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奈良クラブを100倍楽しむ方法#035 第35節対 福島ユナイテッドFC ”Rain"

If the rain comes they run and hide their heads
They might as well be dead
If the rain comes, if the rain comes
When the sun shines they slip into the shade
And sip their lemonade
When the sun shines, when the sun shines
Rain
I don't mind
Shines
The weather's  fine

「Rain」the Beatles

正午過ぎに降り出した雨は、試合開始前の午後2時には本降りとなりロートフィールドを多い尽くした。かなりの集中豪雨だ。みるみるピッチは水浸しになり、「本当にこのなかで試合するの?」という声があちこちで聞こえ始める。ほどなく試合開始を20分遅らせるというアナウンスが流れる。屋根のある席にいた僕たちだが、風が巻いているので雨がじゃんじゃん振り込んでくる。「これはまずい」ということで、皆に倣ってコンコースでの雨宿り。そこには雨を避けた人が集まり、真っ暗な西の空を不安そうに見つめる。おそらく階段の下あたりだろうか。ゴール裏の応援団の方々が声出しをして士気を高めている。その声に背中をされるように、一緒にチャントを歌う人もちらほら見られる。

「滝行」と評された幟。写真以上に雨には圧力を感じる降り方だった。

この日の観客は700人と少し、3月の八戸戦とほとんど変わらないくらいの観客しか集まらなかったとも言えるし、大雨の予報でもこれだけの熱いファンが詰めかけたとも言える。そんな人たちがほんのひととき、同じ空間を共にした。多分だけど、この時間になんとなく生じた「なんだかんだ言って、みんな奈良クラブが好きなんだよね」という雰囲気が、この日の奈良クラブの選手たちを後押しした。極めて劣悪なコンディションでも、最後まで選手もサポーターも戦い抜いたのは、この時間の共有があったかではないだろうか。

試合開始が(約)20分遅れた中でも、サポーターの方たちがチャントを歌ってくださっているのはロッカーにも聞こえていました。こんな中でも声を出し、後押ししてくれているファン・サポーターの皆さんには、本当に感謝しかありません。結果で応えたい。残り3試合、喜んでもらえるように頑張ります。

神垣選手の試合後のコメントより抜粋

これだ。奈良クラブというチームは規模がとても小さい。でも、自分たちの声が選手やチームに直接届いているという感覚がある。今日のような逆境としか言いようのないコンディションにおいても、「みんなで乗り越えて行こうぜ」という前向きな気持ちで試合に臨めたことが、この日の一番のハイライトであったように思う。コンコースには福島ユナイテッドのサポーターもいらしたが、その方々もなんとなく笑顔で過ごされていた。「えらい日に試合に来たなあ」という意味では運命共同体だ。呉越同舟ではあったが、あの時間を共有できたことで「奈良に来て良かった」と思ってもらえたらうれしいなあと思う。


スタメンの意図

この中でも笑顔のイレブン。精神力が高まっている。

コンコースで雨宿りをしていると、不意に入場のアンセムが聞こえる。急いでスタンドへ。まだ雨は弱まる気配がない。水浸しのピッチに選手たちが入場してくる。まじか。こんな中でも試合をするのか。などと思っていると、集合写真を撮り終えた選手たちがピッチの感触を確かめ始める。下川選手や田村選手はわざわざこちらにもわかるように、水たまりの上にボールを投げつける。えいや!っと思い切り投げつけられたボールは。びしゃっと水飛沫を上げて静止。「ほらね、今日は全然バウンドしませんよ。ボールは止まりますよ」ということをアピールするかのようにアップを済ませる。「なんとなくそうなると思ったよ」というスタンドの反応が面白い。その様子は「こんな中で試合をするなんて嫌だなあ」というよりも、「こんな中でも応援してくれるから、俺たちも全力で頑張るよ」というような意思表示に見えた。

