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奈良クラブを100倍楽しむ方法#041 第1節対 福島ユナイテッドFC Curtis Mayfield - "People Get Ready"

新しき年の始めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事

大伴家持(『万葉集』第20巻第4516首)

日本史を代表する和歌集である『万葉集』。学校の歴史の時間に誰もが一度は耳にするこの歌集の最後は、編纂者である大伴家持のこの歌で終わる。この歌そのものは結構有名だし、今の言葉にも近いので意味は取りやすいと思うが、「新年を迎えて、今日降り積もる雪のように、めでたいことが重なっていけば良いなあ」という、なんとも余韻を残す歌である。歴史的な歌集である『万葉集』に収められる4500を越える歌の最後に、未来への祈りを込めた歌を持ってくる大伴家持のセンスというのは、どこまで非凡なのだろう。あなたはこの歌にどんな景色を思い浮かべるだろうか。これは終わりを示す歌でもあり、始まりを示す歌でもある。何かの終わりは、次の始まりにつながっている。それは諸行無常ということでもあるし、また新しく何かを作り出せるチャンスでもあるということだ。
さあ、今年もJリーグが開幕する。昨シーズンの終わりは、この日に接続される。僕たちの奈良クラブの開幕戦の相手は福島ユナイテッドFC。相手に不足なし。決戦の地はロートフィールド奈良だ。

日曜日の開幕戦を迎えるにあたり、金曜日から各チームの試合を見れるだけ見た。前評判通りの試合で確実に勝つチームがある一方で、下馬評を覆すような内容の試合が多かったように思う。例えば多くの方がご覧になられたであろうガンバ大阪とセレッソ大阪の「大阪ダービー」は、2−5でセレッソの勝利に終わった。おそらくここまで点差が開く展開、しかもセレッソの勝利を予想した人は少なかったのではないだろうか。ガンバは昨年からの継続から上位を予想する人も多かった。翻ってセレッソは監督の交代や選手の入れ替わりもあり、どれぐらいやれるのかが未知数な部分も多かったように思う。おそらくそれは選手自身も感じていたように見えた。きっとセレッソの選手たちは(監督やスタッフも含めて)不安だったのではないだろうか。準備というのは、ちゃんとすればするほど「これで結果が出なかったらどうしよう」と不安に苛まれる。その不安を逆にエネルギーに変えて「前へ、前へ」とボールを押し出す圧力はかなり強烈だった。戦術云々ではなく、彼らの勝因はここにあると思う。この後セレッソが同じような試合ができるかどうかはわからないが、少なくとも開幕戦というのはこうした「感情のブースト」ともいうべき、他の試合にはない要素も絡んでくる。加えて観客の熱気がどのスタジアムもものすごい。「この日を待っていたんだ!」というサポーターの熱さも、開幕戦では見逃せない要素だ。前評判どうのこうのではなく、この特別な試合を特別な雰囲気にすることができるのか。サポーターの応援がもっとも選手に関与できる試合の一つが開幕戦と言っても良いかもしれない。


立ちはだかる相手、福島ユナイテッドFC

福島ユナイテッドについておさらいをしておこう。基本布陣は4−3−3だが、フリアン時代の奈良クラブとよく似ている。違うのは前線のサイドは張り出すというよりもバランス重視。全体をコンパクトに保ち、パスコースをたくさん作ろうとする意図が見られた。中盤もフラットに並び、ポジションチェンジを繰り返しながら進んでいくというよりも、自分の任されているエリアをきちんと持った上で、全体で前進する。こうすると、ピッチ上にほぼ均等に自軍の選手を配置することができるので、うまく回れば「見ないでもそこに誰かいるのがわかる」という共通認識でプレーすることができる。言い換えるなら、選手個人の能力が問われる「認知」の部分について、チーム全体で個人の負荷を下げようという狙いだろうと推測する。いわゆる攻撃の再現性であったり、非保持のときの立ち位置であったりというゲームの根幹部分をしっかりと持っているということだ。ゆえに、こうしたチームを相手にするは非常に厄介である。彼らの整然としたフットボールを打ち崩すためには、相手の予測を上回る”何か”をピッチに持ち込み、混沌を生み出さなければならない。それが個人での局面の打開なのか、チーム全体の戦術なのかが試合全体での見どころとなる。
なお、こうした視点で昨年の対戦を振り返ってみると、アウェーでの対戦は完全に相手の整然とした布陣にやりこめられての1−2での敗戦。奈良での試合は集中豪雨もあって沼のようなピッチでの死闘となり1−1で引き分けだった。特に奈良での試合は、ボールが全く転がらない状況のなかで福島の良さが消されたことが、奈良クラブにとっては吉と出たように思う。それでも福島は強かった。前半から奈良クラブはかなり押し込まれたし、後半雨足が弱くなりボールが転がるようになると、しっかりとパスを繋いで同点打をあげている。

