サイドに寄せておくことで左サイドをフリーにしようとしていた。監督の交代とシステム変更、そして吉村の戦列への復帰で奈良クラブの攻撃の中心は右サイドへと移る。この傾向は今シーズンも継続されるはずだ。ただ吉村は独力でドリブル突破をしてクロスを上げるという典型的なウィングタイプの選手ではない。周囲と連動しながら前進し、正確なクロスを蹴ることが得意な選手だ。吉村が良い位置までポジションを取る時間とスペースをどう確保していくのかが攻撃の第一目標になる。いわゆる右肩上がり(右サイドから攻めることが多いチームという意味)の立ち位置になるのは予想するに難しくない。
その吉村を右サイドの高い位置に押し出す役割を担うのは後ろの鈴木、そして神垣だ。特に神垣の存在感は昨シーズンを見ている人なら知っていると思うが、彼は奈良クラブにおいて無くてはならない選手になっている。全体のバランスを見つつ、機を見てゴール前に飛び込んでいく。彼の運動量、危機察知能力、献身性。ボールに絡むことは少ないが、中盤においては最も替えが効かない選手といえるかもしれない。それほどに彼の役割は大きい。
替えが効かないというとセンターフォワードの酒井選手もそうだ。彼がいるときといないときでは、ボールの進み方がまるで違った。彼が先発復帰した相模原戦や盛岡戦ではボールはどんどん前進していったが、出場しなかった金沢戦は松本やパトリックのパワフルなアタックは見られたものの、酒井が出ているときのようなスムーズなボール運びにはならなかった。昨シーズンの前半、彼がいないことで攻撃が停滞したのがよくわかる出来事だった。
前線は田村亮介選手としたが、このポジションは激戦区だ。前線への枚数がほしければ百田を起用するのも良いだろう。中盤を厚くしたければ山本や國武も控えている。他の選手との兼ね合いもあるが、ここに誰を起用するかでその試合をどのように進めていこうとしているのかがわかるはずなので、注目してほしい。ここの選手の得意なプレーを思い浮かべて、そのプレーをどのように試合の中で引き出そうとしているのかが奈良クラブのゲームモデル(監督の意図)になる。

最終ラインを構成する生駒と鈴木は奈良クラブの「顔」でもある。生駒、鈴木と名前が並ぶだけで感じる安心感といったらない。これは某在阪の野球チームにおける「センター近本」と同義だ。生駒の最後まで諦めないプレーぶりは昨シーズン何度も目の前で目撃した。あの大宮戦でのクリアは、奈良クラブの歴史に残るプレーだった。鈴木はオフシーズンにチームの代表として様々なイベントに登壇し、奈良クラブのアピールを続けていた。そういう選手が試合の中で鼓舞する言葉には力が宿る。また、昨シーズンから守備範囲が非常に広くなっているのが印象に残っている。変則的な布陣を採用するとき、変則を円滑にするためにできるだけチーム全体をコンパクトにする必要があるのだが、そうすると特に守備において守るべきスペースが広くなる。鈴木と生駒の走力や高さがこの戦術を可能にしているという面もある。決してスーパーな選手が1人いれば良いということではない。

昨シーズンの反省として、終了時間間際の失点が連続していたことがある。今年はタイにてキャンプを行なっているが、昨シーズンはこれができなかったことがフィジカルの部分で上げきれていなかったと言われている。一理あると思うが、それだけではない。戦術面での高い位置からボールを奪いに行く戦術(ハイプレスといいます)と、ボールを保持しながら相手を自陣まで引き出しての擬似カウンター攻撃が奈良クラブの主戦術だったわけだが、これを90分間続けるのは、オフシーズンの過ごし方がどれだけ良くても体力的には辛いはずだ。中田監督に変わってからミドルプレスに切り替え、相手ボールになったときは自陣まで一旦下がるようになった。今シーズンもとりあえずはこれで良いと考えている。5−3−2で構えるのか、5−4−1で構えるのかは相手との噛み合わせもあるので、これは柔軟に対応すれば良い。できれば5−3−2で構えることで、前線の枚数を残しておきたいところだが、特に左サイドは守備に関しては右サイドよりも手薄なので、本職の選手をどれだけ配置できるのかが問題になる。5−3−2ではサイドをウィングバック1人で対応せざるを得ない場面も出てくるので、本職でない選手がここを担当する場合は5−4ー1で岡田優希がサポートすることも必要かもしれない。
中田体制になってから守備そのものは改善し、それを維持しながらいかに前進するかのアイデアが試されていたわけで、守備そのものは健闘していたように思う。

こちらは趣味的なフォーメーション

蛇足ではあるが、もしポゼッションすることにより寄せたうえで現代的な要素を取り入れた布陣も考えてみた。こういうことはやり始めるとキリがなく、いくらでも思いつく。こちらは吉村の縦方向のスライドが変形パターンとなる3バックだ。5−2−3、あるいは3−2−5と表現される。中盤の4人をボックス型(真ん中が正方形になっていることです)に立たせ、相手のプレッシングを掻い潜るパス回しができるのならこれでも面白い。バックラインは相手の出方に合わせて3バックも4バックも可能。岡田優希と嫁阪の位置を入れ替えて4−2−3−1にもできる。奈良クラブの豊富な中盤の選手を最大限生かし切るなら、こういう並びもありだと思う。特に今の戦術のベースを引き継いだ上で山本の良さを出そうとするなら、ボックス型ではないだろうか。彼の周りにたくさんパスコースができれば、ボールの循環はもっと良くなるように思う。