ここで改めてスタメンを確認しよう。前節からの変更点は2点。右のセンターバックは出場停止の生駒に変わって伊勢が担当。2シャドーには田村が入った。松本の脇に岡田優希、田村というテクニックのある選手を並べたというのは、おそらくポゼッションを高めてくる福島に対してカウンターの時のボール保持、あるいはテクニックを活かした個人技による局面の打開を期待したものであったと思う。司会開始前の意図はこのピッチコンディションで発揮するのは困難であったことは明白だ。
いわゆる「重馬場」のピッチコンディションでは、テクニックよりも馬力が優先される。雨を含んだボールは重い。想像している10倍くらい重い。僕たちが少年サッカーをしていた頃よりも改善されているとは思うが、それでも重い。ボールだけではない。スパイク、ユニフォーム、空気の湿度、全てが重い。それを跳ね除けても前に進むために必要なのは、技術ではなくて端的なフィジカルだ。例えばこの日であれば、嫁阪や百田あたりを前線に並べる方が適していたはずだ。スタメン発表のときとは全く違うコンディションで試合開始のホイッスルは鳴らされた。
とはいえ、この日ここに田村がいたことは正解だった。ともすると重苦しい雰囲気になるコンディションにおいて、彼の前向きさは「逆境を楽しもう!」というポジティブな姿勢をスタジアム全体に示すことができた。試合内容において彼の良さが発揮できたかと言えば難しいが、彼がいることでチームが試合に入っていくことができたのは間違いない。

前半:前へ、とにかく前へ!

福島のキックオフで試合開始。大きく蹴り出されるボール。このコンディションだとボールは遠くへ飛ばないし、飛ばせない。もし大きく蹴り出しても、場所によってはワンバウンド目で止まる。かと思うと、場所によってはワンバウンド目はスリップして伸びることもある。それでも、次のバウンドでは止まる。ゴロでのパス回しは事実上不可能。まとめると、「いつもの感じ」でボールを蹴ると、大きなエラーとなって返ってくることになるし、大きな展開が不可能なので一度押し込まれるとなかなか相手のゴール前まで行けないということになる。奈良クラブは前半の入りはほぼ自陣に押し込まれた状態で試合は推移する。クリアしようにもボールが飛ばないのでペナルティエリアに押し込まれる奈良クラブ。混戦の中から放たれた福島のシュートはポストに助けられてことなきを得る。大丈夫、ツキはまだある。
劣勢の中で奮闘するのが小谷、鈴木、伊勢のセンターバックだ。小谷は繋げないとわかると、クリアボールはタッチラインに蹴り出すことを徹底する。この日は小さいエラーが致命的な展開になる可能性がある。また、お互い複数得点は現実的ではない。取れて1点だ。まだ大雨の降る中で、「はっきりとしたプレー」をすることで、「どういうプレーが求められているのか」をピッチ全体に示す。気持ちを全面に出した熱いプレーだ。
鈴木は冷静さを保ち、ひとつひとつのプレーを丁寧にこなそうという気持ちがすごく伝わってきた。そして、こんな中でも相手選手への気遣いのできる人間的な大きさも感じさせる。遠目でも試合に集中していることのわかる目つきだ。全く気持ちは負けていない。
そして福島のロングボールでの空中戦は伊勢が完全に掌握する。また、その跳ね返したボールを神垣や中島、吉村といった近い選手がしっかりと受け取り、できるだけ陣地を挽回しようと持ち出そうというプレーに懸命に繋ごうとする。こうしたプレーを直向きに続けることでボールの動くスペースは徐々に奈良クラブのゴール前から福島のゴール前へと移動していく。徐々に押し戻す奈良クラブ。この流れの中で、前半42分に神垣が先制ゴールをあげる。

きっかけはセットプレーだ。ハーフウェイラインくらいから中島の蹴り出したキックは伊勢をターゲットに。これは競り負けるがセカンドボールは奈良クラブが回収する。吉村は狙いすまして人ではなくバックラインの裏のスペースへ蹴り出す。普段ならそのままゴールラインを割るはずのキックはこのピッチの影響でゴールライン際でストップ。それを予想していた松本ケンが猛然と走り込み低い弾道のクロスを蹴る。このコンディションでキャッチができないGKは前に弾き出す。それを予想して待ち構えていた神垣は狙ったというよりも気持ちだけでゴールへ蹴り込む。相手DFとゴールキーパーの間をすり抜けた渾身のシュートが決まり、奈良クラブが先制に成功する。この1点は大きい。
ゴール後、喜びを全員で分かち合う奈良クラブの面々。おそらく狙い通りのキックだったのだろう。吉村がものすごく喜んでいた。下川と田村は水浸しのピッチに寝転んでクロールを決める。間違いない。奈良クラブはこの逆境を楽しんでいる。