昨年との変化でいえば大関、塩浜という2人のエースの離脱だ。ただ、基本的に彼らのチームの方針としては「誰が出ても同じようなプレーができる」ことを目指しているので、チームとしては痛いはずではあるがチーム力が劇的に下がるかと言われると否である。プレーオフまで進出したチームだ。そういった要素から弱体化したと考えるほど彼らはひ弱ではない。むしろ別のストロングポイントをしっかりと出してくるはずである。

対する奈良クラブは中田一三監督体制となり、初めてシーズンの最初からの指揮となる。オフシーズンはタイでのキャンプでかなりフィジカルを鍛えているように見えた。選手たちの季節外れの日焼け顔に、キャンプがどれだけタフなのもであったかが窺い知れる。シーズン前のトレーニングマッチの情報がほとんどないなかでの開幕戦。バス待ちを終え発表された先発メンバーは以下の通りとなった。

パッと見ただけでは選手の並びが想像できない布陣である。3バックなのはわかる。ただ、右ウィングバックに吉村は当然として左は誰だ?新加入の川谷か?それとも都並か?山本と戸水の立ち位置はどちらが前になるのだ?などと考えてたが、要は試合が始まればわかることだ。変な詮索はなしにして、試合開始を待つことにした。

前半:不安・期待・興奮

開幕戦のスターティングイレブン

では、早速試合の話に入ろう。
奈良クラブのサプライズ、その1は戸水選手の2シャドーでの先発起用だろう。大学卒のルーキーを早速起用する中田監督。このポジションは激戦区なのだが、大抜擢と言っていい。山本は一列下げてセントラルミッドフィルダーに。そして横に並ぶのは、なんと都並だった。これがサプライズその2だ。
この試合の都並の出来については、賞賛する声が多かった。慣れないなかでよく戦っていたと思う。ただ、彼の役割はセントラルミッドフィルダーというよりもストッパーに近い印象を受けた。というのは、あまり隣に並ぶ山本との関係性が見えなかったからだ。おそらく、相手がボールを持っている時のプレスを掻い潜られたあとのカバーリングというのが、都並に与えられたタスクだったように思う。かなり泥臭い、ハードワークを求められる仕事だ。昨シーズンの終盤ではセンターバックの一角としてビルドアップにかなり積極的に参加していた都並だが、この日の役割は全く違うものだった。
また前線は百田を頂点に、岡田優希と戸水だ。面白いのは、相手がボールを持っているときはこの三角形を逆にし、岡田と戸水が相手のセンターバックにプレスに行き、百田はアンカーを務める針谷を消しにかかる。ちなみに、この福島の最終ラインと奈良クラブの前線の攻防がこの試合の軸である。ここを切り抜ければ福島のチャンス、ここでボールを奪えれば奈良のチャンスというのがこの試合の主旋律だ。福島は自陣ゴール前でも怖がらずにパスを回し奈良クラブのプレスを掻い潜ろうとするし、奈良クラブはそこに自分たちの形を変えながらもボールを奪いにかかる。互いに主導権を握ろうとする両チームの攻防はかなり見応えがあった。