最後に、今シーズン最大の補強と考えているのがベンチに座るはずの小谷だ。現役を引退し指導者として道を歩き始めた小谷だが、昨シーズンまで選手だったこと、だからこそ選手との精神的な距離が近いことが大きな武器になる。残留争いをするなかで、ともすればバラバラになりかねない状況だったと想像するチームをまとめていたのは、小谷や岡田慎司、そして都並といった奈良クラブの中では年齢が上位にあたる選手たちだった。彼らは出番がないときでもベンチから、あるいはスタンドから声を出し、「チームとして戦う」という姿勢を見せていた。今シーズンは小谷が常にベンチにいてくれる。この事実だけでどれほどの勇気が湧いてこようか。彼がチームに残ってくれたことは感謝以外の言葉が見つからない。フォーメーション図や先発には絶対に名前が載ることのない小谷だが、彼の存在は大きな力になる。戦術面を担当するはずのダリオコーチともども、チーム全体で戦うのだという雰囲気作りの中心として、彼の存在意義も忘れてはならないと考えている。

※これを書いているなかで今期の背番号が発表された。小谷がつけていた背番号「23」は今期岡田優希が着用する。彼の今期に対する意気込み、チームへの責任感と勝手に想像している。

祭りの準備

オフシーズンという「祭りの準備」期間もそろそろ終わり。来月中旬にはいよいよ開幕だ。今期はリーグ全体で選手の入れ替えがとても多いシーズンだった。今期は選手名鑑を用意して、しっかりと準備していかないといけない。どのチームも強敵であることに変わりはないのだが、奈良クラブも良い準備ができているように思う。タイキャンプの様子が奈良クラブのYouTubeチャンネルで毎日配信されているが、選手ぞれぞれの顔つき、チーム全体の雰囲気は、見ている限りでは昨シーズンとはまるで違うように感じる。昨シーズンがダメだったとは思わないのだが、中田一三監督流の「地に足の付けた構え」が選手にも浸透しているような雰囲気だ。

シーズンが始まれば毎週が祭りだ。特にホームゲームの日は勝っても負けても、試合があることそのものが祝祭となる。水曜日あたりから、どこか落ち着きなくソワソワしはじめ、相手チームの前節のハイライトを見直し、当日のタイムスケジュールを確認。前日は小学生の遠足の前夜のように眠れない。やっと寝れたと思っても、早朝には目が覚める。いてもたってもいられず観戦の準備を済ませ、いそいそとスタジアムに向かう。スタジアムに到着すれば、あとはその雰囲気のなかで過ごすだけだ。顔馴染みのサポーターと挨拶をし、選手の乗るバスを待ち、練習を確認。試合が始まると大人が子ども以上に喜怒哀楽を爆発させて声を出す。勝てば1週間幸せだし、負ければ次節へ思いを馳せる。そうやって一年が過ぎていく。きっと、開幕してから最終節まではジェットコースターのように毎週が過ぎていくだろう。
そんななかでも、今年はあくまで挑戦者であることを忘れないようにしようと思う。昨シーズンもなんども思い返したこと、「勝利のためには、勝敗以上のなにかが必要」だ。「なにか」ってなんだ?そんなもの、誰にもわからない。しかし、昨シーズンのこの時期を振り返り、自分なりのよくないところをを考えてみると、勝手に勝ち点計算をしていたことだ。「あそこには勝てそうだ」「ここには引き分けで良い」と先々を考え、いざシーズンが開幕しうまくいかない試合が続くと身勝手に苛立ちを感じていた。それは自分が応援するチームにも、相手チームにも失礼な態度であったように思う。もちろん、目標は先にある。それはそうとして、あえて先のことを考えず、目の前の試合に集中することを、もっと言えば目の前のワンプレーを集中して観戦することを今シーズンの目標としたい。ディエゴ・シメオネのいう「A partido, a partido(一試合、一試合という意味)」の気持ちで、毎試合を楽しもうと思う。

端的にフットボールの戦術について語るのであれば、それこそヨーロッパのリーグを題材にする方が面白いだろう。Jリーグの3部、小さな小さな地方チームの戦いぶりで戦術を語ることにどれほどの意味があるのかはわからない。とはいえ、無意味だとも思わない。このJリーグの隅っこで、懸命にプレーする選手だったりチームが確かにいて、彼らがいかにプレーしたのかを相手チームを含めて記録することで、誰かの記憶を紡ぐことになるのなら、記録をすることにいくらかの意味はあると信じている。例えば、奈良クラブのサポーターの特徴に、子どもが多いことがある。彼らが成長した後に「そう言えば奈良クラブの試合を見に行ってたなあ。」と振り返った時、「こんな選手いたなあ」「このゴール覚えているわ」と思い出すきっかけになるとするなら、記録を残していくことに意義もあるだろう。それが地方クラブの存在価値だと思うし、たまたまこの時期に応援できた人の役割なのかな、などと考えている。『葬送のフリーレン』に登場するハイターのセリフを借りて言えば、「必死で生きてきた人の行き着く先が無であって良いはずがない」のだ。結果的にそれは忘れ去られ、限りなく無に近いものになるのだとしても、記録と記憶がどこかにアーカイブされていることは、とても大事なことのはずだ。

2025シーズンの最終的は結末は誰も知らない。さりとて、どのような結果であれ、「良いシーズンだった」と祝福できること、それを多くの人と分かち合えることを想像しつつ、シーズンの開幕を待とう。2025シーズンが、「終わった後にくだらなかったと笑い飛ばせるような楽しい旅(ヒンメル)」になるよう、みんなで旅路を楽しみましょう。

いいなと思ったら応援しよう!