先制後、福島はすぐに反撃をみせる。奈良クラブの先制ゴールと似たような状況からセカンドボールを拾われてシュート。GKマルク・ビトの手が届かないところにふわりと飛んだシュートは「やられた」と思ったところに、カバーに入っていた吉村が体を反転させてクリア。どうにか1−0で前半を終える。
おそらくこのシーンの最初のところでの小谷のクリアが不十分であったことについて下川が指摘し、前半終了直後に小谷と下川のと一触即発の言い争いがあった。この言い争いに鬼の形相で割って入る選手がいた。岡田慎司選手だ。彼は控えのゴールキーパーであるが実力はビトと比べても遜色ない。それでも控えというなかで、彼のベンチでの振る舞いはずっと「プロとはどう振る舞うべきなのか」を見せている。彼は試合中、常にピッチや控えメンバーにさまざまに声掛けをし、チームを鼓舞している。交代出場するメンバーの背中を押し、帰ってきた選手を労う。場合によっては審判にも詰め寄り、しっかり試合に参加している。彼の試合に向かう姿勢がなければ、ともすれば空中分解するかもしれなかった事態だが、どうにかそれを収めることができた。
ただ、下川のような気持ちを見せる姿は悪くはないと思う。降格争いというプレッシャーのかかるなかで、萎縮するのではなくキャプテンであっても意見を言うことはチームを強くする。また、小谷のクリアは前節の終了間際の同点打とかなり状況が似通っているように見えた。「同じ失敗を繰り返すな」と下川は言いたかったのではないだろうか。大事なことはこうした感情の表出をどのように力に変換していくかだ。これまでの奈良クラブではあまり見られなかった光景だが、むしろこれは前向きに捉えてこれからに繋げていければと思う。まさに、今日の試合でいけば「雨降って字固まる」というふうになれば、もっとチームは強くなれると思う。

後半:諦めない心

後半開始。ここで雨足は一旦やや弱くなる。アウェー側のピッチの状態が少しだけ良いように見えた。
先にチャンスを作ったのは奈良クラブ。先制点と同じようなセットプレーからだ。キーパーがパンチングで逃げるがクリアが小さい。これを拾った伊勢が大外の田村へ精度抜群のクロスを送る。田村が体をいっぱいに伸ばしての渾身のヘディングシュートはキーパーが間一髪のスーパーセーブ。追加点ならず。試合はここから福島のペースに。

同点打にいたるまでの流れなのだが、奈良クラブとしては変化するコンディションのなかで繋ぐのか、前半と同じようにセーフティでやるのかの基準がやや選手間で統一できていなかったように思う。福島は同点打を取らなくてはいけない立場なのでやることは明確だし、むしろリスクを負ってでも攻めに出なければならない。ただ、多少良くなったとはいえ、あのコンディションのなかでしっかり繋いで同点打をもぎ取るところまで達成したのは、敵ながらあっぱれとしか言いようがない。塩浜のシュートは奈良クラブのディフェンスのちょうど間を抜けたコースで、キーパーにとってはブラインドになるところからのゴールだった。ビトにはノーチャンスだ。

やや意気消沈気味の奈良クラブだが、ここからもう一度反撃の狼煙をあげる。まずは百田を投入。前線の枚数を増やす。そして岡田優希に代えて酒井も投入。酒井の投入がこのタイミングなのは、おそらく膝への負担を考慮してだろう。同じことは吉村にも言える。かなりきつい中だっただろうが、この時間までプレーできたことは素直に喜びたい。完全な3トップ体制に加え、西田も投入して超攻撃的な布陣だ。また、この辺りから雨足がまた強まり始め、奈良クラブとしては「とにかく前へ」という開き直りがしやすい環境になったことも幸いした。

この3トップになったときが最も顕著ではあったが、先発の田村と岡田のときでもこの日は立ち位置に工夫が見られた。松本がロングボールやスローインを受けにくる時に、これまで松本ケンを頂点にして各選手が構えていた。ここを目掛けて蹴るということが多かったのだが、この日は明らかに松本を真ん中において、松本よりも前に選手を配置するシーンが目立った。これで松本が逸らしても落としてもパスコースができる状態を作り出す。この日松本ケンは空中戦をほぼ完勝していたが、相手にとってどこにボールを送るかわからない選手の配置にしていたことも大きい。松本ケンよりも前に選手がいない時にフリックをしても怖さはないが、この日のような立ち位置であれば、何をやっても奈良クラブの選手が必ず配置されている。福島のディフェンスは「自由にさせないぞ」とかなり体を張って頑張っていたが、松本ケンの優位は試合を通して際立っていた。
この配置は先日の試合の最後に少し触れた、エル・クラシコでのFCバルセロナのやり方にかなり似ている。ロングボールというと、出し手と受け手の二者関係が注目されるが、実際はロングボールを蹴る前にさまざまに配置のところで工夫がある。ミスマッチを作ったり、相手が出てこれないようにするポジショニングがあり、そうやって相手をはがいじめにした上でロングボールを差し込むことで、有効性の効果を高めることができるのだ。この日はショートパスが繋げないというなかで、松本ケンからどんなボールを引き出すのかだけが奈良クラブの生命線だった。そして図らずも、豪雨によってその攻撃が最も有効なコンディションになったということだろう。このピッチコンディションは、たしかに岡田や田村の良さは消したが、奈良クラブ全体としてみればタスクがはっきりしたという点では良い方向にも作用したと思う。

