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【音楽のこと】「隣人もまだ起きている」

地下鉄に揺られながら、これを書いている。
久しぶりのライブの帰り道だ。

豊洲PITで行われた、又吉直樹×秦基博「隣人もまだ起きている」。

このライブの存在を教えてくれたのはGoogleだった。
私が本や本屋のこと、そして好きな音楽についてあれこれ調べていたからだろう。
このライブの開催をお知らせしてくれた。
情報社会の恐ろしさを垣間見た気もしたが、ちょうど休みの日だし、始まる時間も17時で早めだし、何より好きなお二人が同じステージに立って、どんなライブが生まれるのかを体感したくて、チケットを取った。

又吉さんは、サルゴリラ児玉さん、パンサー向井さんとやられているNHKラジオ「あとは寝るだけの時間」を毎週欠かさず聴いていて、勝手に親近感を持っている方だ。一つひとつの言葉や行動に、幾重もの思いやりやこだわりを込める方、と、これも勝手に思っている。

秦さんは、大学生のときファンクラブに入っていて、ライブにも何度も足を運んだ。当時、その繊細だけれど力強く、そしてあたたかみのある歌声は、「ガラスと鋼の歌声」と言われていたと記憶している。十数年ぶりに生の歌声を聴く機会に恵まれるとは。有難い。

ライブの数日前からそわそわし始めて、何を着ていこうか、何時に出発しようか、あれこれ考えて、ドキドキして。遠足の前の小学生みたいに。

ライブも久しぶりだが、着席ながらもライブハウスという場所が久しぶりだった。「ドリンク代」って、何年ぶりに聞いたかな。

ライブは、又吉さんの朗読と、秦さんの弾き語りが折り重なるような構成になっていた。

又吉さんが秦さんのことを書いた文章の中に、好きな人が秦さんの「アイ」を勧めてくれたのに、秦さんの曲を聴きこむうちに「君とはもう出会えない」が気に入り、別れの曲である「君とはもう出会えない」について好きな人の前で熱弁してしまった、というエピソードがあった。

「君とはもう出会えない」って、たしかに「もう出会ってしまったんだから、二度と”出会う”ことはできないんだ」と思うと、めちゃくちゃ切ない。そういうところをつかみ取れる感性の素晴らしさよ。

そんなことを思っていたところに秦さん登場。
ギターが鳴れば、もうそこは秦さんの世界。
一気に空気が変わって、引き込まれてゆく。

個人的な感想だけれど、大学生の時に観ていた秦さんと、最上級のいい意味で1ミリも変わっていなかった。
儚くも力強くて、優しくてあたたかい、人柄そのままの歌声。素人目に見てもうますぎるギター。MCの雰囲気も、楽しそうな笑顔も、そのまま。
変わらぬように、変わり続けているのだと思う。

朗読では、又吉さんの持つ言葉の広さを感じた。笑いを交えて初キスのエピソードを披露したり、SFだけど人が人を思いやることのあたたかさを描いた物語を朗読したり。経験を語る切り口の面白さ、実直さ。フィクションの、細かな設定と血の通った登場人物たちの描き方。聴きながら感動していた。

最後の「太陽のロザリオ」は圧巻だった。
朗読と音楽が交差する瞬間に立ち会った。
コラボとも融合とも違う、違う方向からやってきたけれど、ある点で交差して、またすっと分かれていくような、その接点を見たような気がした。


こんなに語れるライブも久しぶりだった。
すでに家に着いて、ソファーに座って書き終える。

明日も、「いつも通り 日々へ ドアを開けよう」。



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