日本国憲法とMMT その2

前回のノートを書いていたら, その直後にTwitterで, 非難する人が現れました...やっぱりね, という感じです(笑)

さて, ここでは, COVID-19や大災害などで, 人々の「生存権」が脅かされているという現実を, よりどころにして, MMTと日本国憲法とを論じていきたいと思います.

1 生存権とは? また労働の権利・義務とは?

まずは日本国憲法を確認します

第二十五条【生存権、国の生存権保障義務】
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

なるほど. この記述によれば, 国民には生存権の権利があり, 国はその権利の保障をするという義務があるということが読み取れますよね. 書いてて嫌になってきましたよ. だって今の日本の政府対応って, この観点からするだけでも, 憲法違反を犯しているんですもの, あるいは, 犯している可能性が濃厚であると言えるのだもの...

また, 日本国憲法では「労働の権利・義務」という項目があるので, それも確認しますね.

第二十七条【労働の権利・義務、労働条件の基準、児童酷使の禁止】
1 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律(労働基準法)でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。

ここで確認したいことは, 日本国憲法においては, 全ての日本国民に, 勤労の権利と義務があるということになる. 間違っても権利だけだとか義務だけだとか思ってはならない. あとは, 権利が先に来るということも決定的なのですが, これはMMTの説明で効いてきます.

以上をまとめるとこのようになるでしょう.

「法律の定めるところによって定められた日本国民の全ては, 生きる権利があり, また, 同時に労働する権利と義務を, 権利が先であるという形で有している」

この話とMMTを繋げるのが次節です.

2 MMTとは?

 MMTの名付け親である, ビル・ミッチェル教授の, MMT説明を聞いてみることにしよう.

「諸原則と語法

その諸原則は以下のようなものだ:

1. 政府とは我々だ!

2. 政府は我々の代理人であり、あらゆる代理人と同様、我々が政府に対して資源と裁量を割譲する。なぜなら、我々は各々個人では達成不可能な便益を政府が創造することが出来ると信頼するからである。我々は規模というものを理解している。

3. 政府は、必要不可欠なサービスを提供することにより我々現役の世代の幸福に資する。収益は不必要。

4. 政府は、数十年に渡ってサービスを提供する生産的なインフラの建設を通じて、将来世代の幸福に資する。

5.私たちは政府にこのユニークな権限を与えることによって、制約に直面することなしに関心を追求できるようにしている。

6. 我々にとっての赤字は、その原資を見つけなければならないものだと理解されている。ところが、我々の代理人である通貨発行権付き政府にとっての赤字は、私たちの消費・貯蓄選択の原資となるものなのである。

7.政府の赤字が私たちの自由を強化する。所得を増やし選択肢を増やすからだ。」(https://econ101.jp/%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%83%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%80%8C%EF%BD%8D%EF%BD%8D%EF%BD%94%EF%BC%88%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E9%87%91%E8%9E%8D%E7%90%86%E8%AB%96%EF%BC%89%E3%81%AE%E8%AB%96/)

実は, MMTの説明はこれで尽きているのです. あとはそれを「具体的」しようと思った時に出てくる装置が, そう!就業保証プログラム(以下では, JGPと略記する)なのですよー. どういうことか, 説明します.

3 JGPとは?

ランダル・レイ教授の『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)によれば

「就業保証プログラムは, 働く用意と意欲がある適格な個人なら, 誰でも職に就けるように政府が約束するプログラムである. 中央政府は, 統一された時給を福利厚生と共に提供する共通プログラムに対して資金を拠出する(中略). このプログラムは, パートタイム労働や季節労働のみならず, 要望に応じた柔軟な労働条件を提供可能である. 福利厚生を提供するには議会の承認が必要だが, 医療, 育児, 老齢年金などの社会保障, 通常の休暇・病気休暇を含めることができる. 最低賃金が法律で定められるのと同様に, プログラムの賃金は政府によって設定され, 政府が引き上げを承認するまでは固定される」(邦訳409ページ.)

なるほど. この説明には, 今の巷でのJGP理解からすると, 何点か補足説明が必要であると判断するので, いかにそれを試みます.

まず, JGPは共産主義だなどという頓珍漢な批判に対しては, 「働く用意と意欲がある適格な個人なら」という表現を与えよう. つまり, 政府が強制的に個人を雇うことは決してしないのである.

次に, JGPが用意する仕事は何だ, 政府が決めるのか?という, 割とマシな, しかしピントのずれた批判については, 「 中央政府は, 統一された時給を福利厚生と共に提供する共通プログラムに対して資金を拠出する」という言葉を与えよう. つまりですね. 政府は仕事を用意するというよりも, 用意された仕事に対して資金を与えるというものなのです. いいですか!

さらに, JGPによって既存の社会保障が消えてしまうのではないか?と思われた人に対しては, 「福利厚生を提供するには議会の承認が必要だが, 医療, 育児, 老齢年金などの社会保障, 通常の休暇・病気休暇を含めることができる」という言葉を与えよう. つまり, JGPと既存の社会保障は対立しないのです.

はたまた, 最低賃金は一度決めたら動かせないのでは?とする批判に対しては「最低賃金が法律で定められるのと同様に, プログラムの賃金は政府によって設定され, 政府が引き上げを承認するまでは固定される」という言葉を与えよう. つまり, 政府が柔軟に決定を何度もすることができるのである.

4 結論つまり, 生存権並びに労働の権利・義務とJGPの関連

お分かりになっただろうか.

日本国憲法によって保証された権利あるいは義務を, この文脈で(この論考の趣旨という意味)真に果たそうとすれば, 必然JGPは必要であることが言えるのだ. つまり, JGPは, 日本国憲法の文脈では「勤労の権利保証を国家が責任を持って行う制度」と言い換えることができるのです.

ちなみに, 景気がよく, 政府が仕事を用意していても, その仕事をする人がゼロであるということであれば, JGPの利用者はゼロであるが, MMTはそれも許容する. 従って, JGPは決して, 民間の仕事を奪うものではあってはならないし, そもそもそのようなことを狙っていないのである(狙っているとすれば, いわゆる「ブラック企業」と言われる企業の間接的な撲滅はあり得ます)



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