そんなロングボール主体の攻撃で前進する奈良クラブに対し、福島もカウンターで応戦。一進一退の攻防が続く。奈良クラブがもっともゴールに迫ったのはアディショナルタイムの入ろうかという90分、スローインから酒井のクロスに松本ケンが合わせた場面だろう。正直、スタンドから見ていて松本ケンがヘディングで合わせた時は完全に入ったと思った。あれは決めなければならないシーンだ。とはいえ、彼の今日の献身的な動きを見ていると「次は絶対に決めてくれ」としか言いようがない。かならずやってくれると信じよう。

また、後半は奈良クラブのファールが多かった印象なのだが、すべて相手のディフェンスに対しての奈良クラブのフォワードのファールだった。状況はほぼ同じで、ロングボールを蹴り出そうとするディフェンスへ猛然と百田や酒井がスプリントをしかけ、身を挺してカットに入ったプレーをジャッジされたものだった。こういうプレーを連続することで、ファールにはなっても相手にはプレッシャーがかかるし、途中から出場した選手の役割としても十分に果たしていると思う。ファールにはなったが、チーム全体で一点をもぎ取りにいこうという姿勢から生まれたプレーだった。こういったところは、これまであまり見られなかったところだし、特に酒井はやはりボールの追い方が上手いなあと感じさせる。今になって思うが、やはり彼の離脱は痛かった。わかっているつもりであったが、彼のチームへの貢献度の高さを改めて思い知ることになった。

その後はお互い決め手を欠き、1−1のドローで終了。死闘というに相応しい一戦であったが、奈良クラブは勝ち点「1」を得るにとどまった。いや、あくまで勝ち点「1」を得たと考えよう。このコンディションのなかで、本当によく戦い抜いた。奈良クラブだけでなく、福島ユナイテッドの選手もこのコンディションのなかでフェアに戦いぬいた。両チームの選手にはリスペクトしかない。

質の高いB面

大雨の中の試合というと、みなさんはどんな試合を思い浮かべるだろう。僕は2001年の日本代表対フランス代表の試合、0−5で日本代表が敗れた試合を真っ先に思い浮かべる。その次は今年のルヴァンカップ、奈良クラブ対サンフレッチェ広島だろう。この試合も0−6で奈良クラブは大敗した。どちらの試合も、片方は抜かるんだピッチでももろともせずボールを扱い、もう片方は全く試合にならなかったというものでもあった。前者の試合は、特に日本代表の選手はボールを止めることすらままならないなかで、フランス代表の選手たちは誰もがピタ、ピタとボールを的確に止め、蹴り出していた。大人と子供の試合をみているような印象だった。
サンフレッチェ広島とのルヴァンカップも似たような印象を受けた。悪いピッチコンディションでも自在にプレーする広島の選手に対し、奈良クラブの選手はよく足を滑らせていた。「何が違うのか」とかなりよく見ていたが、パスの出すタイミングや位置、動き出しのタイミングがどの選手もとても早いなあというふうに見えた。奈良クラブの選手はそれに食らいつこうとするのだが、そこで身体のバランスを崩してしまっているように見えた。おそらく互角にやりあえたのは吉村くらいではないだろうか。彼が交代した後半に大量失点したのは偶然ではないだろう。

この試合の奈良クラブにそうした様子は全く感じなかった。同じカテゴリーとはいえ、ポゼッションをしっかりしてくる福島に対し、奈良クラブは持てるリソースを全て投入して引き分けをもぎ取った。こういう試合で大敗するチームは試合開始当初からなんとなく勝負から逃げているように感じてしまう。この日の奈良クラブは試合開始からフルパワーで相手に向かっていっていたし、先制点を奪い取ることができた。同点打を浴び、なお劣勢からでも相手ゴールにあと一歩のところまで迫ることができた。こうした反発力が見られたことは、スタジアムまで来た甲斐があったというものだ。もしかしたら、映像だけではネタ的な試合に映るかもしれない。奈良クラブ、福島ユナイテッドのファン以外にはそう見えても仕方がないだろう。ただ、この日目の前で繰り広げられたのはまさしく両チームの全力のぶつかり合いだったし、それを楽しむ選手たちの姿だった。この試合においては戦術や分析なんてものは必要ないのかもしれない。ただ、これまでどちらかと言えばクールな印象だった奈良クラブが、情熱を全面に出して戦うことができるようになったことは、大きな一歩だと感じる。
この日は観客が少なかったこともあり、選手たち同士の声かけがよく聞こえた。田村がボールを引き出すときの勢いのある呼び込み、ディフェンス陣の細かなポジションの修正。ベンチからの注意喚起。そういうものがよく聞こえた。一丸となって戦っているのだ、ということがよく伝わったのだ。
また、この日は中田監督が自らコーチングエリアに飛び出して指示を出していた。これまではダリオヘッドコーチが指示を出し、中田監督はベンチで見守るのが常だった。このタイミングでの中田監督の登場というのは、何か感じるところがあったのかもしれない。

