vol.4 供給過剰の時代に考える、正しい売り方、買い方とは何だろうか。
vol.3でも触れましたが、過去20年の間で、日本で大きな成長を遂げたのは、業態問わず「安さ」を売りにした店舗でした。
成長を牽引してきた小売業の多くは、SPA(製造小売り)というスタイルで、中間業者をできる限り排除し、また大量に生産することで商品原価を下げ、販売価格を下げることに成功しました。
私たち消費者は、安さの恩恵を享受してきた一方、その裏には、売れ残った商品が多く廃棄されてきた事実があります。また、私たちは、安いことを理由に、安易にものを買い、安易に処分することが多くなったのではないでしょうか。
事実、家庭に物品が充足していなかった高度成長期とは異なり、この20年は、既にものは充分満たされていたにも拘らず、一品単価は下がる一方で、物量は増加していった傾向にありました。
不要なものが増えた結果、それらを循環させようとメルカリをはじめとした中古品の流通市場が拡大していますが、このような大量生産、大量消費の流れにより、一次流通におけるものの消費期限(市場に投入されてから、寿命を終え衰退するまでの期間)がとても短くなりました。
加えて、ものの消費期限が短くなったもうひとつの要因に、トレンドがあります。毎シーズンのトレンドはニュースになるうえ、「目新しさ」は消費者に購買動機を与えますから、積極的にトレンド性のある商品が販売されます。
一方、トレンド性の高い商品には、消費期限の短いものが多く含まれます。
翌シーズンに売れる可能性が低い商品は、値下げしても期中に売り切り、売れ残った商品は廃棄処分する必要があります。変わらず使える商品が、勝手に定められた「消費期限」で価格が変動し、売り切ることができなかったものは処分されていくのです。
皆さんがよく目にする限定値下げやタイムセールは、私たちの購買意欲を刺激します。
しかしながら、企業側の売価は、値下げによる損失を想定して設定されていることが殆どです。限定値下げやタイムセールはもちろん、トレンド品の値下げロスはある程度考慮して、値付けがなされています。
すなわち、私たち消費者は、実のところ、企業側の値下げによる損失を補填した売価で商品を購入しているのです。そして、このことは、売上至上主義による供給過剰が招いた結果に他なりません。
コロナをきっかけに環境への意識が高まる中、供給過剰の時代が終焉へと静かに動き始めたのではないかと思っています。
安さばかりが評価された時代は、たくさん消費する時代だったからこそ。正しい量が生産され、正しい量が消費される世の中へと動き始めると、価値観は多様化すると信じたい。
供給過剰の時代に、正直な商売とは何だろうと考えました。
先ずは、トレンドに左右されない、変わらない価値のある良品を取り扱うこと。それを、値下げや廃棄をしない前提で、正直かつ適正に値付けすること。
弊社は、イタリアで生産を行っていますが、私は、ラグジュアリーブランドの利益率は高過ぎるという思いがあるので、その点も配慮し適正に値付けをしています。
値下げは、売上を誘引する施策でもあるので、商売知らずのバカだと言われそうですが、それでも、必要としていただける方に利用していただけたらそれで良いと思っています。
では、次に、消費者側の視点で、この時代に正しい買い方ってどんなものでしょう?
最近、食べ残しの野菜で生地を染色したお洋服など、エコがトレンドになって新しい商品が出始めています。もちろん、それ自体も環境を配慮する形のひとつなのかもしれません。
ただ、個人的には、特に身につけるものや住環境を含めて身の回りのものであれば、ワクワクする高揚感を大切にしたい。
安くなってるから買う、トレンドだから買う、誰かが持っているから買う、ではなく、自分の意思で長く大切に使えるものを選ぶ。エコだからと高揚感を犠牲に購入し続けるよりは、少ない量で良いものを大切に使う。
環境への配慮は、無駄な消費はなかったかの見直しや、購入前に長く大切に使えるかどうかを考えてから買うことでも、できると思います。
ものが充足しているのに、安さで購買数量が圧倒的に増えている時代。
意思を持って買う、自分のスタイルを持つ。
ここからでも、環境に優しい世の中をつくることができるのではないでしょうか。