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「ここにいたのに」

短いお話です。

中学3年生の時の話です。
クラスで仲が良かった友人TとYと、放課後好きな趣味の話をしながらなんとなく時間を潰していた時のことです。

春の終わりだったか、秋の始まりだったか。
寒くも、熱くもない程よい気候の夕暮れ時、当時小野不由美さんの「ゴーストハント」が内輪で流行っていて、その話でもちきりでした。

朧げな記憶で、確かコミックが連載されていたのか。不定期の連載に切り替わったのか。以前は「なかよし」というコミック雑誌に載っていたのですが、見なくなって数年、先輩がマンガを貸してくれたことを皮切りに私たちの中で軽くブームになっていた時のことです。

あの話、怖かったよね、と二人で丁度話していると、同じクラスのSさんが教室にやってきました。

私は嫌いではないけれどこのSさんがちょっと苦手で。

というのも、人の会話の中に無遠慮に割って入ったり、会話をしていると「私もやったことがある」「私はね」「私の場合は」「私も同じようなことがあって」と、何かにつけて話題を被せて持論を展開するタイプの人でした。

普通のやり取りをするにはいいけれど、ちょっと会話をするのが苦手。それが私にとってのSさんでした。

この日もそういうわけでゴーストハント、という心霊話を皮切りにわいのわいのとやっていたわけなんですが、Sさんは丁度Tの鞄からはみ出ていたマンガを見つけて「私も知ってる。これ、面白いよね」と話し始めました。

リアリティがあるとか、だから面白いとか、なんだかそういう話をしていたと思います。言い方は悪いのですが、「あなたの話にはあまり興味がない」ため、できれば早く話を切り上げて帰りたいなぁと思っていました。すると。

「私ね。幽霊見えるんだよねぇ」

とのこと。
TとYが顔を見合わせて、私もびっくりしてしまいました。
Sが幽霊を見えるって、初耳なんだけど。

誰も聞いていないのに、学校にいる幽霊の話をSがし始めた時、いつもならそういう話が大好きで、実は前のめりで聞く性格のTとYは呆れたような顔をしていました。Yと目が合うと、彼女は肩をすくめていたので、私と同じ気持ちだったのだと思います。

Sはこの学校は昔、墓地の一部で、隣接する小学校は火葬場だった。火葬場の上に小学校を立てたから、小学校とこの中学校はたくさんの幽霊が彷徨っていて、日が暮れると校舎を徘徊するとかなんとか、とてもありきたりな話でした。

この中学校が墓地だという話は、実父には聞いたことがなく(父はここの小中の卒業生)、そういう話は初耳でした。

また適当な噓言ってるな。
どんだけ注目を浴びたいんだろう。

私は感情が顔に出やすいので、多分見破られていたのだと思います。Sは私の方を、ちらっと見ると、神妙な顔をして教室の前の方の入口。Sが入ってきた方の扉をつい、と指さしました。

「今あそこに幽霊がいる。」
「は?」
首を傾げると、Sは自分の席にささっといって鞄を持ち、「早く帰らないと、とり憑かれるよ」と言って、教室の後ろの扉から出て行ってしまいました。

なんやのん、あれ。

勝手に会話に入ってきて、好き勝手なこと言って、彼女は何がしたいんだろ。あほらし、と思って賛同を得ようとTとYの方を見ると、彼女たちの顔がやや強張っていました。

「どうしたん」
『ここにいたのに』

ばっと右の方を振り向きました。
どうしたん、の「ん」に音がかぶる感じで、右側から細い女の子の声がはっきり聞こえました。

でも、振り返っても誰もおらず、教室の後ろのロッカーと掲示板、誰も座っていない机と椅子が並んでいただけでした。

私の左隣にはY。Yの斜め左前にTがいたのですが、声は左側ではなく、右側の。私のすぐ右耳の斜め後ろからでした。

「Mちゃん(私の名前)、帰ろ」

Tの声にハッとして、どうせ気のせいだと思うことにして、急いで下校の準備をし、教室を後にしました。

YとTは同じ方向にバス通学だったので、二人とは校門を少し歩いた先にあるバス停でお別れだったのですが、その道中、Yが重い息を吐いて私とTを見ました。

「見えんなら、見えんって言っといたほうがよかったのにね」

なんの話?とは思ったのですが、なんだか聞き返せず、二人とはバス停でサヨナラしました。

後日、特に何かあったとかはないのですが、ひとつだけはっきりと分かったことがあります。友達のYは、幽霊が本当に見える霊感の鋭い人であったことです。

中学校2年生からの付き合いになるこのYの、「本当に見える」「写真にも撮れる」という体験を聞いたのは、中学校3年生の終わりにかけてでした。

YとTとも仲がよく、それぞれの家に遊びに行ったこともあるのですが、実際にYが体験した本当にあった怖い話や、見るまでは嘘だと疑っていた「心霊写真」なども見せてもらったり、「あそこ見えない人が立ってるんだけどね」と当時、ようやく普及し始めたパカパカケータイのカメラで撮影した写真に、煙のような靄が立ち昇っていたり。

肉眼で見て、体験した不思議な経験がいくつかあります。

中学を卒業して、高校が別々になってしまい、それから疎遠になってしまったのですが、Tとは15年前に一度地元のスーパーで会ったことがあります。

田舎あるあるで、実はTとYは遠い遠い親戚関係だったらしいのですが、Yも元気にやっているという話を聞いてほっとしました。

でも、未だに謎なのは。
学校の教室で私の右横から囁かれた、妙にはっきりした「声」です。

あの時、あるいはあの後、Yに聞いてみればよかったのかな、とも思いはするのですが、やっぱり何かの気のせいだろうと思うようにしています。

声だけはっきり聞こえる体験。
多くはないのですが、まだあるので、またいつかお話したいと思います。


追記。
Sが話していた学校の跡地が「墓地」に関してですが、「墓地」ではありませんが、小学校の方が「火葬場」のような役割を果たしていた事実をこの数年知りました。町史のような文献にも記されていて、その理由が8/6日に起きたことに起因していたこともここに記しておきます。

また、私たちが隣接する小学校に行っていた当時。
この学校が元々は○○病院だった、8/6日に起きたことが原因で火葬場の役割を担っていた、という話を小耳にはさんだこともあります。(地元に古くから住んでいるご年配の方はご存じのことでした)


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石野@マクラメアクセサリー作家
天然石を極細の糸で編むマクラメクリエイター。天然石をマクラメの技法を駆使して宝石いっぱいのペンダントにしています。