自陣で過ごす時間をなかなか脱せなかったタイミングで失点に繋がってしまいました。そこからメンバー交代を含めなんとか勝利を目指し最後にチャンスもつくれたと思います。結果は残念なのですが選手たちには強い頼もしさと、賢さなど良い部分がみれた一戦でした。

中田監督の試合後のコメントより

言うなればこの日の奈良クラブはレコードでいうB面だった。冒頭でも書いたように、本来用意していたプランとは全く違うことを実践する必要があったはずだ。それでも、この逆境を楽しむかのような選手たちには頼もしさを感じる。そして、繰り返すがあの遅延した時間でのサポーターの声があったからこそ、選手たちは前向きにプレーできたのだと思う。アンラッキーな環境ではあったが、だからこそ光るものもあった。この可能性を逃してはいけない。

ビートルズには昔から「ジョン派(ジョン・レノンが作った楽曲こそがビートルズだ)」と「ポール派(ポールこそがビートルズの心臓だ)」の論争というのがあり、どちらが好みかでかなり意見が分かれるものだ。ここでその優越をつけようと言う気は全くないが、ポールの方がキャッチーな曲を書くので、どちらかというとポールの曲がA面を飾ることが多かった。今回あげた「Rain」という曲もめちゃくちゃ名曲なのだけど、ポール作曲の「Paperback Writer」にA面を取られている。ゆえに認知度は低い。逆に言うと、ビートルズの好きな曲にこの曲を挙げてくる人はかなりの通だと言うことでもある。そして、ジョン作曲のこの曲でのポールのベースの動き方があまりにもすごい。ジョンの歌詞の流れにある感情の起伏を完璧に具現化するかのような歌うベースライン。本当に名曲だと思う。
もちろん僕はジョン派なので、「ペニーレイン」よりは「ストロベリーフィールズ」だし、「ヘイ・ジュード」よりも「レヴォリューション」だし、「ハロー・グッバイ」よりも「アイ・アム・ザ・ウォルラス」が好きだ。「レイン」では「雨の日でも晴れの日でも、気の持ちようで世界の見え方は変わる」と歌う。どちらかと言うとネガティブな歌詞を書くことが多い(初期の楽曲は好きな彼女に振られたという歌詞が多い)ビートルズ時代のジョン・レノンがこれを歌うことがグッとくる。どちらかと言うとポールっぽい歌詞なのだけど、ジョンが歌うと奥行きを感じる。「あなたがそう言うのだからそうなのだろう」というような、説得力があるのだ。そして、その説得力を裏付けるのがポールのベースというのは、やはりこのコンビにしかできない芸術性なんだなあと思う。

Q,残り3戦に向けて意気込みを聞かせてください。
ー次のホーム最終戦では残留を決めたいと思っています。その願望・目標を実現するため、またみんなで準備していきます。

中田監督の試合後のコメントより

さあ、泣いても笑ってもあと3戦。ここで全てが決まる。確かに勝てていない。しかし、負けてもいない。これからは勝ち点「1」の重みが指数関数的に増えていく。その分、プレッシャーも同じように増していく。見ている僕たちよりも、きっと選手たちにも重くのしかかってくるはずだ。でも、この日サポーターの声が選手に届いたように、きっと応援が力になるのだと思う。応援しかできないのではない。応援ができるということは、とても幸せなことだ。僕たちには応援ができるんだ。この1年見てきた人なら尚更、これからの試合は目が離せないものになる。

物語はまだ終わらない。結末を見届けるまで、僕たちの旅は続く。先のことなんて考えられない。1試合、1試合、全力でぶつかるだけだ。とはいえ、中田監督がいう「みんな」にはサポーターももちろん入っていると思う。この日の雰囲気はまさに「奈良一体」だった。僕たちもしかり準備して臨みましょう。

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