試合が動いたのは前半の10分だ。奈良クラブが福島陣内の深いところでファールし、フリーキックで再開。そこにもプレスに行く奈良クラブだが、福島は中盤を省略し一気に前線に蹴り出す。これを繋がれて、福島の左サイド9番清水が鈴木と一対一の局面に。ペナルティエリアに侵入し振り抜いたシュートはゴール右隅に突き刺さる。見事なゴールで福島が先制する。
このシーンに限らず、前からプレスに行く奈良クラブはその代償として後ろの3バックは3トップと同数で対峙することを迫られる。これの負荷を下げるためのボランチ都並だったと推測するが、これだけリスクを明確にとりながら前からボールを奪いにいく奈良クラブはなかなか見たことがない。
しかし福島の勢いはこれにとどまらない。ここから自慢のつなぐフットボールを展開。奈良クラブを自陣に釘付けにすると、針谷は森に絶妙なタイミングとスピードのパスを出す。ボールを受けた森を都並が倒してしまいフリーキック。この位置はボールを落とす距離も十分にあるので、壁をギリギリで越えさえすればゴールが決まるという絶好の位置だ。樋口が蹴ったシュートはやや奈良クラブの選手に当たったように見えるが、それでもブロックするには及ばすにゴールに吸い込まれる。福島追加点。前半15分で0−2というスコアに、スタジアムには暗雲が立ち込める。
そこからもしばらくは福島ペースで試合は進む。その中心にいるのは針谷だ。とにかくボールが取れない。奈良クラブが2人3人とプレスをかけに行っても飄々と交わし、前線にボールを供給する。かつてアヤックスが快進撃をしたときのフレンキー・デ・ヨンクを彷彿とさせるプレーには、敵ながら見惚れてしまうほどだった。『エル・ゴラッソ』の選手名鑑によると身長は166cmで体重は56kg。僕とほとんど変わらない体格のこのテクニシャンは、身体を寄せられてもバランスを崩さず、ほとんどのプレーを成功で完結させていた。おっと、見惚れている場合ではない。彼をどうにかしなければいけない。

徐々に押し返し始める奈良クラブ。これは奈良クラブの両サイド、吉村と川谷の立ち位置の変化がきっかけだ。2点リードされたことで「バランスも何もない、とにかく得点だ!」とかなり高い位置をとる両サイド。これに狩野や城定が引っ張られはじめ、針谷の両サイドにスペースができ始める。岡田や戸水はここにポジションを取り、彼の脇でボールを受けて攻撃を展開することで、奈良クラブは前進の糸口を見つけ始める。そして、勇気ある前進を後押しするバックスタンドの応援「アッコの舞」。なにかが起きそうな雰囲気がでてきたところで、岡田優希のゴールが決まる。
とにかくこの試合はピッチの縦幅と横幅の陣取り合戦をしているので、振り返ってみると「そんなところからか!」というようなことが多い。このゴールも最初はゴールキックからだ。自陣でボールを繋ぐ奈良クラブに相手が前からプレッシャに来るが、そうするとウィングバックの川谷がフリーになる。前を向いた川谷と針谷を追い越しながら前のスペースにボールを要求する岡田。裏のスペースを突かれた針谷は岡田に追いつけない。岡田はそのままドリブルでペナルティエリアに持ち込み、相手と交錯しながらも執念でゴールへと捩じ込む。彼らしい「ここしかない」というタイミングでのシュートが決まって1−2。
奈良クラブはさらにゲインをあげる。前の3人の逆三角形だけでなく、ウィングバックもプレスに参加。後ろの同数を引き受けた上で、かなり前がかりにプレスをかけボールを奪いにいく。ボールホルダーに2人3人とどんどん圧力をかけてボールを奪い、その勢いのままゴールに迫るか、キープから針谷の脇のスペースを狙う。同点打につながるコーナーキックの前のプレーは、針谷の右脇のスペースに戸水が入り込み、そこから展開したプレーだった。ここのボールを差し込まれると福島としては全体がボールよりも後ろに回り込むような守備陣形を取らないといけないため、対応が必ず後手になる。奈良クラブの勇気ある戦術が同点打を導いた。
普段キッカーを務める中島がベンチなので、この試合のキッカーは岡田優希が担当。ゴール前では楕円を描くようなポジションチェンジからフリーになった鈴木と都並が飛び込み、これが都並にドンピシャのタイミングでヘディングシュートが突き刺さり、奈良クラブが同点に追いつく。チームとスタンドを全身で鼓舞する都並選手。スタジアムのボルテージは最高潮だ。このまま前半は終了するが、「今年は何かが違う」という姿を45分で見せてくれた。終了のホイッスルとともに、湧き上がる歓声と拍手。まだまだ、これからだ。これは期待するしかない。目指すは魂の震える2点差の逆転劇だ。

後半:ゲーゲンプレス!!

後半開始から奈良クラブメンバーチェンジ。戸水に替えて國武を投入する。「前から奪いにいけ」という明確なメッセージだ。おそらくこの交代はある程度想定していたものと推測するが、2−2というスコアは予想外だったように思う。國武のタスクは針谷を自由にさせないこと、脇のスペースでボールを受けて全体を押し上げること、そしてゴールを決めることだ。
後半に入っても奈良クラブのプレッシングの強度は変わらない。むしろ國武が入ったことでさらに強度を上げていく。特にこの試合のMVPは國武ではないだろうか。45分間の出場のなかでかなり強烈なインパクトを残した。もともとボールを追うのがうまい選手なのだが、今年は追い方に凄みがある。おそらく初速の速さが上がっているからだろうが、明らかに彼が寄せてくることを相手が嫌がっているのが感じられた。また、ボールを受けてからキープ、パスまでをしっかり完結できるので、攻撃面でも上積みが見られる。「そのうち個人昇格する選手の筆頭」として名前の上がる國武だが、それはもうすぐそこまで来ているのかもしれない。これで得点を取り出すと手がつけられなくなりそうだ。
フットボールというスポーツは、基本的に陣取り合戦なのだが、「ゴールを守る」ということにおいては三つの手立てがある。本当はそんなに単純に分けられるものではないが、わかりやすく言うと「人」「場所」「ボール」のどれを優先的に守るのかというところで、そのチームの守備戦術を見とることができる。昨年の奈良クラブは基本的に「場所」を守る戦術であった。「人」を守るというのは、いわゆるマンツーマンディフェンスのことだ。ヨーロッパでは「場所」によって攻めも守りも主導権を握ろうとする「ポジショナルプレー」というものが出現し、これを完璧に世界中に示したペップ・グアルディオラ率いるバルセロナが席巻したのち、カウンターカルチャーとしてユルゲン・クロップがドルトムントやリバプールで「ゲーゲンプレス」なる戦術で新しい価値観を示す。これが「ボール」を守るという戦術だ。もっとも、「ポジショナルプレー」も「ゲーゲンプレス」もその起源を辿っていくと74年ワールドカップのヨハン・クライフとオランダ代表に行き着く。このあたりは話があまりにも長くなるので、ここでは「ゲーゲンプレス」にだけフォーカスしよう。

名解説者の林氏がかなり的確に解説してくれている動画を共有する。この日の奈良クラブの戦術が、対福島だけの特別な戦術なのか、通年で実践するものなのかはまだわからない。しかし、ここで出される「即時奪還」という言葉は、今年の奈良クラブを象徴する言葉になりそうだ。後半が進むにつれて、奈良クラブはさらに福島を追い込むべく、より徹底した前線からのプレスを敢行することになる。

吉村も中盤に絞り、ボールを奪いにいく。その代わり、大外の選手はフリーになり同数対応。

不親切な図で申し訳ないが、後半の半ばあたりから吉村までも中盤に絞り、ボール奪取に参加するようになる。完全に相手のバックラインと数を合わせ、前を向かせない圧力をかける。基本的にここは酒井、國武、吉村でボールを取り切るという前提の立ち位置のため、ここから展開されるということは想定はしない。ただ、ここを切り抜けられると福島のビッグチャンスになる。特に吉村が中に絞るので、その裏にはかなり広いスペースがあり、ここを鈴木が1人でカバーすることになる。加えて、ここにボールが出てくるということは、ボールホルダーともう1人という数的不利のなかで1人で2人の相手を対応せねばならないため、かなり難しい。鈴木は後半何度もデリケートな対応を迫られていた。無失点で乗り切ったことの意味は大きい。
しかしながら、ハイリスクだが「自分たちでゲームを動かすんだ!」という強い意思を感じるプレーの連続に、かなりワクワクしたのは僕だけでないはずだ。後半は最終的に得点は動かなかったわけだが、前半よりもチームの可能性を感じることができた。もちろん、まだ連携の面でも改善すべきところはあるだろうし、ロングボール一発でやられる場面も出てくるだろうが、これだけ明確に「自分たちのやり方はこれです!」と見せつける奈良クラブは一体いつぶりだろう。このフットボールは一見の価値がある。特にフットボールが好きな人ほど「一回観に行こうよ」と自信を持って誘うことができるものだ。シーズン開幕前の展望で「インテルをお手本にしている」と書いたが、これは訂正しなければならない。この奈良クラブが目指すのはクロップが指揮し、香川がいたころのドルトムントだ。

話を試合に戻そう。奈良クラブのゲーゲンプレスに福島も黙ってはいない。大外が空いていることはわかっているので、最初のプレスを素早く剥がすと、サイドにボールを展開し奈良クラブのゴールへと迫る。70分前後は福島にチャンスもあり、この試合がどう終わるのか全く予想できないものだった。全くのイーブン。
奈良クラブは選手交代で試合を決めにかかる。酒井、中島と投入し中盤と前線を活性化させる。フレッシュな選手を入れることで圧力は上がり、酒井が針谷のボールを掠め取ると、國武がサポート。一気に福島のゴールへと迫る。絶妙のタイミングで岡田へパス。左足を振り抜いた瞬間、決まった!と立ち上がった僕だが、ゴールキーパー吉丸に阻まれてゴールならず。天を仰ぐメインスタンドの人々と岡田優希。なんて試合だ。
さらに勝負をかける奈良クラブ。神垣とともに田村翔太を投入。シュートの意識を高くもて、というメッセージだ。このタムショーこと田村選手。これだけ熱量の高い試合に途中出場という難しい役割でもすぐに試合に入っていくことができる。この試合のテンションにアジャストできるというのは、これからがとても楽しみな選手だ。
86分には酒井の即時奪還のチェイスからその田村へボールが渡る。ドリブルでゴールへと迫り右足一閃。これも決まったか!と思ったがポスト直撃でゴールならず。最後の最後まで勝利を諦めなかった両チームの戦いは、2−2で引き分けという結果で終了した。

一握りの自信を胸に

試合後のインタビューは都並が登場した。話した内容というよりも、彼の表情に注目してほしい。目をギラギラと輝かせ、勝利に飢えている顔をしている。そして、自信に満ちた晴れやかな表情である。彼の佇まいが全てを物語るのかもしれない。もちろん、勝利を飾ることができれば言うことなしであったが、それでも「自分たちはやれるんだ」という手応えを掴むには十分な試合だった。

試合終了後のサポーターの皆さんの表情も、一様に晴れやかだった。「15分で2失点したときはシーズンが終わったと思った」と皆が言っていたが、そこから同点まで持って来れたこと、逆転まであと一歩まで迫れたことは、この試合だけでなく今シーズンを見据える上でも自信をもてる内容だった。
思えば昨年の奈良クラブは追いつかれることはあれど、追いつくことは少なかった。昨年、何度悔しい思いをしたことだろう。開幕前にスペースで話したことに、奈良クラブの見どころとして「殴り合いができること」を上げたのだが、最も課題だと思っていたところにこれだけの戦う姿を見せてもらったのだから、これは期待するしかない。
新加入の選手たちも上々の内容だった。奥田選手は流石のプレーで、随所に彼がどんなプレーが得意なのかを示してくれた。川谷選手は試合を通して運動量が落ちずに、サイドを走りまくっていた。ドリブルのキレもあり、これまで奈良クラブにはあまりいなかったタイプの選手のように感じる。戸水選手は、そもそもがJリーグ初出場だったわけだが、そうとは感じさせないプレーぶりだった。相手が福島でなかったらもっと良いプレーが出たのではないだろうか。初戦にかなりタフな相手と対峙したなかでも、キックの精度やポジショニングの良さといった彼の特徴を見出すことができた。
他にも、リーダーとしての風格が板についてきた岡田優希や、この日も安定したセービングの岡田慎司(失点は二つとも神様でも止められないものだった)、ゴールへ始まる気迫が昨年とは比べ物にならない百田、野性味あふれるプレーでチームを牽引した吉村など、書き出せばキリがないほどに明るい兆しをみることができる。試合終了後すぐに次の試合が楽しみになるなんて、こんなに幸せなことかと思う。

さあ、今シーズンも旅が始まる。いきなり嵐に見舞われたけど、なんとか切り抜けてまずまずの船出をした僕たちの奈良クラブ。順風満帆とはいかない時期もこれから必ず出てくるだろう。座礁寸前の事故もおこるかもしれない。それでも、最後どこに着こうとも、この旅に価値があったといえるような、そんな一年の旅にしたいと思う。「どれだけ劣勢でも前を向くことをやめてはいけない。」この日の奈良クラブのプレーぶりは、そんな人生の基本的なことを改めて教えてもらったように感じた。もちろん不安はあるが、自信というのは一握りくらいがちょうど良いのかもしれない。一握りの自信をそっと胸に忍ばせながら、積み重なる1試合1試合の記憶を大切に記録していこう。

おまけ:海龍王寺に行ってきたよ

この日は開幕戦ということもあり、必勝祈願にロートフィールドからすぐの海龍王寺に行ってきました。住職さんも奈良クラブのことをご存知で、「これからスタジアムに行かれるのですか?」と声をかけていただきました。年末に購入した奈良クラブの福袋に御朱印帳がありましたので、御朱印もいただきました。これからはこういうのも含めて観戦を楽しんでいこうと思います。

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